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ホーム全日病ニュース(2019年)第942回/2019年6月15日号働き方改革への診療報酬での対応を議論...

働き方改革への診療報酬での対応を議論

働き方改革への診療報酬での対応を議論

【中医協総会】猪口会長が要件緩和や人件費増の手当て求める

 中医協総会(田辺国昭会長)は5月29日、2020年度診療報酬改定に向け、働き方改革への対応を中心に議論を行った。全日病会長の猪口雄二委員は、人手不足と医師・医療従事者の働き方改革が病院に与える影響の大きさを強調。診療報酬改定で、各病院が効率化や合理化の取組みを進められるよう、施設基準や算定要件の緩和とともに、人件費が増加する分の診療報酬での手当てを求めた。これに対し、診療側からは同調する意見が相次いだが、支払側の委員からは、「働き方改革への対応で入院基本料や加算を引き上げるのはおかしい」との反発があった。
 医師の働き方改革では、医師に対する時間外労働規制が2024年度から適用される。それまでに医師の時間外労働を年間960時間以内とする必要がある。救急医療を担っているなど特例が認められる病院でも、年間1,860時間を超えることはできず、連続勤務時間制限やインターバルの導入など追加的な健康確保措置も義務化される。今後、労務管理の徹底や医師以外の職種へのタスクシェア・シフト、業務の効率化、医療機関間の連携・機能分化などを進めることで、医師の労働時間の短縮を目指すが、これらを行う原資を確保する上で、診療報酬での対応が重要になる。
 診療報酬改定では、これまでも勤務医の負担軽減の取組みや多様な働き方に対応する改定を行ってきた。特に、前回改定では、施設基準や算定要件の緩和を含め様々な見直しがあった。
 厚生労働省はこれらの取組みを進めている中で、今回医師の働き方改革が明確に定まったことを踏まえ、今後の議論の参考となる資料を示した。基本的には、医療機関内での取組みと地域全体での取組みに分けて、課題や論点を提示した。
 医療機関内での取組みは、「院内での労務管理や労働環境のマネジメントシステムを機能させる必要がある」とし、例えば、前回改定では総合入院体制加算において、医療従事者の負担軽減・処遇改善に資する体制の整備を要件に加えたことを示した。また、個別の取組みでは、◇タスク・シフティングの推進◇人員配置の合理化◇チーム医療・複数主治医制等の推進◇書類作成・研修要件等の合理化─をあげた。
 地域全体の取組みでは、働き方改革の影響が特に懸念される救急医療、小児・周産期領域の体制を課題とした。救急医療については、「第三次救急医療の中でもより質の高い医療を提供する医療機関への重点的な評価」、「診療所における救急患者への診療の評価」を行っているとした。小児・周産期領域については、「再編統合を含む集約化・重点化が必要とされている。診療報酬においては、手厚い人員配置等に対する評価を行っている」と説明した。

猪口委員が病院の効率化・合理化で報酬引上げ含め様々な見直しを要望
 厚労省の説明を受け、猪口委員が発言した。まず、医師の働き方改革により、医師の増員など人件費の増加は明らかであるとして、「入院基本料の引上げを考えてほしい」と述べた。次に、医師事務作業補助体制加算について、医師の負担軽減策に効果があると評価した上で、99床以下の病院の67%が届出をしていないことを指摘。「年間の緊急入院患者数や手術件数の要件が厳しい」と述べ、要件緩和を要望した。
 様々な診療報酬項目で「専従」の医師・看護師の配置が要件となっている。このことに対しては、「『専従』は100%その仕事に従事していなければならない。もう少し弾力的に見直してほしい」と述べた。また、常勤薬剤師2人以上の配置を求める病棟薬剤業務実施加算は、一人配置の場合の評価を設けるべきとした。事務の効率化・合理化では、ICTの活用を含め、「書類作成・研修要件等の合理化」などを前回改定に引き続き、進めていくことを求めた。
 最後に、救急医療管理加算の見直しなどを念頭に、救急医療体制の評価について、「二次救急医療機関を都道府県がどのような考え方で指定しているかを踏まえないと、全国一律の救急医療の評価をどう設定すべきかを決められない」と指摘。厚労省に実態把握を求めた。
 これらの意見に対し、他の診療側の委員も「これまでの勤務環境改善策で設けた加算等は中小病院にとっては取りにくい面があった」と指摘し、改善を求めた。また、介護保険に関わる問題として、「要介護認定の際の主治医意見書が大学病院の先生にとって負担で、認定が遅れがちであるとも聞いている。介護の必要性を記述するものなので、大学病院の医師が書くよりも、かかりつけ医が書いたほうがよいのではないか。かかりつけ医に連絡し、書いてもらうことを診療報酬で評価すれば、急性期の大病院の勤務医負担軽減につながる」との意見も出た。
 一方、支払側の委員からは反発があった。健康保険組合連合会の委員は、「働き方改革への対応で生じる費用は、診療報酬を上げて患者が負担するのではなく、ICTも活用した病院のマネジメントの向上や職員の意識改革で対応すべきもの。そのような効率化の取組みを阻害しているものを取り除くための見直しは必要と理解する。だが、入院基本料や加算を引き上げるのはおかしい。地域全体の取組みでは、地域医療構想を推進し、医療機能の分化・連携などで効率化するとともに、大病院の定額負担対象病院拡大などで患者の行動変容を起こし、外来の機能分化を進めて、大病院の外来受診を減らすことが必要になる」との趣旨の意見を述べた。
 これに対し猪口委員は、「今の診療報酬は様々な要件でがんじがらめにされているので、それを実態に合うよう現代化して、病院がマネジメントの向上に取り組める診療報酬にする必要がある」と返した。日本医師会の委員は、「加算の引上げなどで対応するのはおかしいとの意見には、明確に反対する」と述べた。

がん遺伝子パネル検査2品目を了承既存点数を準用し5万6千点
 中医協総会は同日、がん遺伝子パネル検査の2品目を了承した。がん患者の遺伝子を網羅的に調べて、遺伝子異常変異をみつけ、診断や治療方針決定に役立てる。これまでにない先進的な検査で、複雑なプロセスを要するため、全国11カ所のがんゲノム拠点病院と156カ所の連携病院に限定されるが、将来的には、全国どこでもがんゲノム医療を受けられる体制を目指す。新たな治療法につながるため、患者の遺伝子情報はがんゲノム情報管理センター」(C-CAT)に提出する。
 了承されたのは「NCCオンコパネル」(シスメックス)と「FoudationOneCDx」(中外製薬)。特定保険医療材料ではなく、新規技術料で評価するが、設定は診療報酬改定時となるため、既存点数を準用する。準用するのは、「遺伝学的検査「3」処理が極めて難しいもの」(8千点)、悪性腫瘍組織検査(6千点)、粒子線治療(1万点)で、検体提出からエキスパートパネルを経て、レポートを作成し、患者への説明までの一連のプロセスを合算して、5万6千点とした。特定の遺伝子を対象としたコンパニオン検査として行われた場合は、その点数を算定する。
 がん遺伝子パネル検査の結果、治療薬が選択された場合は、その治療を受けることになるが、保険収載されていない治療薬も想定され、その場合は治験や先進医療、患者申出療養が選択肢となる。
 対象患者は①標準治療のない固形がん患者②標準治療が終了となった固形がん患者。「NCCオンコパネル」の患者数はピーク時で1万3,127人、市場規模は年間73億円、「FoudationOneCDx」の患者数は同1万3,532人、市場規模は年間75億円となっている。
 検査を実施する医療機関は、原則C-CATにデータを提出することを要件としている。現段階でがん遺伝子パネル検査により、治療に直接つながる遺伝子は限定的である。今後、検査で得られる遺伝子情報・臨床情報がC-CATに集められ、解析されることで、新しい治療法や予後の情報などが患者に提供されることが期待される。
 一方、遺伝子情報を提供することには懸念もある。このため、個人情報等の取扱いについては、個人情報保護等関連法令等を遵守するとともに、患者の求めに応じて検査結果を患者に返却できる体制を整備することも要件とした。また、データの二次利用については、患者の同意を得る必要がある。

 

全日病ニュース2019年6月15日号 HTML版

 

 

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  • [1] 全日病ニュース・4月1日号・HTML版

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    が大詰め: 特例水準の対象医療機関は約1,500施設. <中医協総会 ...

  • [2] 第927回/2018年10月15日号 HTML版:全日病ニュース:全日病の ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20181015/index.html

    2018年10月15日 ... 医師の働き方改革と救急・災害医療を議論: 地対協の通知について解釈文書を要望 ...
    DPCデータ提出が要件化される病院の範囲を変更: 中医協総会2018 ... 5疾病・5事業
    、在宅医療の取組み状況を報告: 調整会議で個別疾病議論すること ...

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