全日病ニュース

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需要と供給の両面で医療が大きく変わる

【新春座談会】

需要と供給の両面で医療が大きく変わる

技能実習制度を通じて海外から介護人材を受け入れ

猪口 あけましておめでとうございます。医務技監を囲んでいろいろお話を伺おうという新年企画です。大変な時局を迎え、初代の医務技監からいろいろお教えいただき、どのようにこれを乗り越えて行くか考えたいと思います。
 診療報酬改定もそうですが、医療制度がどんどん変わって我々もついて行くのが大変です。社会構造が変化し、超高齢社会、医療費・介護費の高騰、人口減少が進む中で、医療・介護をこれからどうやって支えていくのか。当然、医療のあり方も変わっていくと思います。
●地域で医療従事者をどう確保するか
鈴木 私は需要側と供給側の両方が変わると思っています。需要側をみると、今後65歳以上の高齢者の絶対数が爆発的に増えることはないでしょう。しかし、75歳以上の人たち、もしかすると90 歳、100 歳以上の人が増えます。そういう意味で、地域の医療ニーズは変化していきます。
 今、大学病院を含めて病床利用率が落ちて、急性期の需要の伸びは止まっています。特に、平均在院日数が減っています。それだけ回転率がよくなっているわけです。2025年にかけて医療ニーズは、急性期から回復期、慢性期へシフトしていくでしょう。医療もそれに合った供給体制に変えないといけません。
 一方、供給側から見ると、将来生産年齢人口が40%減ってしまいます。今でも、看護師や介護職員の確保が大変だと思いますが、より大変になっていきます。
 まだ、大都市部は比較的大丈夫かもしれませんが、農村部など地方で医療・介護従事者を探すのは大変です。他方、地方では医療・介護職が雇用の拠点となっています。それがなくなると、自治体そのものが消滅しかねません。そういう意味で、地方における医療・介護従事者の確保が喫緊の課題です。
猪口 医療、介護に携わる人たちの働き方について伺おうと思います。看護師の有資格者は増えていますが、それでも我々は不足だと思っています。他方で、介護人材は絶対に回らなくなっている状況です。
鈴木 介護人材については、技能実習制度の在留資格に「介護」が入りました。受け入れ態勢を整え、悪質なブローカーが跋扈しなければ、ベトナムや他の良質な国と手を携えてうまくいくだろうと思います。一定期間働いていただいたら、また自国に帰って技能を伝えていただく。いい循環が生まれると思います。
 聞くところによると、中国沿海部の介護職の賃金は日本を上回っているそうです。このまま行くと、日本へは行かないよ、となりかねない。政府間もそうですが、団体単位で相手国と早く契約し、現地で最低限の日本語を覚えてもらい、こちら側も受け入れ態勢をきちんと整えて、相手国に安心感を持ってもらうことが大切です。個別の病院が送り出し側と契約を結ぶのは大変ですので、団体単位が望ましいですね。
 看護師の場合、人口当たりの看護師数でみると、決して欧米に劣っていません。つまり、養成数の問題ではない。
 生まれる人口が100万人を切っている中で、年間養成数は、医師1万人、看護師7万人と言われています。看護師をこれ以上大きく増やすのは難しい。集約化する必要があります。
 介護施設では、看護師に当直までしてもらって医療サービスを提供しなければならないところと、昼間に看護師に一定のマネジメントをしてもらって、それ以外は介護職その他で運営していくというスタイルのところを区別していく必要があります。
●7対1の見直しで看護師の需給が変わる?
中村 看護師はやはり少ないと思います。足りないので、業者に頼むと高額な手数料を取られます。しかも、雇ってもすぐに辞めてしまう場合があります。我々が医療収入を上げるために努力しなくてはならないのは当然ですが、人件費などの固定費、特に診療報酬に転嫁できない職員を集めるための費用がかさんでいます。悪質な業者も出てきています。
鈴木 労働法規の中で、職業紹介的なものをどのように縛るかの議論が必要になります。ただ、ニーズがあるところには業者は出てくるので、イタチごっこになってしまいます。
 次期診療報酬改定で7対1と10対1の入院基本料の見直しを行いますが、それとの関係で、現在7対1を採用している病院が看護師を少し減らすかもしれません。そうすると、看護師の需給が緩むことも考えられます。すでに看護師の養成ではかなりのことをやっています。後は、その看護師がきちんと行くべきところで働いているかという問題になります。
安藤 医療サービスも介護サービスも診療報酬や介護報酬で公定価格が決まっていて、それに応じて人員配置など施設基準が定められています。
 ベッド数も地域により上限が定められています。
 そうであれば、適正な利益水準というものがあるはずで、国がそれを示してほしいと思います。健康診断でも健康を維持するための正常値があるので、健全経営の正常値を示してくれれば、我々はそれを目指すよう頑張ると思います。
鈴木 病院の形態によって健全経営の正常値は変わると思います。いずれにしろ、一定の利益がないと、再投資ができないし安定経営になりません。医療経済実態調査などを通じて、病院経営の状況をきちんとみていく必要があります。
●医療機能の分化と役割分担は地域の話し合いで決める
猪口 医療の需要と供給を見通すと、急性期の集約化は避けて通れないと感じています。
鈴木 その通りだと思います。ただ、計画化された集約化と、結果として起こる集約化は全然違います。例えば、「先生の病院はこっちに特化してもらい、うちはこういうのをやりますから」と人員配置や救急車の移送を事前に話し合えば、集約化はうまくできます。
 それに対して、結果として起きる集約化とは、パタッと救急を止めた病院があり、もう一方の病院は職員の人数が増えないのに、患者だけ押し寄せてくる。そういう事態は避けなければなりません。
 地域の医療機関同士が話し合い、役割分担をして連携し、救急医療においても、輪番制や患者の状態に応じた搬送先を整理して、体制を整えていくことが重要になります。全部の病院が全部の病気に、緊急対応できる状態を維持するのは、もはや難しい状況です。
猪口 地域ごとに医療を作るのがまさに地域医療構想なのでしょうが、みんな頭で分かっていても、現実になると話し合いはなかなか難しい。
鈴木 地域医療構想調整会議や地域医療協議会で、行政が医師会や病院団体ときちんと話し合って決めてほしい。
 結局は皆さんの問題になるわけです。
 うまく連携できないと、みんなが苦労してしまう。それは明日起こらないかもしれないが、10年後、20年後には必ず起きます。
美原 国民の意識の変革も大切だと思っています。地域の会合に出席しても、地域医療構想や地域包括ケアシステムの名称を知っている人は多くありません。医療従事者は新しい動きについていこうと、これらのことを知っていますが、一般の住民は知らないので、お互いが意思疎通する上で、非常に困ることになります。国民的な議論にするには、どうすればよいのでしょうか。
鈴木 スウェーデンでは学校教育で、社会保障制度をきちんと教えているそうです。人が最期をどう迎えるか、お金のない中で医療をどう整備するかを、みんなで話し合います。もちろん正解が必ずしもあるわけではありませんが、考えることで理解が深まります。子供が考えると、親も考えます。
美原 地域住民みんなが議論する場をどこかで作ることが大事です。
●医療現場では看取りと救急の対応が難しい
猪口 医療提供体制が置かれている状況は、地域によって事情がかなり違うと思います。佐賀ではどうですか。
織田 地方はすでに現時点で後期高齢者の中でも85歳以上が増えてきています。その年代は介護が必要な人は5割ぐらいまで増えますし、軽度であっても医療が必要な人も急増するので救急車で病院に運ばれる人が高度急性期に殺到しないようにしないといけない。
 先日、2035年の「人口推計」を見ていて怖くなりました。85歳以上が1,000万人を超えるというのです。東京都とほぼ同じ人口です。今から十数年先のことです。準備をしていかないと大変なことになります。
猪口 医療提供のあり方は年齢を区切って、この年齢を越えたら対応を変えるという話ではありませんが、何か起きた時の状態如何で、どこまで医療提供すべきなのかが問われるようになってきました。
織田 難しいのは、看取りと救急が混在していることです。90歳の患者が亡くなるかどうかという時に、突然遠くに住んでいる家族がやってきて、できる限りのことをやってほしい、と要求するので現場は板挟みになってしまうことがあります。
猪口 人生最終段階における医療提供のあり方は今回の診療報酬・介護報酬改定でも出てきています。国民的議論を展開すべき時期にきています。
鈴木 本人だけでなく家族を含めて、最期をどう迎えたいのかを話し合わないと、結局のところ、できるだけやる、という方向に流れがちです。医療者はそれをなかなか拒否できません。本人と家族が、できれば書面で意志表示することが必要です。
 もう一つは、救急の10年ぐらいのトレンドを見ると、全体の搬送数は減っているのに、高齢者が非常に増えています。高次救急の窓口を高齢者が占有してしまうと、それ以外の対応ができなくなります。さらに、一度入院すると、ベッドを占有してしまうことにもなります。

全日病ニュース2018年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年7月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170701.pdf

    2017年7月1日 ... の改善向上に関する調査研究・提言③. 医師その他病関係職員のレベル向上に. 関する
    教育研修・検定・普及啓発─の. 項目に沿った事業の報告があった。無 ... (2)2017年(
    平成29年)7月1日(土). 全日病ニュース. 来年2018年は第7次医療計画、第7. 期介護
    保険事業計画の始まりの年とな. る。行政はこれまで地域 ..... の指定に関する不正取得
    の再. 発防止策も盛り込まれている。 介護医療院を創設する介護保険法改正法などが
    成立. 通常国会が閉幕、医療機関HPの規制強化や医務技監の設置も.

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年10月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/171001.pdf

    2017年10月1日 ... 回復期を選. んでも、一定の急性期の機能がある。 療養病床も一部は回復期を担う。
    地域. の中では、むしろ多様な機能を担う病. 院が必要であると考えている。 高額療養費
    制度や介護保険2号被保険. 者が負担する拠出金算定における総報 .... 厚生労働省
    鈴木康裕医務技監. 東京都保健医療計画. 第6次改定. 東京都では2013年に保健医療
    計画が. 策定され、現在は2018年からの次期計. 画の策定が本格化してきている。
    2016. 年7月に策定された東京都地域医療構. 想で示された「東京の将来の ...

  • [3] 料」 厚労省が中小病院

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2007/070501.pdf

    その中で、 中小病院を「大病院における高度な急性期を終えた後の回復期リ. ハの機能
    や、 軽度の急*性期医療への対応など地域の ..... 健康福祉局医務監の坂元昇氏(川崎
    市. 立川崎病院精神科医師)は、 消防局現 ... ただし、 介護保険にお. けるリハを実施し
    ている月にあっては、. 疾患別リ ハ医学管理非斗は算定できない。 Q20 疾“患別リハ
    医学管理科のみを算定. している患者にリハビリテ…ション総合. 計画評価料を併せて
    算定することがで. きるのか。 A 算定できない。 総合計画評価料は、. 疾患別リハ (エ)を
    届け出 ...

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