全日病ニュース

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入院中の転倒等の死亡事例を分析

入院中の転倒等の死亡事例を分析

【日本医療安全調査機構】6テーマで8つの提言

 日本医療安全調査機構(髙久史麿理事長)は5月31日、「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析」を発表した。入院中の転倒・転落で患者が死亡した11件の調査報告書を6テーマで分析。8つを提言した。明らかな異常を認めなくても、頭部CT 撮影を行うことや、保護帽の使用など頭部外傷を防ぐ取組みを示した。リスクの高い患者が増え、現場が疲弊していることから、多職種が連携する体制整備なども提言している。
 2015年10月から始まった医療事故調査制度では、院内で起きた医療事故を同機構が運営する医療事故調査・支援センターに報告し、医療機関が院内調査を実施する。調査報告書はセンターに集積され、それを分析し、公表することにより、再発防止を目指す。なお、医療機関や医療事故の遺族は、センターにも調査を依頼できる。
 今回、2018年12月までの3年3カ月間に提出された908件の院内調査の報告書の中で、11件の「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷にかかる死亡事例」を取り上げ、分析した。
 分析は、①転倒・転落後の診断と対応②転倒・転落時に頭部への衝撃を和らげるための方法③転倒・転落リスク④情報共有⑤転倒・転落予防に向けた多職種の取組みにテーマを分けて行った。その上で、8つを提言した。
 転倒・転落後の診断と対応では、高齢化や抗凝固薬・抗血小板薬の使用率の増加により、転倒・転落後の頭蓋内出血のリスクが高いと推定されるため、診察や画像検査を速やかに行うことを推奨した。明らかな異常を認めなくても、頭部CT 撮影を行うことを勧めている。初回CT で何らかの出血の所見がある場合は、急速に増大する危険性があるため、数時間後に再度、頭部CT を撮影することを考慮すべきとの記述も加えた。
 常勤の脳神経外科医師がいない病院や時間帯では、脳神経外科手術が可能な病院に転送できる体制を構築すべきとした。
 転倒・転落時に頭部への衝撃を和らげるための方法としては、衝撃吸収マットや低床ベッドの活用のほか、患者・家族の同意の上で、保護帽の使用の検討をあげた。
 転倒・転落リスクについては、「リスクが高い場合には対策を講じている病院がほとんどであるが、ベッド周囲の環境整備、患者介助の仕方、睡眠薬などの薬物使用、人員配置に課題がある」と指摘している。
 高齢者や認知症などのリスクの高い患者の増加に伴い、少ない看護人員体制の中で、ケアや転倒・転落予防対策を講じる必要があり、「現場の疲弊につながっている」とも明記した。その上で、看護師以外の看護助手や介護士の増員の検討を提案した。
 特に、転倒・転落リスクの高い患者へのベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤など抗精神薬の慎重な使用を求めた。
 また、入院患者の病態は、転棟・転院など環境の変化を含め、変わることから転倒・転落リスクも変化する。このため、医療スタッフ間における情報共有の重要性を指摘した。
 最後に、多職種の取組みとして、転倒・転落リスクの高い患者に対するアセスメントや予防対策について、「医師や看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士などを含めた多職種で連携して立案・実施できる体制の整備」を提言した。
 総論として、高齢者の転倒・転落は様々な原因で発生する「老年症候群」の一種であり、完全に予防することは不可能と指摘。しかしながら、リスク評価や対策を講じ、「転倒・転落後に頭部外傷がある場合には、適切な対応がなされることが望まれる」とした。

 

全日病ニュース2019年6月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究 研究報告書

    https://www.ajha.or.jp/topics/kouseiroudoukagaku/pdf/h26kk_houkoku.pdf

    2015年3月19日 ... 末尾資料3 モデル事業における解剖協力施設(日本医療安全調査機構資料) ················
    ··· 51. 末尾資料4 死亡 ...... 裂、頸椎骨折といった外傷性変化の解剖所. 見と死亡時
    画像 ...... ろ、床上に転落、頭部を強打した結果、脳挫傷を起こし、死亡した。 (解釈) ......
    受理側(. 医療安全調査機構). ・. 参加登録医療機関職員(. 多職種).

  • [2] 医療事故情報収集等事業第33回報告書の公表について(厚生労働省医 ...

    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2013/130703_1.pdf

    2013年6月27日 ... 療機能評価機構より、第33回報告書が公表されました。 ... 本報告書につきましては、
    別途、公益財団法人日本医療機能評価機構から貴職 ... (2)「MRI検査室への磁性体(
    金属製品など)の持ち込み」 (医療安全情報6, ...... 当該放射線技師はMRI検査を行う
    ことはまれであり、数年前に頭部外傷を ... 多職種間の連携不足があった。

  • [3] 日本の医療・介護を考える ~(社)全日本病院協会の取組み

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/080329_iryou.pdf

    医療安全確保,継続的な質向上,情報基盤の整備,医療制度改革への提言 .... 合同
    調査などを行い,厚生労働省(厚労省)などに提言や要望などを行っています。 ... 国立
    大学附属病院長会議,日本療養病床協会,独立行政法人労働者健康福祉機構が所属
    し ...... 医師など職種別従事者数,面会時間などの入院環境,夜間・時間外の受入体.

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