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ホーム全日病ニュース(2019年)第950回/2019年10月15日号医師の働き方改革で単独の解決策はない

医師の働き方改革で単独の解決策はない

医師の働き方改革で単独の解決策はない

【特別講演2】鈴木康裕 厚生労働省医務技監

 医師の働き方改革は医療現場にパラダイムシフトをもたらす。それは、病院経営に直結する。ワークライフバランス意識の変化を生じさせるとともに、医師の「資格」の問題でもある。新たな時間外労働規制の違反は、懲役を含む罰則を伴うため、医道審議会による行政処分の対象になり得るからだ。
 医師は法律上、労働者である。応召義務など特殊性があるとされるが、違法な診療指示に勤務医が従わなくても、応召義務上の問題は発生しないと整理された。応召義務は、病院への救急搬送がない時代に、診療場所と自宅が一緒である開業医に患者が応急を求める場合を想定して作ったものである。
 また、医師に裁量労働制が採用できないのは、患者の応対で時間と場所が拘束される領域が大きいからだ。
 医師の働き方改革により、2024年度からの時間外労働の上限は、年間960時間(A水準)、年間1,860時間(B、C水準)となる。病院に対しては、まずは適切な36協定の締結と届出、時間管理の厳格化が求められる。
 B水準は、すべての医師をA水準にしてしまうと、2024年の段階でまだ約1万人の医師需給ギャップが存在すること、現状で1割の医師が1,860時間を超えて働いていることを踏まえて水準が決められた。これは医師の勤務実態調査に基づくが、実は在院時間に近く、正確な労働時間になっていない可能性があり、再調査を実施する予定だ。
 割増賃金が発生する時間外労働時間を管理するため、「宿日直」と「研鑽」を整理することは病院経営に直結する。
 例えば、年収1,200万円、月20日労働(月残業60時間超え)の医師が土曜深夜に当直した場合、時間外労働とみなせば割増賃金は8.5万円、宿日直の取扱いなら1.7万円となる。すべてに割増賃金を払えば、病院は成り立たない。診療科の特性を踏まえ、病院全体の当直体制の見直しが求められる。
 「研鑽」では、出退勤管理を厳格化し、「労働時間」と労働時間に該当しない「研鑽」を区別しなければならない。院内施設を利用して、研究や学会活動を行う場合の明確化などが必要だ。
 医師の働き方改革を実現するために何が必要か。決定的な単独の解決策はなく、「合わせ技」で考えるしかない。医師は医師でないとできない業務を優先させる。担当医制も検討課題となる。地域の医療機関の一定の集約化は必要だろう。国民の理解も不可欠だ。
 医師の働き方改革が新たな地域格差を生じさせる可能性もある。都会の多くの病院が医師を集めるために、A水準を採用し、医療資源が少ない地域で、A水準をどうしても採用できない病院がB水準になれば、さらに医師が集まらなくなるという悪循環が生じる。そのようなことにならないよう状況を注視していく必要がある。

 

全日病ニュース2019年10月15日号 HTML版

 

 

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    と自己研鑽をテーマに医師の働き方改革 ... 応召義務に関する研究の中間報告も行
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    2018年11月1日 ... 医師の働き方改革応召義務など5項目を要望|第928回/2018年11月1日号
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    宿日直④自己研鑽⑤時間外労働時間の上限規定─の5項目で要望した。

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