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控除対象外消費税問題解消のための新たな税制上の仕組みについての提言
─消費税率10%への引上げに向けて─

控除対象外消費税問題解消のための新たな税制上の仕組みについての提言
─消費税率10%への引上げに向けて─

【資料】※8月29日 三師会・四病院団体協議会

1.新たな仕組みの提言

 医療機関等(病院、一般診療所、歯科診療所、薬局。以下同じ)の控除対象外消費税問題の解消に向け、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、四病院団体協議会は、これまでの税制改正要望で非課税還付方式を要望してきた。
 これについて、仕入れ税額を控除し、還付を受けることが認められるのは課税に限ってのことであるため、財政当局から消費税の基本的な仕組みと相容れないとの指摘があった。この点は十分に承知している。しかし、社会保障である医療に対する消費税の課税について国民(有権者)の広い理解を得ることは困難である。
 そこで、控除対象外消費税問題の解消に緊急を要する中、医療界が一致団結できる具体的な対応として、新たな仕組みを提言する。

 新たな仕組みの提言
(1)仕組みの概要
 診療報酬への補てんを維持した上で、個別の医療機関等ごとに診療報酬本体に含まれる消費税補てん相当額(以下、消費税補てん額)と個別の医療機関等が負担した控除対象外仕入れ税額(医薬品・特定保険医療材料を除く)を比較し、申告により補てんの過不足に対応する。
 診療報酬への補てんについては、消費税率10%への引き上げ時に医療機関等種類別の補てんのばらつきを丁寧に検証し是正する。その後の診療報酬改定でも必要に応じて検証、是正を行う。
(2)適用対象
 消費税および所得税について実額計算で申告を行っている医療機関等開設者を対象とする。

 

2.新たな仕組みの実現のための諸課題

2.1.消費税補てん額の把握

 以上のことから、消費税率5%までの消費税補てん額については、マクロ的な比率を用いて把握することを提案する。
 消費税率5%までのマクロ的な比率の計算については、平成9年消費税率5%までの上乗せ率0.43%(平成元年0.11%、平成9年0.32%)が基本となる。
 この上乗せ率0.43%については補てんが不十分であるだけでなく、その実在性にも疑問が残るが、ここでは、平成9年までの0.43%の上乗せはあるものとして、診療種類別(医科、歯科、調剤)の上乗せ率(以下、診療種類別修正上乗せ率)を計算する。
 診療種類別修正上乗せ率の平成9年までの計算例として、平成26年については診療報酬本体報酬全体と診療種類別の上乗せ率の比が明らかであるので、その比を用いて計算する方法がある。また、平成9年は診療種類別の上乗せ率が明らかであるので、平成元年の分についてのみ、平成26年の比を用いて計算する方法もある。ここでは平成26年の比率で例示したが今後の検証を踏まえ最新の比率を用いることも考えられる。
 新たな仕組みのスタートまでにこのような計算方法について検討し、消費税率5%までの診療種類別消費税補てん額について合意、決定する必要がある。
 平成26年の補てんについては、平成27年の検証において、一般診療所、精神科病院で補てん率が100%超であった。しかし、消費税率5%までの部分を含めてみればいずれの診療種類においても補てん不足である。また、新たな仕組みをスタートする際には、補てんのばらつきを丁寧に検証し是正することとし、導入後も診療報酬改定の都度、補てんのばらつきを検証・是正する。
 平成26年に消費税率が8%に引き上げられた際には診療報酬改定で初診料、再診料、各入院基本料などに消費税対応分が上乗せされたので、これらの上乗せされた個々の点数(×10円)に個別の医療機関等の算定回数を乗じたものが消費税補てん額になる。
 なお、平成26年の診療報酬改定で消費税対応を行った初診料、再診料、入院基本料などの診療報酬項目で、その後、組み替えが行われたものや、点数が変更されたものについては、そのうちの消費税対応分が何点なのかを明確にしておく必要がある。また、平成26年に対応した個々の点数を活用して計算するためは、DPCの場合には該当部分を抽出するプログラムが必要であり、その際には厚生労働省の対応を要請する。
 平成31年に消費税率が10%に引き上げられる時にも、平成26年診療報酬改定と同様の対応が必要であり、個々の点数に個別の医療機関等の算定回数を乗じたものが消費税補てん額になる。また、消費税率10%引き上げ時の診療報酬改定では、税率5%超8%までの部分の補てん状況について検証を行い、補てんのばらつきを是正した上で新たな仕組みをスタートさせることが肝要である。

2.2.薬価・特定保険医療材料価格への対応

 現在、薬価・特定保険医療材料価格(以下、薬価等)は次のように決まっている。

改定後薬価=(消費税抜きの改定前市場実勢価格×1.08)+(改定前薬価×調整幅(2%))

 計算式の「×1.08」に消費税相当額が織り込まれているので、薬価等については現状の仕組みどおりとする。

 薬価等には消費税相当額が含まれていることから、医療機関等の納入価は、以下のように交渉する必要がある。
 薬価> 納入価(税抜)×1.08+(改定前薬価×調整幅(2%))

 しかし、「薬価100、納入価(税抜)95」というふうに交渉してしまうと
 薬価100< 納入価(税抜)95×1.08=102.6
 となり、いわゆる「逆ざや」が発生してしまう(数字は仮)。

 このような逆ざやの発生を防ぐためには、薬価に含まれる消費税相当額を差し引いた価格を基準に納入価(税抜)の交渉が行われなければならない。現在、医薬品卸売業者に対しては、医療機関等との価格交渉にあたり、薬価に含まれる消費税相当額とそれを差し引いた価格とを区分して示すことが求められているが、十分に浸透していないので、これを徹底させる必要がある。特定保険医療材料についても同様の対応が必要である。
 医療機関の材料費には、特定保険医療材料とその他の材料費があるが、特定保険医療材料価格には消費税相当額が織り込まれているので、本体報酬に含まれる消費税補てん額に対応する仕入れ税額は、「その他の材料費」に係る消費税だけである。しかし、医療機関の経理においては、特定保険医療材料とその他の材料費を区分して把握することが困難なケースもあるため、医療機関が両者を区分するための簡便な方法が必要である。

 2.3.小規模医療機関等への対応

 新たな仕組みの適用対象は、消費税および所得税について実額計算で申告を行っている医療機関等開設者に限ることとする。従って、以下①~③のいずれかに該当する場合は新たな仕組みの対象外とし、現行どおり診療報酬で対応する。
 小規模医療機関等であっても、自ら課税事業者を選択し実額計算で申告していれば適用対象となる。これにより、実額計算が困難な小規模医療機関等への影響を回避しつつ、自ら実額計算を選択して補てんの過不足に対応する道も開く。

【新たな仕組みの適用対象外】
①消費税について免税事業者
 課税売上が年間1,000万円までの事業者は、自ら課税事業者となる選択をしない限り、消費税の申告・納付の義務が免除される。これを免税事業者という。現在は自由診療等収入だけが課税売上であり、自由診療等収入が1,000万円以下であれば免税事業者になる。

②消費税について簡易課税事業者
 自由診療等の課税売上が年間5,000万円までの事業者には、簡易課税制度の利用が認められている。簡易課税制度とは、課税売上に係る消費税に一定割合をかけた金額を仕入れ税額控除とする制度である。

③所得税について概算経費の特例(四段階制)を利用している事業者
 医業収入が年間7,000万円以下かつ社会保険診療収入が年間5,000万円以下の医療機関は、社会保険診療部分について一定割合(57% ~72%)の概算経費により所得計算をすることができる。

3.新たな仕組みの実現に向けて

 平成元年に消費税が導入され、社会保険診療が非課税とされた。それ以来、控除対象外消費税の問題は、医療機関等の経営上極めて大きな負担となっており、医療に係る税制の最重要課題を占めている。
 その間、解決手段について様々な議論があり、課税転換を求める意見もあったが、社会保障である医療に対する消費税の課税は国民(有権者)の広い理解を得難く、政治的に極めて実現困難な現状にある。
 しかし、控除対象外消費税問題解消は待ったなしであり、あらためて控除対象外消費税問題解消のための税制上の新たな仕組みを提言した。
 今回の提言が、消費税の基本的な仕組みと相容れないという指摘もあるが、具体的な制度設計については各界の叡智もいただきつつ、医療界が一致団結して新たな仕組みの実現に向けて邁進してまいりたい。

 

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  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2018年9月15日号)

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