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ホーム全日病ニュース(2019年)第950回/2019年10月15日号公私の適切な役割分担で構想の実現目指す

公私の適切な役割分担で構想の実現目指す

公私の適切な役割分担で構想の実現目指す

【学会企画シンポジウム3】官民格差を徹底討論

 「官民格差徹底討論‼」と題したシンポジウムでは、地域医療構想の実現に向け、官民の病院がどう役割分担をするかをめぐり、お互いの主張を戦わせた。民間病院側は、東日本税理士法人の長英一郎代表社員、日本医師会の中川俊男副会長、日本医療法人協会の加納繁照会長が参加。公立病院側は、全国自治体病院協議会の小熊豊会長、日本病院会の末永裕之顧問が参加した。
 長代表社員は、山形県酒田市の地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」など民間病院と公的病院が連携し、グループ内で人材派遣や共同購入、患者紹介を行い、効率化を図っている事例を紹介した。
 中川副会長は、今回の公立・公的病院の再編統合の再検証の要請に関して、地域医療構想に関するワーキンググループにおける議論の要諦を説明。「最大の目的は、地域医療構想調整会議の活性化であり、公立・公的病院が過剰な危機感を持つ必要はない」と強調した。そして地域医療構想は、国が医療提供体制の変革を強制するものではなく、地域の自主性が前提であるとした。一方で、調整会議を機能させることができなければ、国の対応が変わってくる可能性があるとの危機感も示した。
 加納会長は、民間病院と公立・公的病院の競合状況について、データを用いて説明。特に、大都市のある都府県や人口の多い県では、救急医療などの診療実績で民間病院が公立・公的病院を上回ることを示した。また、診療実績は規模の大きな病院であるほど、多くなる傾向があるが、1床当たりの診療実績でみれば、民間の中小病院の方が優れている場合があり、適切な指標で比較する必要があると述べた。
 また、公立・公的病院の再編統合を、都道府県・市町村の首長が市民にアピールするための巨大病院建設につなげてはならないと訴えた。
 小熊会長は、公立病院の経営状況を示しつつ、民間病院は比較的都市部に多く、公立病院は人口の少ない地域で地域医療を支えていると主張した。経営状況については、非効率な面があることを認めた。具体的には、全体で8千億円の補助金などが投入されているにもかかわらず、赤字病院が多い。病床稼働率は民間より1割ほど低く、給与比率は1割ほど高い。医師の給与の差は小さいが、看護師をはじめその他の職種で高い傾向にある。ただし、院長の給与は民間の方が高いと指摘した。
 民間との代替可能性に関しては、「公立病院の機能は一律ではなく、地域により果たす機能は異なる。公立病院だけが担える医療に重点化すべきとの主張があるが、一般医療を行わないと病院として運営できない」と述べた。また、都市部では、救急医療の実績が民間の方が多いとの加納会長の主張に対して、「患者の重症度が違うのではないか」と指摘した。
 末永顧問は、「公立・公的病院と民間病院が変な対立構造を作ってしまうのはよくない」と過激な表現は控えるべきだとし、「競争」よりも「協調」を重視する地域医療構想の理念を強調した。今回、診療実績の乏しい公立・公的病院が再編統合の再検証の要請対象となったが、「選択と集中」より「公平と分散」を大事にした政策運営が大事であると指摘した。その上で、「その地域で、なくてはならない医療機関は、公立・公的、民間にかかわらず残すべき」と主張した。

補助金や重点化する機能めぐり議論
 その後、太田圭洋学会長の進行で議論が行われた。
 公立病院に多額の補助金が投入されていることについては、加納会長が「北海道など明らかに不採算医療が必要な地域は理解できる。しかし、大阪など都市部では、果たしている機能にそれほど差がなく、おかしいと思う」と述べた。長代表社員も、「設備投資や人件費が高い中で、赤字補てんがあるのは民間からみて不公平」と指摘した。小熊会長は、「補助金がなければ赤字というが、必要な医療を提供するための繰入金であり、国が法定しているもの」と説明した。
 公立・公的病院でなければ担えない機能については、小熊会長が「重粒子線治療など高額な設備投資が必要ながんの領域がある。また、小児、産科、精神科などは不採算になりがち」と説明。これに対し中川委員が、「不採算の医療をあげると話がおかしくなる。私が強調するのは不採算地域の医療だ」と違いを指摘した。末永顧問は、「医療資源が少ない地域で公立病院が回復期を担うことはあり得る」と述べた。
 太田学会長は最後に、「官民の相互理解にはまだ充分でない面があり、もう少し議論が必要だと感じる」と述べ、シンポジウムを締めくくった。

 

全日病ニュース2019年10月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 「地域医療構想」:みんなの医療ガイド - 全日本病院協会

    https://www.ajha.or.jp/guide/28.html

    地域医療構想では、二次医療圏を基本に全国で341の「構想区域」を設定し、構想区域
    ごとに高度急性期、急性期、回復期、慢性 ..... や現状の病床稼働率を踏まえてもなお、
    公立病院が提供する必要がある医療であるのかどうか、民間医療機関との役割分担
     ...

  • [2] 地域医療構想、働き方改革、偏在対策の三位一体|第940回/2019年5 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20190515/news01.html

    2019年5月15日 ... 厚生労働省は、①地域医療構想の実現②医師・医療従事者の働き方改革③医師偏在
    対策を三位一体の改革と ... その上で、急性期で公民の役割分担が確認された後に、
    地域に応じた医療提供体制を実現するため、民間病院同士が競合する ...

  • [3] 地域医療構想の議論の進め方を関係者で議論|第912回/2018年3月 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20180301/news06.html

    2018年3月1日 ... 都道府県関係者や地域医師会、大学関係者などが集まり、地域医療構想の進め方など
    を議論した。 ... その場合に、民間病院では担えない政策医療が期待されていることから
    民間病院との役割分担を確認し、公立・公的病院だけが担える ...

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