全日病ニュース

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医療現場を守りつつ働き方改革にどう対応するか

【四病院団体協議会 会長座談会】

医療現場を守りつつ働き方改革にどう対応するか

控除対象外消費税の問題は今夏までに結論

控除対象外消費税の負担問題 今回決まると変えるのは困難
猪口 消費税の話題が出たので、この問題に移りたいと思います。医療が非課税であるために、医療機関が仕入れにかかる消費税を負担しているという問題(控除対象外消費税の負担)があります。
 消費税の10%への引上げは2回延期されて、診療報酬に悪影響がありました。来年10月には上がることになっていますが、使い道が当初の約束から大きく変わってしまいました。現役世代を支援するため、子育て支援や教育無償化に多くが使われそうです。
 消費税率が上がるほど、医療機関の控除対象外消費税の問題が大きくなります。本来は「税は税で解決してほしい」というのが我々の主張でした。しかし結局は、診療報酬への補てんで対応することが繰り返されています。
 控除対象外消費税の影響は病院によって異なり、特に大型の急性期病院で影響が大きく、一律の対応では解決できません。今年はその決着をつけることが求められています。我々はどう対応すべきでしょうか。
相澤 本来は、税は税として解決してほしいのに、これだけ複雑に糸が絡まりあっている。現実に病院が困っている状況の中で、どこを落としどころにするのか、「言うは易く行うは難し」で、本当に悩ましい問題です。
加納 将来にかけて消費税が上がっていくことを想定すると、ここで根本的に考えないと大変なことになります。
 時間的に余裕はなく、今年の夏には結論を出して、関係者に説明していく必要があります。そして、今度決まったものをその後で変えるのは、相当に困難になります。
山崎 一案としては、消費税が最初からかからないメニューを作ってしまうのが、よい考えだと思います。建物を建てるときや増改築のときに消費税がかからないようにする。つまり国が建物や増改築を現物給付するのです。そうすれば消費税はかかりません。
 同様に、高額な医療機器や薬剤も現物給付にしてしまえばいいのです。そのための診療報酬改定をやったほうが、税制の議論をまとめるより、早いのではないでしょうか。
猪口 大胆な提案ですね。いずれにしても、この問題は関係者が多く、意見集約が難しくなっています。しかしながら避けて通れない問題であり、時間が限られています。医療界として意見を集約し、その実現に向けて主張していく必要があります。
医師の労働時間をどう捉えるか 宿直は別に整理が必要
猪口 医師の働き方をめぐる問題を議論します。働き方改革の関連法案は今年の通常国会で審議される予定で、当初より成立が遅れていますが、時間外労働の上限規制などの施行は予定通りで、医師の働き方についても来年4月までに結論を出し、5年後に施行というスケジュールは変わらないようです。
 医師の働き方改革が検討されていますが、様々な問題を内包しています。
 例えば、医師不足の問題と密接に結びついていて、医師の働き方が変われば、医師需給の将来推計にも大きな影響を与えます。医師不足は肌身で感じていますが、今後の人口減少を考えると、将来的には過剰になるといわれます。しかし現状で医師の働き方を変えるのであれば、医師はもっと必要という話になります。
相澤 ひとつは、医師の労働時間をどう捉えるかという問題があります。特に、宿直が労働時間になれば、ほとんどの病院は成り立ちません。現行の規定では、原則として労働時間とみなしていて、特例によって免除されています。こうした労働法制が厳格に適用されることになると、現実とは合わないことになるので、宿直は通常の労働とは別であることを我々が強く訴えていく必要があります。
猪口 通常の労働と同じように働いている夜勤と、宿直は別ですね。本当に忙しい救急医療での宿直は、労働と捉えられても仕方がありませんが、待機時間が長い宿直は別に整理する必要があり、弾力的に運用すべきです。
加納 宿直等が夜勤と同じと捉えられれば、地域医療は崩壊します。それと同時に、医師不足の問題があります。
 女性医師が増えている現状を考えても、医師の働き方を変えて、医療の質も維持するには、病院の医師を増やすことをしなければ、成り立ちません。
 病院は都会も地方も医師が足りません。その原因を考えると、そこはやはり、診療所の開業を規制する必要があるのではないでしょうか。
医師不足問題と関連 現実のリスクを踏まえて議論を
猪口 東京は医師がたくさんいると思われがちですが、中小病院はいつも医師不足です。都心に大学病院が集中していますが、そこは必ずしも東京の人たちだけを診ているわけではない。研究や教育などの役割も持っています。
 東京の住民の医療を支えているのは、我々のような地域の病院です。
加納 救急医療を含めて、高齢者の医療の多くを民間の中小病院が支えています。一歩間違えて、民間病院が壊れてしまうことになると、大混乱が起きると思います。医師の働き方改革は現実に起きてしまうリスクをしっかりと考えて、議論をしてもらいたいと思います。
山崎 精神科の入院医療は圧倒的に医師が少ない現実があります。ただ救急医療など本当に必要な医師が足りないところと、人員配置基準を満たすために医師が足りないところがある。医師不足の状況は現場によって、大きく異なる面があります。私がいつも言っているのは、法令で規制している人員配置基準と建築構造基準をなくしてほしいということです。
 その代わりに、病院の玄関に医師や看護師など医療従事者数、施設基準などを掲示して、患者・家族に納得して受診してもらえばよいのではないかと思っています。当直についても、緊急事態にすぐ駆けつけられる状態であればよいので、必ずしも病院内にいなくてもよいはずです。
 医師の働き方改革は、人員配置基準を含めた規制改革と一緒に議論すべきです。
医学教育や研修制度の見直し 医師のあり方が問われる
山崎 最近は、医師の流動性が高まっていて、紹介斡旋業者が跋扈しています。テレビドラマの「ドクターX」ではないけれど、フリーランスの医師も出てきていて、手術で1日15 〜20万円で雇われるような事例が増えています。
 患者とは一度の関わりだけで終わりです。医師のあり方が問われています。
猪口 臓器別など守備範囲の狭い専門医が増えすぎてしまったこともあります。総合診療専門医がこれから養成されることになっていますが、もう少し幅の広い総合的な診療能力のある医師が求められています。そのような医師をどう作っていくかが課題です。
山崎 新専門医制度の専攻医の登録でも、開業で儲けられる眼科や皮膚科に専攻医が集まっています。偏差値教育で優秀な人材ばかりを医学部に入れてきた悪い影響が出てきているのではないでしょうか。
猪口 医師のあるべき姿を目指して、医学教育や国家試験、臨床研修制度、専門医制度を大きく見直す議論がまさに今行われています。
山崎 医師不足で医学部の定員を増やしましたが、そのときに、教員も定員増に応じて増やしたのでしょうか。そうは思えません。だとすれば密度が下がるので教育のレベルが悪くなるのは当然です。臨床現場の実習を充実させる改革を行うといっていますが、患者のベッドサイドで生徒ばかりが増えても、本当に教育が充実するのでしょうか。
 私は臨床研修制度では、1年目は基幹病院でよいけれども、2年目は地域の病院に送るべきだと言っています。
 出身大学の都道府県で2年間は診療に従事してもらうことも必要です。そのくらいやらないと、医師偏在が起きている地域が持ちません。最近驚いたのですが、地域枠の学生で、地元出身者がほとんどいない大学があります。地域定着を狙って定員の半分を地域枠にしている大学もあるというのに…。
 日本医師会は、医師は足りていると言います。でも医師は足りていません。
 問題は、勤務医と開業医の偏在です。そこに楔を打つ必要があります。地域医療計画で病床数は制限しています。それと同じように、診療所の地域医療計画が必要です。地域ごとに診療科別の必要数を決めることです。
加納 基準病床数制度ならぬ基準診療所数制度ですね。
猪口 医師偏在に対しては、今年医療法などを改正し、その後、本格的な対策が打たれる予定です。その効果を見極め、それで不十分なら、抜本的な対策に踏み込む必要があると思います。
 山積する課題に対応するため、今後とも四病協が団結していきましょう。本日は、有意義なお話をありがとうございました。

全日病ニュース2018年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年8月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170815.pdf

    2017年8月15日 ... 政府が、3月に決定した働き方改革. 実行計画は、長時間労働を是正するた. め、罰則
    付きの時間外 ... 医師は労働者であり、時間外労. 働の規制が適用されることを大前提
    に. 議論を進めてほしい」と述べた。 中医協総会(田辺国昭会長)は7月. 26日、次期
    診療報酬改定に向けた第1. ラウンドの議論の最後に、認知症治療. 病棟入院料を
    テーマにした。認知症の. 急増が見込まれる中で、BPSD(認知. 症に伴う ... 費、消費税
    を加え、算定薬価は2億. 5,845万円となっている。 原材料費は、錠剤の原料費や ...

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2016年1月1日・15日合併号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160101.pdf

    的な医学部定員増が措置された。 したがって、2025年の医療需要と病床数等を踏ま.
    え、高齢化が進む現場医師の確保をどう考えるか、. 重要な会議となる。 この日の分科
    会は、当面、地域偏在対策と 18 年度. 以降の医学部定員問題および需給推計の方法
    を中心 ...... 控除対象外消費税で新たな対応。病院と診療所で別対応を提案. 「課税を
    求める原則を踏まえつつ、色々な可能性を探っていきたい」. 新春特集Ⅱ 四病協4会長
    座談会「医療改革、2016年の課題と病院団体の役割」. うような機能が地域包括ケアの
    真ん中.

  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2013年4月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2013/130401.pdf

    増税となった場合、控除対象外消. 費税の割合は単純計算でも3.1%から. 3.4%に
    なることが容易に考えられ. る。ところが、医療機関は利益率が. 5%以下のところが大半
    を占めている. のである。 医療機関が地域で貢献し続けるた. めには、健全経営と永続
    性を如何に. 担保できるかが重要であることは、. 会員諸氏には充分承知されていると.
    思う。 今後は診療報酬を原則課税にする. よう税法の改正を関係機関に働きか. けていく
    ことと、病院が控除対象外. 消費税の負担を強いられていること. を一人でも多くの国民
    に知っ ...

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