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ホーム全日病ニュース(2018年)第920回/2018年7月1日号延命治療での支払意思額調査は行わない...

延命治療での支払意思額調査は行わない

延命治療での支払意思額調査は行わない

【中医協・費用対効果評価専門部会等】試行的導入と同じ基準値採用の方向

 中医協の費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会(荒井耕部会長)は6月13日、医薬品などの費用対効果を評価する仕組みの制度化に向けて議論。延命治療に関し、国民を対象とする支払意思額の調査は実施しないことを決めた。特に大きな経済環境の変化がなければ、試行的導入時と同じく、費用対効果が悪い場合の価格調整は、1質調整生存年(1QALY)当たり500万~ 1,000万円以上の範囲で行う方向だ。
 費用対効果評価の仕組みの検討は当初の予定より大幅に遅れており、2018年度は試行的に7品目の医薬品・医療機器が対象になった。検討が遅れた理由の一つが、支払意思額調査の実施方法で合意が得られなかったことだ。このため、費用対効果の「よい・悪い」を判断する基準値の設定ができず、暫定的に、過去の研究者の研究結果を援用した。
 医療技術の発展に伴い革新的な医薬品等が開発され、効果は既存技術よりも高いが、費用も高い場合に、どの程度まで費用増を許容するかが課題になっている。ICER(増分費用効果比)を使って、1QALY当たりの費用増を計算し、費用対効果の「よい・悪い」を判断するための基準値が必要になる。支払意思額調査は、その許容額を聞くものだ。過去の研究者の調査では、1QALY 当たり500万~ 1,000万円程度だった。
 厚生労働省は、費用対効果評価の制度化に当たり、支払意思額調査の実施を提案したが、昨年の中医協の議論では、委員から「命に値段をつけるもので反対」、「(調査の趣旨を回答者に伝えるのが難しく)調査の信頼性が低い」などの意見が相次ぎ、実施が見送られた経緯がある。

 制度化の議論を本格化
 中医協は次期診療報酬改定に向け、費用対効果評価の制度化の議論を本格化させる予定だ。前回の会合では委員から、検討スケジュールを明確に示すとともに、支払意思額調査の実施の是非も早急に決定することが求められていた。一方、合同部会では、医療経済学などに関する有識者による検討会(研究代表者=福田敬・国立保健医療科学院保健医療経済評価研究センター)を設置し、科学的な事項の検討を行ってきた。
 同日は、科学的事項の検討結果が示された。まず基準値の設定において、①機会費用や現在償還されている医療技術の水準等②支払意思額③1人当たりGDP等の国民所得、生産性等の経済指標④諸外国の基準─を考慮することが必要とした。その上で、それぞれを検討した結果、「単一の調査結果等から基準値を設定するのではなく、これまでにあげた様々な項目を総合的に勘案して、決定することが適当」と結論を出した。
 さらに、試行的導入で用いた500万円(1,000万円)の基準値は、「学術的に正当化できる水準」と主張した。理由として、◇500万円は1人当たりGDPの1.18倍◇GDP比は諸外国も1~2倍◇過去の日本の調査で報告されている金額でもある─などをあげた。
 なお、500万円(1,000万円)とは、500万円を超えた段階で価格調整の対象となり、それ以上では調整額が増大し、1,000万円で上限になるという意味である。
 支払意思額調査に対しては、「現時点で国として、基準値の設定を目的とした新たな調査を実施する必要性は低い」とした。支払意思額調査が手法として確立しておらず、信頼性が高くないことに加えて、経済状況などの大きな変動もないため、試行的導入の基準値をそのまま用いることで問題ないとの考えを示唆した。
 これらの報告を踏まえ、合同会議で議論を行った。委員からは、「将来的に妥当性があるかは不明で、定期的に検証すべき」、「500万円(1,000万円)については疾患に応じてもう少し柔軟に設定する必要があるのではないか」などの意見が出たものの、概ね報告内容を認める形となった。
 具体的には、◇価格調整に用いる基準値は、様々な要素を総合的に勘案して決定する◇支払意思額調査は実施しない◇経済情勢などで大きな変動があった場合には、基準値を検証する必要がある─ことを確認し、了承した。
 そのほか、試行的導入の検証の進捗状況が報告された。試行的導入においては、費用対効果評価を判断する方法を決め、それに基づいて厚労省の専門組織と企業がそれぞれ分析を行ったが、結果が両者で大きく異なり、限定的な価格調整となった。
 厚労省は検証の進捗状況について、専門組織が「分析の枠組み」を企業に伝達し、企業側の不服意見の有無を確認したところ、不服意見はなく、分析の枠組みが決定されたと報告した。

 

全日病ニュース2018年7月1日号 HTML版

 

 

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    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20171115/news03.html

    2017年11月15日 ... 費用対効果評価の価格引下げの基準は500万円|第906回/2017年11月15日号
    HTML版。21世紀の医療を考える「 ... 中医協費用対効果評価専門部会・薬価専門
    部会・保険医療材料専門部会合同部会(荒井耕部会長)は10月25日、費用対効果 ...
    ICER を用いた分析では、比較対照品目(技術)と比べて、効果が増加し(または同じ)、
    同時に費用が削減される品目については、費用対効果を判断できない。

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年7月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170701.pdf

    2017年7月1日 ... 譲に伴い104床が増床され新病院に生. まれ変わった。病院名も変更したこと ..... 地域
    枠で卒業する医師が増加すること. を踏まえ、地域枠医師の条件を厳格化 ..... 中医協
    費用対効果専門部会. 倫理的、社会的影響等を考慮して評価.

  • [3] 2018年度診療報酬改定に向けた議論を開始|第887回/2017年2月1 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20170201/news05.html

    2017年2月1日 ...中医協総会】 2025年見据え、節目の同時改定. 中医協(田辺国昭会長)が2018年度
    診療報酬改定に向けた議論を開始した。 ... 次期改定は薬価制度の抜本改革や費用対
    効果評価の本格的導入などもあり、例年以上の過密スケジュールとなりそうだ。 ... また
    、医療費の増加要因として高齢化だけでなく、「医療の高度化等」が影響しているとし、「
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