全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2019年)第949回/2019年10月1日号医療情報化支援基金は何を目指しているのか

医療情報化支援基金は何を目指しているのか

医療情報化支援基金は何を目指しているのか

【鼎談「医療ITの今後に関する提言」をめぐって】病院の現場に役立つIT化を期待

健康保険法等の改正により、本年10月、医療情報化支援基金が創設されるが、現段階で詳細が明らかにされていない上に目的や方策も不明確な部分がある。こうした状況を踏まえて、全日病は8月、「医療ITの今後に関する提言」をまとめ関係方面に示した。そこで、提言をまとめるにいたった経緯や医療ITの今後の取組みについて、ご議論いただいた。

出席者(文中敬称略)

飯田修平
全日病医療の質向上委員会副委員長
医療ITの今後検討プロジェクト リーダー
公益財団法人東京都医療保健協会練馬総合病院 理事長・院長

永井庸次
全日病医療の質向上委員会委員長
医療ITの今後検討プロジェクト サブリーダー株 式会社日立製作所 ひたちなか総合病院名誉院長

長谷川英重
OMGアンバセダ・WfMCフェロー

※座談会は9月1日に行われました。


飯田修平氏


8月に医療ITに関する提言まとめる


飯田 医療ITの今後検討プロジェクトで、「医療ITの今後に関する提言~特に相互運用性に関して~」をまとめ、理事会の承認を得て全日病ニュース9月15日号に掲載しました。そこで、提言をまとめるに至った背景を知ってもらうため、紙面を借りて話し合いたいと思います。プロジェクトのサブリーダーである永井常任理事と海外のIT事情に詳しい長谷川さんにご出席いただきました。
 昨年の秋頃から、永井さんと医療ITについて考える必要があるという話をして、医療の質向上委員会の中にプロジェクトを立ち上げることにしました。特にアメリカで、FHIRが普及しており、これについて早急に勉強する必要があると感じていました。7月30日には、この問題について、研修会(医療ITの今後―特にFHIRの動向について)を行い、大きな反響がありました。
 今年度の予算で、医療情報化支援基金の300億円が認められ、そのうちの150億円を電子カルテの標準化に向けた支援に当てることになりました。その後、健康保険法改正が成立し、10月から基金が創設されることが決まりました。こうした状況を踏まえ、事業が動き始める前に提言を出そうということで、プロジェクトメンバーの協力を得て、8月に提言をまとめました。
 提言の目的は、一部の専門家、あるいは医療界にとどまらず、国をあげて医療ITの今後について考え、実運用する上での論点を明らかにすることです。この提言がその契機になることを期待しています。

150億円で電子カルテの標準化を進める


飯田 医療情報化支援基金は、発想は悪くないのですが、なかなか難しいと思います。基金には、二つの事業があり、一つはオンライン資格確認の導入に向けたシステム整備の支援であり、もう一つは、電子カルテの標準化に向けた電子カルテシステム等導入の支援です。今日は、オンライン資格確認には触れないこととし、電子カルテの標準化に絞って議論します。
 これまでも情報化の補助金がありましたが、はっきり言ってばらまきであり、国として一定の枠組みをつくることに使われませんでした。今回も同様の危惧があります。予算を使うのであれば、きちんとした枠組みをつくる必要があります。来年度予算でも支援基金に300億円の予算がつきそうです。それだけのお金があるのであれば、病院の現場に役立つ形で使ってほしいのです。病院における運用を考えずに、情報システムを整備しても動きません。電子カルテに限らず、きちんとした業務フローがなければ情報システムは実現しないのです。
 永井さんから、医療情報化支援基金の概要を説明してもらえますか。
永井 医療情報化支援基金の趣旨として、「国が指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステム等を導入する医療機関等にその導入費用を補助する」と書かれています。その上で、国が指定する標準規格として、医薬品や病名等の標準コードや医療情報の出力形式などを想定しているとし、具体的な要件は、有識者の意見を踏まえて検討すると説明されています。
飯田 せっかく医療情報化支援基金ができますが、このままでは、過去の失敗を繰り返すことになるのでないかと危惧しています。医療情報化支援基金の問題点については、提言の中で指摘しました。
 まず、事業の詳細に関して未定、あるいは公表されていない、目的・方策が不明確であることが問題です。そのことと関連しますが、用語の定義が不明確です。「電子カルテの標準化」と「電子カルテシステム等」を使い分ける意味がわかりません。EMR・EHR・PHRを区別せず使っているので、明確に定義して議論すべきです。
 過去の失敗を危惧するというのは、医療情報システムの相互運用性確保を目的に、厚生労働科研費で研究を開始したものの、政策変更により中断した経緯があるからです。
 クリニカルパス等に基づいた試みもありましたが、病院全体の運用には至りませんでした。
 また、標準といいながら、標準化されていない部分が多くあります。例えば、厚労省の電子カルテ補助金の要件であった、SS-MIX2(StandardizedStructured Medical InformationeXchange 2)があります。これ自体はいいのですが、拡張ストレージというのがあって、電子カルテの大部分の情報は、拡張ストレージになっていて、この部分の互換性がないのが問題です。
 また、データの利活用に際して、個人の権利(個人情報保護)が軽視されがちであることも気になります。
 EMR・EHR・PHR のいずれにおいても、相互運用性が必須であり、目的に応じて、要求事項・仕様が異なります。いずれにしても、システム全体の統一ではなく、データの有効利活用のためのデータの相互運用性の確保が大切です。そのためには、データの規格を統一した上で、インターフェイスを整備する必要があります。
永井 医療情報化支援基金は電子カルテの標準化を支援するものですが、電子カルテといってもいろいろあるので、何を意味しているのかわからない。どういう電子カルテを導入するときに補助をするのかが見えません。
 標準化といっていますが、厚労省が認めている医療情報のコード体系は17くらいありますが、それで足りるのかどうか。それは、標準化しようとする医療情報によって変わってきます。相互運用によって医療機関同士でお互いの情報が見られるようにすることと、電子カルテの中身(EMR)を標準化するのでは、標準化の内容はまったく違ってきます。今までの標準化がうまくいっていないのだから、現在の標準化では足りないことは明らかでしょう。
 相互運用については、全国で20数カ所で地域医療情報ネットワークがありますが、全部うまくいっていません。補助金が出る間はいいが、出なくなると挫折します。このあたりの反省がありません。
 情報化支援基金の目的が大切で、電子カルテを標準化するのか、相互運用を標準化するのか、仕組みを標準化するのか、見えていないことが非常に懸念されます。
 さらに情報の標準規格を決める機関が不透明です。厚労省の保健医療情報標準化会議は、この2年間、開かれていないので、これで基金が動くのか心配なのです。

 

全日病ニュース2019年10月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 医療ITの今後に関する提言 ~ 特に相互運用性に関して ~

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/190829_3.pdf

    医療IT の今後に関する提言. ~ 特に相互運用性に関して ~. 公益社団法人全日本
    病院協会 医療の質向上委員会. 医療IT の今後検討プロジェクト. はじめに. 医療 IT の
    今後に関する重要な政策が決定され、運用されようとしている。2019 年 10 月には、.

  • [2] 医療事故調査制度に係る指針

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/150821_1.pdf

    に関する基本的なあり方」の提言がまとめられ、平成 26 年 6 月に本制度の創設を含む.
    医療介護総合確保推進法が成立し、本年 ... 飯田修平常任理事を中心とした検討
    プロジェクトチームに、医療事故調査制度に係る指. 針の作成を依頼した。 本制度は、
    医療 ...

  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2015年8月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2015/150815.pdf

    2015年8月15日 ...プロジェクトプロジェクトリーダー・. 飯田修平常任理事)で、厚労科研「医療. 事故
    発生後の院内 ... 員会の医学的調査に委ねるべきと提言、. その「明示的・ ... 機能区分
    中心に報告制度精緻化に取り組むことを確認。10月報告に向けた通知案も検討. 「地域
    医療構想 ... 括ケア病棟の機能はサブアキュート、. ポストアキュート、 ...

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。