全日病ニュース

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病院の役割分担や人材確保が喫緊の課題

【新春座談会】

病院の役割分担や人材確保が喫緊の課題

医療と介護のビッグデータを連結し、質の向上と効率化を進める

●2次救急の多くを民間病院が担っている
織田 地域に密着した2次救急が極めて重要になります。そして、2次救急を背負っている病院の多くが民間病院です。地域に根差した急性期をどう位置付けるかが一番のポイントです。
鈴木 3次救急をやっている病院にとって、地域で2次救急がしっかりしているかが、死活的な問題になります。そこで途絶えてしまうと、全部がパンクして機能しなくなります。
 2次救急が民間病院に多いという話ですが、本来は、公的病院がやるべきなのです。仮にやらないなら、その公的資金を民間病院に回すことで、民間の2次救急体制を支援するべきです。
中村 本来、公的病院がやるのが筋です。公的病院に入るお金を民間に降ろすというのはできるのですか。
鈴木 自治体病院の予算は総務省が握っています。お金は病院自体に直接入るのではなく、自治体に入ります。自治体が2次救急の輪番制度をどう運営するのか、地域の問題ですから首長と話し合うことが必要になります。
猪口 これについては、今まで手がつけられない問題でした。でも、公的病院に投入されているお金は、年間8,000億円に上ります。すごい金額です。
鈴木 全日病として、しっかりと主張していってくださいね。
●医師の働き方は変化が必要 勤務時間は厳格に管理
猪口 総合医の話に移ります。高齢者は一疾患だけではなく、複数の疾患を抱えていることが多いので、総合的に診る医者を増やすことが急務です。
鈴木 そうですね。今度、専門医機構の枠組みで総合診療専門医という新しいカテゴリーができました。日本の医学部最終学年の臨床能力は他国に比べて圧倒的に劣っていると思います。早い段階で、OSCE(オスキー)やCBTが一定のレベルに達している人は、指導者の下で在学中にある程度臨床を経験したらいい。まさに総合医的な部分です。
 今、医者になるのに11年かかる。現役で入学してもほぼ30歳ですから、時間がかかり過ぎです。それを1、2年縮めれば、新しい医者が1〜2万人出てくることになります。
猪口 それは医師の働き方に連動します。医師が労働者ではない、というつもりは全くありません。ただ、他の職業と少し違う面がある。そこをこれからどう整備するかだと思います。
鈴木 昨年3月に、時間外労働の上限規制などの全体的な枠組みが決まった中で、医師の働き方に特殊性があるので、来年3月までにその取扱いを決め、施行はさらに5年後になる、という例外的な措置になっています。
 これについては、両方の考え方があります。一つは、女性医師が増えてきて、若い医師の「ワークライフバランス」の意識が50代、60代の医師とは変わってきた。今まで通りの考えはたぶん通用しなくなるだろうと思います。
 ただ、医師の場合、特に地方の救急病院に守れない基準を押し付けてしまうと、結局のところ、地域で救急をやめてしまったり、入院を止めてしまうところが出てくる。そうなると、一番困るのが患者です。その意味で、両者のバランスをどう取るかという問題になります。
 当直の取り扱いについては、救急業務で当直が夜間一人でいる時、最初から最後まで全部残業時間とみなす考え方と、実際に医療や関連業務を行っている時間だけを残業時間とみなす考え方があります。主治医制を一部見直して、分業体制で入院患者を診ていくことも必要になると思います。
 また、医局で文献を読んでいる時間や学会準備で研究している時間を時間外労働とみなすのかという問題があります。大学病院では仕事だと思いますが、一般病院の場合だと議論があり、判決も異なっています。「医療の質を高めるためにやっているのだから労働だ」と判断する裁判官もいるし、「病院長に命じられたわけではないから、労働ではない、しかも研究や学会の準備の時間は給与の中に入っていない」と主張する裁判官もいます。
 いずれにせよ、これから各病院に求められるのは、入退室の管理です。いつ病院にきて、いつ出て行ったかをタイムレコーダで管理する。それからパソコンを使っている時に、本来の業務でない、例えば、学会準備のために操作するときは、事前に申請させて業務時間から引く。そういう手続きをしないと、パソコンがオンになっていれば、労働基準局にすべて労働時間と認定されてしまいます。ドライですが、そういう管理が必要になります。
 残業時間の上限については、十分配慮しますが、救急、一部の外科、産科はそれをも超えてしまうと思います。
 最後は厚生労働大臣や総理大臣の判断になります。加えて、診療報酬で事務作業補助員を評価しているように、医師以外でできる業務を他の職種に移していくことも必要です。
● ICT やAI を医療に活用 ビッグデータで医療の質上げる
猪口 データヘルス改革やビッグデータなど医療におけるICT の活用を現政権は重視していますが、今後どのように進んでいくのでしょうか。
鈴木 医療データについては、厚労省にNDB(ナショナル・データ・ベース)があって、審査支払機関にもデータベースがあります。
 介護保険のデータベースもあり、すべてデジタル化されているのですが、それらが連結されていないために有効活用されていません。2020年度からの本格運用を目指す医療等ID がその解決策になります。
 最初は30桁ぐらいの記号を用いた認証でセキュリティの水準をかなり高めて、個人情報が漏れない対応を図ろうとしたのですが、それだと、莫大な予算が必要になるので、方法を変えました。健康保険証は世帯単位ですが、それに枝番をつけて個人が同定できるようし、結婚などで名前が変わっても、必ず個人を追跡できるようにして、各データベースを串刺しできるようにします。
 新たなシステムができれば、本人の同意とセキュリティを確保した上で、個人の健康についての生涯データを持つことができます。研究者や公的機関がデータを活用して研究することも可能です。ただしデータは集めればよいというわけではなく、費用もかかるので、利用者がメリットを感じられるものにする必要があります。
 医療機関が活用する上でも、「これは重複しているな」とか「これは無駄だったな」ということがわかって、費用を節約することができれば、メリットを感じられると思います。コンピュータに入力する手間が増えるだけなら、本末転倒になってしまいます。
 診療報酬の請求は診療の翌月の10日に一気に行っています。それに耐えられるよう回線はものすごく太くしているのですが、それ以外の期間は遊んでいることになります。それをもう少し小出しにして、最後に確定させる。あるいは審査で査定される可能性のある情報を請求前に伝えるなど、ICT を最大限活用して、請求を効率化、合理化できる工夫ができればと考えています。
 それから、健診結果とつなげることができれば、個人の行動変容につなげる取り組みにとても役立ちます。
●海外の成功事例参考に 新技術を導入
猪口 医療の質を上げることや、事務作業の省略化につなげるためにICTを活用することには賛成です。中医協でもその方向で議論が進んでいます。
 社会保険診療報酬支払基金の業務効率化・高度化計画も始まりました。
 ただ医療にICTをどこまで活用するかには懸念もあります。
鈴木 それについては、ビジネスモデルをどう構築するか、費用を誰が負担するかといった問題と絡み、これから本格的に考える必要があるのですが、他の国々の事例を参考にすることができます。
 成功した国と失敗した国があって、失敗した国は明らかに医療費の削減を目的にしていました。医療機関の協力が得られないためです。
 それに対して、医療の質や医療の生産性を上げようとした国では、結構うまく行っていて、結果として医療費を抑制できる場合があります。我々としては、こちらの道を行きたいと考えています。
猪口 技術の進展は日進月歩です。医療界の外では、様々な試みがありますが、現実的にどのような技術が医療・介護現場に導入される状況でしょうか。
鈴木 介助者が装着して使うことで腰の負担を軽減する介護ロボットなどはありますが、医療・介護は労働集約的でインタラクティブなので、他の業界と比べると、まだ少し時間がかかるかもしれません。ただAI(人工知能)については、病理や放射線の画像診断でかなりの水準にまで達しています。例えば、病理医がいない病院での対応や、人間の目とAI の目でダブルチェックをすることで、ミスを少なくすることもできるでしょう。
猪口 本日は、病院が直面する様々な課題について聞くことができました。どうもありがとうございました。

全日病ニュース2018年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

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  • [1] 第4章 医療圏:「病院のあり方に関する報告書」(2015-2016年版):主張 ...

    https://www.ajha.or.jp/voice/arikata/2016/04.html

    原則的には、東京においても、現状での各機能別病床数を確認したうえで、疾病調査
    から想定される必要病床数を計算し、各区の救急体制、高度急性期/ 急性期/ 回復期/
    慢性期病床の実情と対比して大枠を決定し、日常生活圏の状況も加味して調整すべき
    である。しかし、東京では、これまでの基本自治体人口規模から規定(30万人)された
    医療圏では面積が非常に小さくなるので、このような圏域での「地域医療構想」
    における各機能別必要病床数の決定に際しては、単に人口割りの考え方を取るのでは
    なく、通院 ...

  • [2] 4 疾病・5 事業に関する調査 報告書

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/other/110218_1.pdf

    第 5 次医療法改正. 2-2. 4 疾病・5 事業の定義. 2-3.4 疾病・5 事業毎の医療体制の
    整備. 2-4.4 疾病・5 事業と診療報酬. 3.調査 1「各都道府県における 4 疾病・5 事業の
    基準」. 3-1.調査の目的と方法. 3-2.調査の結果. 4.調査 2「4 疾病・5 事業に関する ...
    しかし都道府県単位の独自の認定や実施と、国による一律の認定というダブルスタン.
    ダードは、都道府県によって報酬が異なる問題を引き起こしている。また全国の病院の
    80%. を占める民間病院も 4 疾病・5 事業に参加する意向があるので、それらの病院が
     ...

  • [3] 公益社団法人全日本病院協会 会 長 猪 口 雄 二 殿 医政地発 1024 第 7 ...

    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2017/171026_2.pdf

    2017年10月24日 ... 別添の病院の耐震改修状況調査票の調査項目のとおり. 平成 29年 12月 5日(火).
    以下のメーノレアドレス宛てに送信してください。 2. 調査内容. 3. 提出期限. 4. 提出方法
    . [照会先]. 厚生労働省医政局地域医療計画課. 救急・周産期医療等対策室 .... 民間
    その他. : 上記以外の団体が設置する病院2. 所在地及び二次医療圏については、
    それぞれ、市町村名(東京. 都特別区にあっては区を記載)、二次医療圏名を記載して
    下さい。 3. 【Q1】病院の敷地内で患者が利用する建物(病棟部門、外来診.

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