全日病ニュース

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地域のニーズを見定め、生活を支える医療へ転換

【女性経営者座談会】

地域のニーズを見定め、生活を支える医療へ転換

人口減少の中で医療・介護の担い手確保に苦労

 少子高齢化と人口減少が進む中で、病院経営を取り巻く環境は大きく変わりつつある。医療ニーズの変化に対応して、民間病院として生き残っていくために、経営者はどう取り組むべきか。4人の女性経営者に話し合っていただいた。

なぜ、病院経営を担うことになったか

石川 私たち4人に共通しているのは、5年から10年の間に病院を新しくつくったことと、理事長もしくは病院長で現役バリバリである点だと思います。
 まず、法人の概要となぜ病院経営を担うようになったのかを語ってください。
室谷 私たちの法人は60床の回復期リハビリ病院と在宅療養支援診療所が一つです。診療所には、通所リハ、訪問看護、訪問介護、居宅介護支援といった在宅支援の機能があります。
 私は2000年ごろから父の病院を手伝っていましたが、継ぐはずだった弟である長男が「継がない」と宣言して、私にお鉢が回ってきた。それが2003年頃です。正直言うと、親がかわいそうで、やるしかないということで踏み切った。病院の運営は嫌いではなかったけど、最初は右も左も分からず、とにかくやらなきゃ、ということで始めて、今に至っています。
小川 当院は35年前に急性期の83床の病院でスタートして、その後、三つのクリニックが医療法人に加わりました。
 2011年に新病院を建てた時に一つのクリニックを病院に統合し、現在は、ドック健診と急性期病院と二つの透析クリニックで医療を行っています。一貫して急性期医療に取組み、昨年から二次救急も始めています。
 私が病院に来たのは2003年で、医者になってちょうど10年目でした。当時、父が病気になり、兄と私が医師で、どちらか戻ってこい、と言われ、私が自由に動けたので、兄が継ぐまでの間の手伝いということで戻りました。8年前に父が亡くなりますが、その1~2年前に、兄が「継がない」と宣言して、父は「継いでも継がなくてもどっちでもいい」と私に言ってくれましたが、すでに4年間、職員がどんな思いで仕事してきたかを見ていたので、やらないという選択はどうしてもできなかったということです。その時点で新病院のプロジェクトが動き出していて、手探りの中で病院建設に取組みました。
宮地 両親が1954年に有床診療所を開業したのがはじまりで、64床の病院になったのは1962年です。高度成長の波に乗って200床の一般病院になりましたが、1995年の阪神淡路大震災で病院が全壊してしまいました。私は震災の前から病院を手伝っていましたが、当時、リニューアルと増床で大きな借金を抱えていたので、父は「病院を売ってもいい」と言いました。しかし「ここで止めたら女がすたる、やらなあかんやろ」と覚悟を決めました。患者さんや住民からも「病院の再建を待っている」と後押しされました。弟2人も医師ですが、借金の額を聞いて「お姉ちゃん頑張り。困ったら僕助けるから」という感じでした(笑)。その後、2002年に父が亡くなって私が院長になり、2011年に理事長を引き継いだ。経営に実質的に携わったのは1995年からですね。
 地震で病院が全壊し借金だけ残った時に、どうすれば借金を返せるかと考えました。いろいろな方に相談し救急、一般を少し残してあとは慢性期病床にしました。父の意に反して急性期から慢性期主体に進路変更をしました。現在は88床のケアミックス病院、120床のリハビリ病院、在宅系のサービスと老人保健施設を併設しています。

1人のスタッフから病院経営者へ

石川 お話を聞くと、みなさん同じ時期に病院経営に携わっていますね。私が大学から父の病院(石川病院)に帰ったのは2002年で、2010年に理事長になりました。1976年の創業で、有床診療所から始まり、私が帰った時は急性期・ケアミックスの155床の病院で、介護施設もありました。医師である妹がその2年前に帰っていて、私はてっきり妹が継いでくれると思っていて、自分は母校の大学に戻ろうと考えていたのですが、直属の上司が教授選で負けて大学が微妙な状態となったため、父の病院に帰りました。父の病院は、野戦病院のような急性期病院で、なんでここに帰ってきたのか、隙あらば大学に戻ろうと考えていました。
 そんな折に、県立病院が民間移譲されるという話が出て、その移譲先として手をあげるかどうかという話になりました。理事会で、急性期医療を続けるか、慢性期をベースに介護系を中心にするかを選択する話になり、当時理事だった私と妹は、「これまで24時間365日の急性期医療を続けてきたのだから、それは守らないといけないのではないか」と提案しました。急性期を続けるなら、当時の病院は老朽化していたので新しい病院を建てなければならないし、父から代替わりして新築移転するように言われました。
 そこで、「私がやるのなら、大きな借り入れをしなければならないので、公的な医療機関に準ずる社会医療法人でなければ継続が難しい」と言ったんですね。父はかなり悩んでおり、1年ぐらい押し問答しました。
 結局父は、別の医療法人の理事長になり、今も元気で診療しています。私は社会医療法人の理事長になり、県立病院から104床を移譲されることが決まり、病院を新しく建て、病院名(HITO病院)も変えました。私は、地域の救急医療は守らなければならないと思っていましたが、父の病院を守るという意識はなかった。でも、新しい病院を自分のコンセプトでつくったので、自分が生み出した病院として愛着ができたし、スタッフを大事な仲間と思っています。
 1人のスタッフから経営者になることで意識が大きく変わりました。

増え続けるニーズ 担い手の確保が難しい課題に

石川 地域と切り離して病院経営を語ることはできません。地域の状況について話してくれますか。富山の人口はどのくらいでしょうか。
室谷 富山県の人口は106万人で、富山医療圏で50万人くらいです。人口減少が進んでいて、2020年までに若い人が8割まで減っていくことが一番気がかりです。逆に、後期高齢者は2025年まで1. 4倍に増えていく。今も若い人が減っていることを実感しています。
 介護職は全く来ません。リハ職も応募が少ない。事実、養成学校に入る人が減っている。利用者のニーズはあるけれど、応えきれなくなっています。
小川 2次医療圏の人口は100万人、調布市の人口は23万人ですが、開発で人口が増えています。高齢化率は21%で下がっていますが、それは流入人口が増えているからで、85歳以上の高齢者は毎年500人増えている。高齢者が増える一方で、支える側の確保が難しくなっています。東京は、医療・介護以外に多くの仕事がある。介護職を確保できず、介護系のベッドが空いています。
石川 地域の病院との競争はどうですか。棲み分けはできていますか。
宮地 兵庫県は、地域医療構想で一般と療養を減らして回復期を増やすという方針なので、競争相手はどんどん増えていて、危機感はあります。
石川 共存を選ぶのか、それとも競争でしょうか。
宮地 両方です。近隣の病院で似たようなことをしている病院はあるし、共存するために何か考えないといけない。パイは限られているので厳しいですね。
石川 これだけは他の病院に譲れないということはありますか。
宮地 地域で必要とされるものを他の病院よりも先に実行に移さなければと思っています。地域の人に必要とされて再建したので、どんな形でも存続して地域に貢献したい。もっと言えば、病院という形でなくても貢献できたらいいと思っています。
小川 私の地域は、人口も多いので需要が山ほどあって、それぞれの立ち位置を確保しておけば、医療制度には翻弄されるけれど、医療ニーズの喪失に関する危機感はないと思います。ただ、人材の確保という競争は間違いなくある。地域の信頼を得るには、医療の質を高めないといけないので、そのための人材を集める競争は激しいですね。
 地域には、車で15分のところに大学病院クラスが五つあって、そういう中で、83床の病院で急性期医療をやっていることを医療者、特に医師に知ってもらうには工夫が必要です。私の病院は「生活支援型急性期病院」を目指しています。具体的には、総合診療的な役割です。急性期の医療が変わらないと日本の医療は変わらないと思っていて、大切なことをやろうとしているという自負があります。それにコミットしてもらえる人材を集めるのはたいへんですが、地域に密着した小回りの利く病院だからこそできると思っています。
 その一環で医師会の理事として、行政の高齢者施策に関わる機会をいただくようになりました。医療や介護の現状や今後の方向について情報を発信し、地域を変えていけるポジションにいるので、これを最大限に生かしたい。

 

全日病ニュース2018年2月1日号 HTML版

 

 

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  • [1] 厚労省・地域医療構想WG> 急性期指標の取扱いに慎重論相次ぐ

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20170601/news01.html

    2017年6月1日 ... 有明は現状で、人口あたり回復期病床数が多く、他の地域は今後人口減少が大きく
    進む。 慢性期は、将来の病床必要量が現状の病床数を上回ったのが69区域、下回っ
    たのが270区域で、将来病床が過剰になる区域が多かった。 厚労省はこれらの結果を
    踏まえ、「多くの構想区域で、急性期機能が多く回復期機能が不足する。急性期機能
    から回復期機能への機能転換を検討する際に、病床機能報告の具体的な医療の内容
    に関する項目や『急性期指標』の活用方法について、さらに検討を進めては ...

  • [2] 急性期大病院のある地域。高齢者受入と専門急性期の複合機能を志向

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20140601/news10.html

    2014年6月1日 ... 高齢者受入と専門急性期の複合機能を志向 改定への単なる対応はだめ。地域包括
    ケア病床の機能を明確にして転換すべき. 社会医療法人春回会 井上病院理事長 井上
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