全日病ニュース

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専門医の経験をベースに総合医の実践的スキルを学ぶ

【特別座談会「総合医育成事業を語る」】

専門医の経験をベースに総合医の実践的スキルを学ぶ

体験的ワークショップで一歩踏み出す力を身につける

牧角 本日は、「全日病総合医育成事業」をテーマに座談会を行いたいと思います。私は、司会を勤める全日病プライマリ・ケア検討委員会委員長の牧角です。
 今、我が国は、社会の構造的な変化と医療保険制度の持続可能性への不安、政府財源不足による財政的支援の不透明さ、そして働き方改革などによって、医療供給サイドとしての病院は戦後最大の変革を強いられています。
 全日病プライマリ・ケア検討委員会では、これらの対応の一つとして、全日病総合医育成事業を開始しました。
 すでに3月に募集が始まり、7月14日には開講式が予定されています。そこで、「全日病総合医育成事業」について、その目的・意義・内容をプライマリ・ケア検討委員会の委員の方々に話し合っていただこうと思います。
 まず、プライマリ・ケア検討委員会の委員でもある猪口会長に、なぜ、このプログラムを始めたのかについてお聞きします。

地域医療は待ったなし総合医に対する期待

猪口 会員病院のすべての先生方が感じておられることと思うのですが、地域に密着した診療活動の中で、少子高齢化という社会構造の変化や医療の持続可能性への不透明感等、病院を取り巻く環境が激変している状況を目の当たりにされていると思います。そうした中でこれまでとは異なる役割が病院に求められていると感じています。高齢患者が著増する中で、臓器別にとらわれない幅広い診療、多様なアクセスを担保する診療、そして、多職種からなるチーム医療のマネジメントなどが実践できる組織であることが大切ではないでしょうか。この鍵を握るのは総合医だと思われます。
 そのことが、今回の「全日病総合医育成事業」を始めた理由であります。
牧角 全日病認定総合医は、まさに日本専門医機構が育成している総合診療専門医と方向性は同一でありますが、総合診療専門医が地域で活躍するには5~ 10年かかります。しかしながら、地域医療は待ったなしであり、その間、今いる専門医に一歩踏み出してもらうことが地域医療に貢献するのではという考えが今回の企画につながったと思います。
 今年は、日本専門医機構で運営される総合診療専門医の研修が始まるほか、日本病院会でも病院総合医の研修が始まるわけですが、全日病のプログラムの内容について、井上先生より説明をお願いします。
井上 プログラムの概略を説明します。
 対象となるのは、概ね経験6年以上の医師で、プログラムでの研修を希望する会員施設のすべての診療科の医師であり、年齢は問わないこととしています。研修していただく期間は2年間を推奨していますが、個々の事情もありますので、1年~5年程度で柔軟に運営したいと思います。また、定員は40名となっています。
 研修プログラムは、大きく3つのパートからなっています。一つは自院における診療実践で、実際に診療を実践する中で総合診療を行っていただきます。2つ目は、スクーリングです。
 これについては後で詳しく述べます。
 3つ目は総合診療e-ラーニングで、プログラムに参加した方には、e-ラーニングを視聴できる仕組みをつくります。
 特徴としては、所属している病院に勤務を続けながら研修を受けることができることです。所属する病院の支援の下で研修を受けるとともに、修了者には全日病として認定証を発行します。
 認定を受けることが一つの大きなポイントかと思います。
 また、スクーリングに関しては、医学教育に長けたスタッフが担当することが大きな特徴です。
 全日病ならではの研修プログラムになっていると思います。プログラムの中心になるスクーリングについて説明してください。
井上 スクーリングは、医療運営コース、診療実践コース、ノンテクニカルスキルコースの3つのコースに分かれています。
 医療運営コースは2日間で、日本の医療の将来像や医療制度、介護制度を理解していただくことが主になります。
 診療実践コースは22回(22日間)であり、臨床推論などの総論6単位と循環器、呼吸器、消化器などの各論16単位からなります。
 ノンテクニカルスキルコースは、10日間です。いわゆる医療技術ではない組織人としてのスキルを学ぶものです。
牧角 今回は、筑波大学および日本プライマリ・ケア連合学会と連携してプログラムを構成しました。スクーリングの特徴について筑波大学の前野先生から説明をお願いします。

プライマリ・ケアに必要な内容を厳選

前野 今回、地域で活躍する総合医の数を増やし、質を高めていく取組みのお手伝いをすることになりました。研修の中心となるのはスクーリングです。
 スクーリングの目標は、今後激変するプライマリ・ケアの現場で、“一歩踏み出すこと”です。研修の対象は、経験豊富な医師が中心なので、その医師が持っている専門医としてのベースの上に実践的なスキルを上乗せして、プライマリ・ケアの現場で一歩を踏み出せる内容になることを意図しています。そこで、プライマリ・ケアに真に必要な内容を厳選して、ゴールを明示し、体験型のワークショップを受けていただくコースにしたいと思っています。
 教育プログラムは、こういった領域に高いノウハウを持っている日本プライマリ・ケア連合学会が総力をあげて準備を進めているところです。
 ノンテクニカルスキルに関しては、これからの総合診療医は単に医学的な診断・治療を行うにとどまらず、チームをつくり、人を育て、さまざまな関係機関と連携をとりながら、複雑な組織を運営する力が求められます。そこに必要なスキルは、今まで医療界ではきちんとした教育が行われておらず、個人的な経験や人格に依存しているのが現状でした。でも、スキルである以上それをトレーニングする手法はあります。筑波大学において医療者向けのノンテクニカルスキルの開発に取り組んできましたので、その中身のエッセンスをぎゅっと詰め込んだ研修を企画しています。

医療制度全体を学ぶ機会を提供

牧角 医療運営コースがあることは全日病らしいところですね。医療運営コースについて話していただけますか。
井上 現場で働く医師にとって医療全体について考える場がないと思うのです。どのような制度になっていて、日本の医療や介護がどちらに向かっていこうとしているのか知識として知る場がないし、断片的にしか知る機会がありません。きちんと話をきいて、どのような医療・介護を目指していくべきか考える場になればと思います。
牧角 これからの医療は医療保険だけでなく、介護保険の知識も必要だし、衣食住すべてを含め、総合診療医的な能力がないと地域医療を担っていけないと思います。その意味で、今回のプログラムは、とてもいい配分になっていると思います。
 他団体の事業との違いはどんな点でしょうか。
前野 全日病以外でも総合性についての研修を認定しようという取組みが始まっています。ただ、その多くは、場の経験を認定するものであったり、いわゆる自己申告であったり、座学や一方向性の講義が中心になっています。
 集合研修の形で年に1回だけとか、回数が少ないものもあります。それでは、明日から一歩を踏み出す力をつけるのは難しいのではないかと考えました。
 実践的なスキルを着実に身につけてもらうには、ある程度の回数を集まっていただき、体を動かしながら、しっかりとスキルを学んでいただく必要があるという結論に達しました。
 とはいえ、忙しい医師が地域で活動をしながら研修を受けることになると思いますので、現実的な落としどころについて議論を重ね、スクーリングの回数を設定しています。
 参加していただければ明日からの臨床に役立つスキルを持って帰れる、そういうコースにしたいと考えています。
牧角 全日病と筑波大学、プライマリ・ケア連合学会の連携があってできた研修プログラムであると思います。

教育内容を学会として担保学会認定医でも評価

前野 今回の事業は、プライマリ・ケア連合学会としても非常にいい機会をいただいたと考えています。学会の総力をあげていいものを提供したいと思いますし、このコースを受講し、修了された方に対してはプライマリ・ケア連合学会としても何らかの評価をしたいと考えています。
 学会には認定医制度があるのですが、取得するには経験症例報告と筆記試験を受けていただく必要があります。そこで、学会としては、全日病総合医コースを修了した人には、この筆記試験を免除することを考えています。経験症例報告の提出は、このコースを修了する方にはそれほど難しくないと思いますので、実質上、希望すれば学会の認定医をとれると考えていただいていいと思います。
牧角 今回の研修プログラムは、プライマリ・ケア連合学会が認めた研修内容であるということですね。
前野 おっしゃる通りです。研修の内容は、プライマリ・ケア連合学会と筑波大学が担保していますので、努力してこのコースを修了された方に対しては、学会としてもきちんと評価したいということです。

 

全日病ニュース2018年5月1日号 HTML版

 

 

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    https://www.ajha.or.jp/seminar/other/pdf/180228_4.pdf

    全日病 発 第 381 号. 平成 30 年 3 月 1 日. 各 ... プライマリケア検討委員会. 委員長
    牧 角 寛 郎 ... さて、この度当協会プライマリケア検討委員会では、平成 30 年度より
    総合医育成プロ. グラムを開始する運び .... ③本事業認定審査委員会による受講審査
    を経て、6 月中に受講の可否を FAX にてご案内. いたします。 ... お問い合わせ先>
    公益社団法人全日本病院協会 全日病総合医育成プログラム担当 長戸・向井. 〒101-
    8378 ...

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