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ICTの活用(生産性向上、効率化、オンライン診療等)、医療従事者の負担軽減(働き方改革)

ICTの活用(生産性向上、効率化、オンライン診療等)、医療従事者の負担軽減(働き方改革)

【診療報酬改定シリーズ 2018年度改定への対応⑨】医療保険・診療報酬委員会 委員 福井 聡

 これまで2018年度診療報酬改定について5月より毎号シリーズとして診療報酬委員会の各委員が執筆してきたが、今回の9回目で最後を迎える。最終回の今回はICTの活用、医療従事者の負担軽減を中心に述べていく。
 第1回の津留委員長執筆の中で「我が国の医療・介護が抱える基本的な問題の一例として人口減少、少子高齢“多死”社会の到来、高齢者人口増加の都道府県偏在の問題」について触れているが、この問題に対しての答えの1つとしてICTの活用が挙げられることに異論を唱える人は少ないのではないだろうか。労働人口の減少を補うためには、効率化、生産性を向上していかなければ、継続した地域包括ケアの実現は難しい。

 制約が大きいオンライン診療
 今回その特徴を捉える大きな改定の1つとしてオンライン診療料が新設された(図1)。この遠隔診療は、特定疾患療養管理料を算定する患者、小児科療養指導料を算定する患者など、対象疾患が限られ、誰でも突然オンライン診療を受けられる訳ではないものの、働きながら疾病を抱え、医療機関に頻繁に診察を受けに行くことができない患者からすると、非常に有難いシステムであろう。このようなシステムが上手く機能すると、患者の定期的な受診を促し、重症化を防ぐ予防医療の側面も見えてくる。さらに大きな枠組みでみた場合、離島やへき地など医療資源が限られた地域での診療体制の構築にも役立つ可能性は十分にあるだろう。
 また、在宅医療などの分野でも十分な可能性を見出せる。医療機関までの遠距離や交通手段がなかなかない地域は勿論、都会で移動が難しい高齢者にとっても非常に便利なツールとなる。
 なお、一部の医療機器の遠隔モニタリングや、条件付きではあるがオンラインによる看護師と連携した在宅での看取り(死亡診断)も可能となっている。近年、親の介護のために仕事をやめなければならない介護離職などの問題が一部報道されているが、このようなオンラインによるシステムが、これからの将来社会に大きな影響を与えるだろうと考えている。
 しかし、このような患者側の状況に対し、医療機関側は厚生労働省の定める情報通信機器を用いた診療に係る指針に沿って診療を行う必要があり、細則に従う必要がある。具体的には医療機関内でリアルタイムに診察を行う必要があるほか、緊急時には概ね30分以内に直接診療が可能な事(離島・へき地の患者や小児科療養指導料、難病外来指導管理料を算定する患者など一部の患者を除く)、さらに、対面診療の間隔は3か月以内、療養計画の策定、同一医師による6か月以上の対面による継続診療が必要なことなど複数の条件が並ぶ。
 加えてオンライン診療を行う患者は全体の1割以内にしなければならないという制約があるため、数が増えてきた場合には患者数のカウントおよびコントロールも必要になるであろう。このように医療機関側には様々な条件があり、設備投資も必要であるが、今回の診療報酬ではオンライン診療料70点と通常の再診料よりも低く、指導料に対しての評価も100点と決して医療機関側のメリットは多くない。また、同月内に患者が直接来院し、再診料の算定があると、オンライン診療料の請求はできなくなる。つまり、行ったオンライン診療が遡って無報酬となったりする可能性もあるのだ。これから、各機関や団体から様々な調査でその影響が示されるかと思うが、実情に即した規則、患者側、医療機関側共にメリットのある制度となることを期待する。

 働き方改革に沿った改定
 ここまでは直接的な患者への遠隔診療について述べてきたが、今回の改定ではさらにICTを用いた遠隔診断や医療機関相互間でのカンファレンスについても改定されている。この内容は特に医師の働き方改革への取り組みの1つになるのではないかと思うが、具体的には画像診断、病理診断に関し、週3回以上かつ24時間以上勤務する医師は自宅等保険医療機関以外の場所で読影した場合も、院内での読影に準じて算定することができるとされた。従来は常勤の医師が夜間、休日に撮影した画像の読影と限られていた条件が緩和された形だ。
 小さな子供がいるなど、家庭の事情がある医師にとって週3日以外を自宅勤務とすることができるのは働きやすい改定となったのではないか。
 また、これまで対面でのカンファレスが求められていた診療報酬項目についてもICTを用いたもので一部可能となった。対象となる診療報酬は感染防止対策加算、入退院支援加算1、退院時共同指導料など8種にのぼり、以前は急患対応や出張などで参加ができなくなると基準を満たすことができなくなったが、そのリスクが軽減された形だ。
 なお、すべてのカンファレンスに直接出席しなくてよい訳ではなく、それぞれの項に条件があるので留意したい(図2)
 以上、今回のICTに関連した改定について述べてきたが、このような診療体制の広がりがこれからの少子高齢化に対応する地域医療への対応策として、医療機関で働く職員に対する対応策として機能することを切に願う。
 最後に、これまで9回に渡り連載で各委員の想い、考えをこの紙面に描いてきた。これらのことが紙面を読んでいただいた皆様、さらには医療の現場で活躍する皆様の大いなる知力となり、医療業界のさらなる発展となることを願い、最後の締めくくりとしたい。

 

全日病ニュース2018年10月1日号 HTML版

 

 

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