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ホーム全日病ニュース(2018年)第931回/2018年12月15日号医師への時間外労働の上限設定の枠組み示す...

医師への時間外労働の上限設定の枠組み示す

医師への時間外労働の上限設定の枠組み示す

【厚労省・働き方改革検討会】地域医療の観点や医師の技能向上で特例

 厚生労働省は12月5日の医師の働き方改革に関する検討会(岩村正彦座長)に、医師に対する時間外労働時間の上限設定に関する枠組み(骨格)を示した。「脳・心臓疾患の労災認定基準」の水準を考慮した水準を、全体が目指す目標とした上で、「地域医療の確保」と「一定の期間集中的に技能向上を必要とする医師」の観点で、特例を設ける。対象医療機関を特定し、勤務間インターバルなどを義務化する。
 働き方改革による労働基準法改正で、36協定を結んだ特例での罰則付きの時間外労働の上限は年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(同)となった。医師は例外とし、別に上限を省令で決め、2024年度から適用することになった。
 今回、厚労省が示した大枠では、医療には24時間365日のニーズがあることから、休日労働込みの時間数として上限時間を設定するとした。その上で、「脳・心臓疾患の労災認定基準」を考慮した水準を示した。
 労災認定基準は、2〜6カ月の平均で月80時間以内(休日労働込み)であり、これは一般則を超える水準であることから、連続勤務時間制限や勤務間インターバルの確保を努力義務とする。また、月当たり時間数で上限を超えることは、医師による面接指導と、その結果を踏まえた就業上の措置を条件に認める。
 このような一般の労働者に準じた上限を設け、できるだけ多くの医師が2024年から、この基準に適用されるよう、医師偏在対策や勤務環境改善策、タスクシフティング、タスクシェアなどを通じて、労働時間短縮に取り組むとの基本的な考え方が示されている。

特例では連続勤務時間制限など義務化
 しかし、現状で約4割の医師が脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準である年間960時間を超える労働時間であることを踏まえ、対象を限定し、上限をより緩和した別の特例を二つ設けることを提案した。
 一つは、「地域医療の確保」の観点から、対象医療機関を特定するもの。時間外労働の短縮に取り組むとしても、医師の養成に10年程度かかることも踏まえ、地域医療への影響を考えると、医師の労働時間を大幅に削減することは困難であるためだ。ただ、「経過措置」と位置づけた上で、将来的には、一般の労働者に準じた上限設定を目指すとしている。
 一方で、対象医療機関に対しては、医師が6時間程度の睡眠時間を確保できるよう連続勤務時間制限・勤務間インターバルの確保・代償休暇を義務化する。月当たり時間数の上限を超える場合は、医師による面接指導を実施し、健康管理の個別的なモニタリングを行うなど、就業上の措置を講じるとした。
 もう一つは、「一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師」に対するものだ。病院勤務医の勤務時間をみると、脳・心臓血管の労災認定基準の時間外労働の水準の倍である年間1,920時間を超える医師の約半数が20代・30代が占め、同じく3倍の年間2,880時間を超える医師の約6割弱を20代・30代が占める。
 若年世代に勤務負担がかかっていることの現われである一方、医師のキャリアパスを描く時期でもあり、研修期間の労働時間を無理に短縮すれば、一定の知識・手技を身に付けるための必要な診療経験を得るための期間が長期化するおそれがある。これは、医師養成の遅れにつながり、引いては医療の質と医療提供体制への影響が懸念されるとした。
 このため、医療の質の維持・向上の観点から、本人に申し出に基づき、特例を設ける。
 特例が受けられる医療機関は特定し、時間外労働の水準は随時検証していくとしている。連続勤務時間制限や勤務間インターバルの確保などの義務化、月当たり時間数の上限を超える場合の措置は、地域医療の確保の観点から講じる特例と同様とする。
 これらの医師の時間外労働の設定の骨格に関し、様々な意見が出たが、岩村座長(東京大学大学院教授)は「共通の認識が得られつつある」と述べ、この骨格に沿って、厚労省に具体的な上限時間の特例を示すよう促した。厚労省は、年内の検討会で具体的な上限時間を示し、年内の骨子とりまとめを目指す。
 ただ、労働組合の委員からは「違和感がある」(村上陽子委員・日本労働組合総連合会総合労働局長)や「過労死ラインを超える基準設定はおかしい」(森本正宏委員・全日本自治団体労働組合総合労働局長)との慎重意見が出ている。

睡眠の重要性の観点から病院に周知
 同検討会は同日、これまでの議論で長時間労働の医師の健康確保において、睡眠の重要性を確認したことから、「医師の労働時間短縮」に向けた取組みに関し、改めて周知する内容を了承した。3点を睡眠確保の観点から、追加している。
 ◇当直中のタスクシフティングを進め、医師がまとまった仮眠を取りやすくする◇既存の産業保健の仕組みを活用し、特に仮眠が取れていない医師をスクリーニングし、その健康状態を踏まえ、勤務において配慮する◇長時間の連続勤務にならざるを得ない場合でも、医療機関の状況に応じて、当直明け負担軽減、勤務間インターバル確保などで、その後にまとまった休息を取らせ、疲労を回復できるようにする。
 厚労省は今年3月に現行制度でも取り組める医師の労働時間短縮のための緊急的な取組みとして、①労働時間管理の適正化②36協定等の自己点検③既存の産業保健の仕組みの活用④タスクシフティングの推進⑤女性医師への支援⑥医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組み─をあげている。

 

全日病ニュース2018年12月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 医師に対する時間外労働規制の議論を再開|第922回/2018年8月1日 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20180801/news03.html

    2018年8月1日 ... 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(岩村正彦座長)は7月9日、医師
    に対する時間外労働規制の議論 ... は、労働時間が過度に増加することを防ぐ「歯止め」
    と位置づけ、目安は「脳・心臓疾患の労災認定基準」(いわゆる過労死 ...

  • [2] 医師の働き方改革に関する意見書

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20180801/news09.html

    2018年8月1日 ... 働き方改革関連法においては、医師の時間外労働時間の取扱いについて別途定める
    としているが、労働関連法令全般において、医師の働き方 .... 精神障害の労災認定基準
    、海外の働き方の事例等を手掛かりとし、上限時間を今後検討する。

  • [3] 時間外労働に年間720時間の上限規制を検討|第889回/2017年3月1 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20170301/news14.html

    2017年3月1日 ... 政府は2月14日に働き方改革実現会議を開き、時間外労働に上限規制を設ける政府案
    を示した。 ... 年間上限を超えなければ月60時間を超えることは容認されるが、過労死等
    労災認定基準に該当する働き方にならないよう別に上限を設ける ...

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