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ホーム全日病ニュース(2019年)第933回/2019年2月1日号地域包括ケアシステムを支える情報連携を目指して...

地域包括ケアシステムを支える情報連携を目指して

地域包括ケアシステムを支える情報連携を目指して

【シリーズ●ICT 利活用の取組み――その③】社会医療法人 高橋病院

 ICT 利活用シリーズの第3弾は、先進的な取組みで有名な北海道函館市の高橋病院。同病院は、全国に先駆けて、医療介護統合型の電子カルテを導入したほか、ID-Linkを活用した地域医療情報ネットワークを構築するなど、ICT 活用のパイオニア的存在だ。
 同病院の高橋肇理事長(全日病常任理事)と情報システム室の滝沢礼子室長にこれまでの取組みやICT 利活用の課題について聞いた。

医療介護統合型電子カルテを導入
 高橋病院は、2003年に医療介護統合型の電子カルテを導入した。きっかけは、病院機能評価で情報共有について指摘を受けたことだった。「情報が分散していたので一本化するようにと指摘され、職員で協議した結果、電子カルテを導入すべきという結論になりました」と高橋理事長。当時、電子カルテ・レセプト電算処理システム導入事業で電子カルテに半額補助が出ることになり、それを活用して導入することができたという。
 電子カルテ導入に当たって、電子カルテ準備室(現在の法人情報システム室)を設置。病棟主任をしていた看護師の滝沢さんに白羽の矢を立て、室長に抜擢した。
 「院内の情報化を進めるには、病棟をよく知っている者でないといけないと考え、それは看護師であろうということです。情報システム担当者は、ITに詳しくなくても人とITをつなぐインターフェイスの役割を担えばよい。滝沢室長はその条件を備えていました」(高橋理事長)。
 一方の滝沢室長は、診療録管理委員会に関わった経験から、次のように述べる。「多職種の情報共有を考えていましたが、紙のカルテでは限界があると感じていて、情報を電子化することで共有できるようにしたいという思いがありました」。
 電子カルテへの切換えに当たっては、入力の仕方など研修の時間をとって、職員のITリテラシーを高める教育を実施した。電子カルテの導入によって職員が辞めることはなかったという。
 この時に導入したのが、医療と介護の混合型電子カルテだ。医療と介護は、保険制度が異なり、多くの電子カルテベンダーは別々のシステムを提供している。このため、医療保険の病棟から介護保険の病棟に移るとシステムが変わって、基本情報から入力をしなくてはいけない。「それはやめたいということで、共通の電子カルテにした」と高橋理事長。

ベッドサイド端末で患者と情報共有
 2004年には電子カルテと連動したベッドサイドシステムを導入した。電子カルテの情報が中間サーバーを介して患者のベッドサイドで表示される仕組みだ。体温や血圧、飲んでいる薬の情報、検査結果、リハビリテーションの予定を見ることができる。
 ベッドサイドシステムの導入の理由を高橋理事長は次のように説明する。「電子カルテは患者さんのものであり、患者さんが見られるものでなくてはいけないと思っていました。しかし、それは電子カルテベンダーに反対されて実現しなかった。それならベッドサイドシステムを使って、患者さんが見られる画面をつくろうと考えました」。
 食事の選択メニューを画面から選べるほか、退院時のアンケートも入力できるので、患者の満足度が瞬時にわかるようになっている。

地域連携のためにカルテ情報を共有
 2007年には、ID-Linkを導入して市立函館病院との間に地域医療情報ネットワークを構築した。これは、高橋病院の経営戦略から必然的に出てきた選択である。高橋病院は、リハビリテーション病院として役割と機能を明確化。急性期の病院から患者を受けるには、情報連携が不可欠だからだ。
 3次救急である函館病院との間にはお互いに回診を行うなどヒューマンネットワークができていたことに加え、ちょうど地域連携パスが始まった時期でもあり、条件がそろった。
 ID-Linkを開発したのは株式会社エスイーシー(本社:函館市)だが、開発には滝沢室長がかかわっている。ID-Linkのアイデアについてエスイーシーの開発担当者から相談を受けた滝沢室長は、「はじめは夢のような話と感じた」。一方で、電子カルテを導入したものの、法人の事業所全体をつなぐものになっていなかったので、何らかの形で連携できないかという気持ちがあった。ディスカッションしているうちに「すごくいいと思う。法人内で使いたい」と伝えた。その言葉が、担当者を後押ししてID-Linkの開発につながった。

 医療情報ネットワークの構築には、看護師としての滝沢室長の経験が活かされた。患者を受け入れる際にサマリーを確認するが、それだけでは十分な情報が得られないことが多い。
 「患者さんは、転院の度に同じことを聞かれます。情報さえつながっていたら、そうした二度手間は要らなくなって確認だけですみます。ID-Linkによる情報連携はやりがいがありました」と滝沢室長は当時をふり返る。
 ID-Linkによる医療情報ネットワークを運用するため、2008年に道南地域医療連携協議会を設立。「道南MedIka」と名づけた情報ネットワークに、39施設が参加して運用が始まった(現在の参加施設数は114)。

患者参加型ネットワークツールを開発
 ID-Linkによって他の病院のカルテが目の前で見られるようなり、患者情報を地域単位で共有する時代をもたらした。しかし、高橋理事長にとっては必ずしも満足できるツールではなかった。ID-Linkは医療スタッフのみが使うものとなってしまい、患者が参加することが叶わなくなったからだ。患者・家族にも情報共有するツールをつくりたいという思いが、2011年に「どこでもMy life」の開発につながる。
 「どこでもMy life」は、施設や在宅の患者が体重や血圧などのバイタルデータを測定し、自動送信するシステムで、その中心的な機能は見守りである。病院や施設から、自宅に帰って1カ月程度でADLが落ちてしまうことがある。そこで、ADLの情報を患者や家族が発信できるようにして、チェックする機能をもたせた。血糖値やインシュリンの測定もできる。
 「ID-Linkは、非常に優れたツールですが、患者受け渡しのツールとして転院の際に見るだけのものとなっています。情報を渡す際に、それが診療記録なのか補完記録かなど医療機関の対応が遅れていると感じていて、患者さん自身が参加しない限りトラブルは多くなるでしょう」。高橋理事長は患者が参加できる情報ツールの必要性を強調する。
 「どこでもMy life」はその後、iPadなどの携帯端末で使える「PersonalNetwork ぱるな」に移行した。NDソフトウェア(本社:山形市)と共同開発したもので、SNSの機能を持ち、電子カルテや介護のシステムとも連携している。

情報連携に対する認識が不足
 ICTに先進的に取り組んできた立場から、現状の課題をどう認識しているのだろうか。お二人に聞いてみた。
滝沢 2003年にはじまっていろいろやってきましたが、あまり進展がないと感じています。情報連携はするのですが、ID-Linkに優る製品は出てこないし、課題も当時からほとんど変わっていません。システムを使う人間の考え方が変わらないのでスムーズに進まないという現状は変っていないのです。情報連携により効率的にサービスを提供することで、医療費や介護費の負担も軽減できるはずだと思います。
高橋 情報をつなぐことの大切さをきちんと理解できているかということでしょう。急性期の病院は患者を送ったら「あとは知らない」というところがあるし、回復期の病院も「在宅に移ったらあとは知らない」というところもあります。医療と介護、あるいは急性期と慢性期の連携の大事さについて、まだまだ認識が不足していると感じます。

ICFに基づく生涯カルテが必要
 ICTを活用する人間の側の問題が大きいということである。では、連携のためにはどんな情報を共有する必要があるのだろうか。
滝沢 医療の世界は、ICD(国際疾病分類)で情報がつながっていますが、患者さんを全人的に見ていくためにはICF(国際生活機能分類)の概念が必要です。しかし、それは電子カルテには入っていません。人生100年時代の医療情報、介護情報をどうやってつないでいくか。技術的な進歩はあっても、それを電子カルテという公的な診療記録のシステムの中で完結させることができるかが重要です。ICFの概念を使うためには、患者さんの個性をみていく必要があります。患者さんを助け、情報を入力しているスタッフを助けるようなシステムにどうつなげていくかを議論しています。
高橋 地域包括ケアシステムに求められているのは、慢性疾患を抱えている人の人生・生活をいかに支援していくかです。地域全体が横のつながりを持って、患者さんを核として安心、満足を提供することが求められている。そのためには情報の共有が必要なのですが、医療・介護の関係者や民生委員、さらに近隣に住んでいる人を含め、必要な情報が共有できていないという気がします。

 医療と介護の連携が言われますが、それぞれ欲しい情報は違うのです。例えば、医療では、どこまで延命医療を望むのかを知りたい。また、患者の家族の中でキーパーソンは誰なのか、退院先は確保できているのかといったことを知りたい。言ってみれば、患者や家族とのトラブルを避けるための情報が欲しいのです。
 一方、介護の側が欲しい情報は、やってはいけないケア行為は何か、誰が医療側をまとめてくれるのか、主治医は誰なのかということですね。
 お互いが欲しい情報は、データそのものよりもトラブルを回避する情報ではないかと思っているのです。そういう情報はどこにあるかというと、ICFの中にあります。ICFで個人の生活史をとらえる必要がある。入院している1~2週間の情報ではなくて、生涯を通じてその人の情報を蓄積しておく必要があり、そのためには、生涯カルテが必要になります。

電子カルテの標準化は進むか
 最後に2019年度予算に盛り込まれた医療ICT化促進基金について、高橋理事長にコメントしてもらった。電子カルテの標準化は進むだろうか。
高橋 300億円の基金ができることは評価しますが、電子カルテの標準化は以前から言われていることです。進まなかった一因として、大手のベンダーは、どうしても自社の製品を売ることを優先したがります。システムを構築する手間と労力はたいへんなものです。それを考えると、企業の枠を超えガバナンスの効いた組織で標準的なシステムを開発するしかないと思います。

 

全日病ニュース2019年2月1日号 HTML版

 

 

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  • [1] 第697回/2008年11月1日号

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2008/081101.pdf

    2012年3月7日 ... PACSを導入して ~看護業務の効率化に向けて~. 1-3-12 | 滝沢 礼子 特定医療法人
    社団 高橋病院. 地域医療連携ネットワークシステム『道南Medlka』を利用して. 【IT】. 第
    3会場(5F・スバル). 1-3-13~18. 【電子カルテ』. 16:00~17:00. 高橋 肇.

  • [2] 2007年9月1日号

    https://ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2007/070901.pdf

    げ、 後発医薬品の利用促進、3被用 議院山形県選挙区・当選2回)、西川京 ...... 電子
    カルテ. 人材育成. 接遇. 24-3~14. 2-4-15~21 2-4-22~28. 【在宅】. (MSW). 【栄養. 2-5
    -1~7. 地域連携). 2-5-15~21 ... 滝沢良明((財)日本医療機能評価機構事業部長).

  • [3] 平成19年度 事業報告・決算

    https://www.ajha.or.jp/about_us/plan/kessan_h19.pdf

    2007年4月1日 ... 平成17年に出版した「電子カルテと業務革新」の普. 及を図るためモデリングソフトを
    ...... プロジェクト」として作成を行った研修用教材を利用し、. 主に戦略的・効率的な医療
    ..... 滝沢 良明 (財)日本医療機能評価機構. 事業部長. 東 美智子 (財) ...

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