全日病ニュース

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現場のニーズに対応するためのマネジメントを習得

【「総合医育成事業を語る」 特別座談会】

現場のニーズに対応するためのマネジメントを習得

病院の支援を受けて研修を受講、将来の幹部候補生を育成する

プライマリ・ケアに必要なマネジメントを学ぶ

井上 ノンテクニカルスキルについて説明してください。総合医にとってどのような意義があるでしょうか。
前野 具体的なテーマとしては、チームビルディング、リーダーシップ、人材養成・教育、課題解決と業務改善といった内容が中心です。総合診療医が活躍を期待されるフィールドは、複雑な問題に対応し、限られた資源の中で一人ひとりの個別性のあるケアを提供していかなければなりません。また、チーム医療に求められる質がどんどん上がっているので、単に多職種が集まればできるものではなく、チームとしての生産性を高めなければなりません。
 そのためには、様々なスキルが必要になります。
 多くの企業では、中間管理職になったら研修を受けて組織マネジメントを学ぶ機会が設けられていますね。しかし、医療においては、そのようなマネジメントを学ぶ機会がほとんどありません。例えば、内科部長や副院長になって組織を運営する立場になっても、そこでマネジメントを体系的に学んだ、という方はあまり多くないのではないでしょうか。
 複雑な組織を動かす力が求められる総合医にとって、そのスキルをきちんと学んだ上で現場の経験を組み合わせることで、よりしっかりしたチーム医療を地域で実践できるようになると思います。

総合医に必要な幅広い視野を学ぶ

前野 一つ私の経験を申し上げると、コンフリクトマネジメントというノンテクニカルスキル研修を受けたのですが、研修後は、コンフリクトに直面したときも、うまくいかない理由やその構造がわかるだけで不安が軽くなりましたし、より冷静で建設的な対応を考えられるようになりました。また、自分と相手の意見が異なる背景を客観的に認識できるようになったことで、問題がこじれた原因を少し俯瞰できるようになったと思います。もちろん、研修を受けただけで、次の日から100%理想的に対応できるわけではありませんが、闇夜の中で光を見出したときのように研修が役に立つ場面がきっとあると思います。
牧角 既存の研修は、テクニカルな要素に偏る傾向がありますが、ノンテクニカルスキルの研修があることは大きな特徴ですね。
前野 総合診療医の総合性とは、単に呼吸器を診ていた人が循環器や消化器も診るということではありません。また、患者個人だけでなく、家族や地域に視野を広げ、さらに医療だけでなく、福祉や予防も含めて考える。大きな意味では、システム全体をみる目が求められています。
 ノンテクニカルスキルは、病気だけでなく、ネットワークの中でシステム全体に広くかかわっていく総合診療医にとって不可欠です。
牧角 全日病の会員施設が提供していく医療においても重要な要素であると思います。
前野 これからの医療のニーズは幅広く複雑なものにシフトしていくわけですから、総合医としての自分の診療活動を広げていきたいと思っている人にとって、全日病のプログラムは非常にフィットすると思います。
井上 病院として、総合診療医としてのスキルを持った医師を確保していくことは経営戦略上、重要な課題になるはずです。
牧角 現状で課題と感じていることはありますか。
前野 よく、なぜ、会場は全部東京なのか、e-ラーニングもできないかと言われます。お忙しい先生方のお気持ちもよくわかるのですが、我々としては初めての試みなので、まずはプログラムを確立したいと思っています。
 パッケージとして内容が固まったら、順次、いろいろな地域で実施できるように展開していきたいと考えています。
 また、e-ラーニングについては、先ほど述べたように、実践力を高めるには、座学では限界があると思っています。座学ですむなら本を読めばよいということになります。我々は、実践力をつけるために、能動型学習である体験型ワークショップにこだわりました。e-ラーニングは時間と場所を選ばずに学習できるのは大きなメリットですが、やはりこれにすべてを代替できるものではない、と考えていますので、ご理解をいただければ幸いです。

受講の流れと認定の条件必要な単位を選ぶ

牧角 研修の流れについて、井上先生から説明をお願いします。
井上 3月1日から募集が始まっていて、5月30日が締め切りとなっています。6月の時点で受講が確定した方に対し、7月から研修が始まります。23日間のスクーリングがありますが、すべてに参加していただくという意味ではありません。その人に必要な単位での参加になります。医療運営はすべての人に参加して頂きますが、診療実践コースについては、22単位の中で11単位以上、ノンテクニカルコースについては10単位の中で6単位以上に参加することが認定の条件になっています。
 スケジュールにあわせて参加するスクーリングを決めてもらいます。
 診療実践コースでは、循環器の専門の医師が循環器の講義を受ける必要はありません。到達目標を具体的に示しますので、どの単位を受けるかを考えて受講する単位を決めていただきます。
 スクーリングのテーマや日程、診療実践における到達目標の具体例を確認して、どの単位を受講するかを決めていただくという流れです。その上で、1年間のスケジュールを決めて研修がスタートすることになります。
牧角 対象は、経験が6年以上の医師ですから、それぞれの地域医療を担っている人がほとんどだと思います。2年間かけて受講できる柔軟な日程が組まれていると思います。

専門性の高さ以上に幅広い診察能力が求められる

井上 受講料は40万円で、一見して高いと感じるかもしれませんが、基本的に病院が旅費も含めて費用を負担するわけですし、病院の期待もそれだけ大きいと思います。
前野 全日病の会員施設がこれからどんな医療を展開していこうとしているのか、そのためのスキルを管理能力も含めて身につけるための研修であり、次世代の幹部候補生を育てるという活用の仕方があると思いますね。
牧角 e-ラーニングについても説明して頂けますか。
前野 e-ラーニングでは、プライマリ・ケアに役立つ内容、ガイドラインのアップデートや診療のコツのようなものを用意して、知識を深められる内容にしたいと思います。スクーリングが中心ですので、必修単位としては緩めの設定にしていますが、役立つ情報を流しますので、こちらでも勉強して頂ければと思います。
井上 スクーリングに関しては、全体のコースを受けていただくことが基本ですが、定員に空きが出ることもあるかと思います。その場合は、全日病の会員施設の中から興味のある単位を単発で受講することができる仕組みにしたいと考えています。自分の興味のある単位をスポットで勉強していただくことも可能です。
牧角 最後に猪口会長から、受講生への期待を一言お願いします。
猪口 病院において臓器別専門医の役割は今後とも重要で必須の存在ですが、それと同じくらい総合医の役割も重要です。新たなキャリア形成を志向して臓器別専門医から総合医へ変わろうとする医師も増えてくると期待します。
 そのような医師のキャリア支援のプログラムとして本事業を開始したいと思います。ぜひ、受講生の皆さんには今回のプログラムを研修することで日常の診療の場面で「一歩踏み出す能力」を身につけて頂ければと思います。
牧角 我が国は、高齢社会を迎えていますが、このような時代における地域医療においては、増える高齢者の特徴である多疾病併存、認知症、フレイルへの対応力、さらには介護保険なども含む複雑な課題への対応力など、専門性の高さ以上に幅広い診察能力が求められています。
 現在、地域では、多くの医療機関で専門性を有した医師がその専門領域以外の場面で活躍する機会が増加していると思われますが、今回の全日病総合医育成プログラムを利用し、専門性に加えて総合診療専門医の持つコンピテンシーを理解・共有し日常の診療現場に生かして頂ければと思います。

 

全日病ニュース2018年5月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病総合医育成プログラム:病院運営支援事業 - 全日本病院協会

    https://www.ajha.or.jp/hms/sougoui/4.html

    プライマリ・ケア・セッティングにおいて日常よく遭遇する疾患・病態に対して、適切な初期
    対応とマネジメントができる能力を修得する。 ... に基づき「リーダーシップ」「チーム
    ビルディング」「コンフリクトマネジメント」「問題解決」「人材育成」などのスキルを修得する

  • [2] 全日病 発 第 352 号 平成 30 年 2 月 5 日 各 位 公益社団法人 全日本 ...

    https://www.ajha.or.jp/hms/sougoui/pdf/info_180208.pdf

    2018年2月5日 ... く遭遇する疾患・病態に. 対して、適切な初期対応. とマネジメントができる. 能⼒を修得
    する。 ※⾼度な専⾨知識や⾼度 ... 性格タイプ別コミュニ. ケーション). ②コンフリクト
    マネジメン. ト. ③コーチング+⼈材育成. ④教育技法. ⑤リーダーシップ・.

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