全日病ニュース

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病院の診療実績データをどう活用するか

病院の診療実績データをどう活用するか

新春座談会民間データの公表に際しどの指標で実績を示すかを考慮すべき

猪口 あけましておめでとうございます。さて、厚生労働省の医政局を中心に地域医療構想、医師偏在対策、医師の働き方改革について議論が進められていますが、いずれも地域の医療提供体制に対し、非常に大きな影響を与えうるものです。そのため、地域の病院からは今後の動向に強い関心が寄せられているところです。吉田学医政局長を囲み、この3つのテーマで議論を行っていきます。

地域医療構想の議論の進め方民間の診療実績データも公表

猪口 まず地域医療構想について、全体的には、なかなか思ったような形で進行していないのではという気がします。公立・公的病院のデータが2019年9月26日に公表されましたが、民間病院のデータはいつ出すのでしょうか。
吉田 公立・公的病院のデータ公表については地域医療構想に関するワーキンググループでの議論を踏まえて行いました。民間病院についても、どういうデータを、どのようにお示しすれば調整会議での議論に役立つのかという点について、地域医療構想の目的に鑑みて、よく考える必要があると思っています。
 今回行った公立・公的病院のデータの公表は、公立・公的病院には税金や一般会計からの支援が入っているというだけでなく、高度急性期・急性期のベッドに占める公立・公的病院の比率が高く、高度急性期・急性期を選択されている割合が大きいからです。だからこそ、病床機能に着目し、高度急性期・急性期に焦点を当てて議論しようと思うと、公立・公的病院のあり方を地域毎に考えていただくのがいい。
 一方、民間病院では高度急性期・急性期に限らず、回復期や慢性期など幅広い医療が提供されている。各地域で地域医療構想の議論を進めていただくための材料とすることを考えれば、高度急性期・急性期だけでなく、もっと幅広く分析するための手がかりとなるデータを、専門家の皆さんのご意見もうかがいながら、考えていかないといけないと思います。
 また、公立・公的病院の方々からは、民間病院データも出してほしいとの要請もいただいています。先のデータ公表において、民間との競合で「より実績が少ない」と言われた公的・公立病院の立場からすると、「どこに競合する病院があるのだ」という疑問をお持ちになるのはよく理解できます。こうしたことも含めると、民間のデータも含め、全体の情報を提供することにニーズや意義があると思いますので、できるだけ早く議論を進めていきたいと考えています。
猪口 公立・公的病院424病院について示した6項目とは、基幹病院が担う役割ですね。基幹病院になれる民間病院はほんのわずかなので、同じスコアでやっても仕方がない。
吉田 そう思います。民間病院の幅広いカバレッジを踏まえて、調整会議の議論を促進するような材料を出していきます。
織田 再検証対象の公立・公的病院の要件の一つであるAフラグの9項目は、どちらかというと公立・公的病院が繰入金をもらっても仕方がない部分で、民間とは比較できないと思います。一方、Bフラグについては、類似、近接ですから、民間病院のデータを出さないと比較にならない。情報の出し方は、マスコミがセンセーショナルに取り上げないよう、各都道府県に委ねたらどうですか。
吉田 公立・公的病院のデータ公表の際、424病院の固有名が患者や住民、職員の方々に与えた影響をみて、いま少し配慮を行うべきであったと反省しています。民間病院のデータを各調整会議に提供する際には医療現場や住民の皆様に誤解や不安を与えないよう、対応を進めていきたいと考えています。
猪口 公立・公的病院と一言でいっても、公立病院は比較的、基幹病院が多く、公的病院はそうでもありません。東京都の調整会議でも名前の挙がった公立・公的病院について議論されました。神経疾患や整形外科中心の病院は問題なしとなり、議論対象となったのは2病院だけでした。いずれも100床ちょっとなので、公立で基幹病院的なことをやることは無理なのです。その規模からも、地域できちんと役割を果たしてきたことから、再検証として問題ないという判断で終わりました。
 公立病院と公的病院を同じものさしでみたのは、公的病院にはかわいそうでした。
吉田 担当局長として皆様と議論をさせていただく中で、地域医療構想は非常に難しいプロジェクトであると痛感しています。地域ごとに医療ニーズを示し、それにふさわしい病床規模と病床機能を示しながら、そこに行く方法論は個々の医療機関や地域が考え、病床規模と病床機能をそれぞれ2025年に向けに変えていく。一方で、調整会議の議長が割り付ける権限を持っているわけではない。各病院は自院のことで悩むでしょうし、それぞれの病院の結論を地域全体で合わせて、みたときに、それが地域としての望ましい絵柄と一致するかどうかが自動的に保証されていないのです。
猪口 全くその通りだと思います。
 地域によって差があり、例えば織田副会長のところの佐賀は、人口が減少するなかで病院も比較的多く、かなり真剣に話し合いをされています。東京都は二次医療圏の構想区域があまりに大きく、どうやってやるのかというのが正直なところです。
中村 埼玉県もそうです。調整会議には、患者さんを公的病院から紹介してもらっている回復期の病院の先生や療養病床の先生がいますので、会議の場で公的病院に押し切られてしまうのです。調整会議で本音の議論ができているかというと微妙だと思います。
吉田 構造的な難しさや、地域によってばらつき、課題はあるのですが、現状ではやはり、調整会議で議論を尽くしていただくということになります。ニーズと提供側がミスマッチの状態を長く続けていくことは無理が生じます。重要なことは地域にとっても、個々の医療機関にとっても、合理的に、かつ納得ずくで、質の高い医療に向けて変わっていただくのを我々がどう支援できるか。これがやり続けなければいけない仕事であると思っています。
猪口 PDCA の繰り返しですが、もう2025年まであと5年になりました。
織田 公立・公的病院の動きが調整会議で見えますから、我々はその情報を把握していかなければいけないですね。調整会議では合意しない人が一人でもいたら決まらないので、我々もしっかり意見を言わなければいけないと思います。うまく使っていきたい。
猪口 公立病院については、地域で合意ができても、首長さんが同調してくれないことがあります。
吉田 公立病院の場合は首長・議会をはじめとする自治体の顔をお持ちです。公的病院にも本部があります。我が国の地域医療は、それぞれの主体の合わせ技で成り立っています。
猪口 人口が減ることだけは間違いないので、地域で急性期医療をどうやって確保していくかを、話し合いで決めていくのが一番いいのだと思います。
織田 能登北部や壱岐の構想区域を見に行ったところ、若い人がどんどん減っていて、医療・介護の支え手がいなくなってきています。地域医療構想よりも地域包括ケアシステムをどうするのかを早く議論しなければならないと思います。地方のニーズはピークアウトしてきていますからね。
安藤 公表するかしないか以前の問題で、公的・公立病院と民間病院が、地域の医療がよくわかるような同じようなインディケータをつぶさにつくって、それをもとに、経営指標も入れて、ざっくばらんに話ができるような仕組みを作ったほうがいいと思います。
織田 調整会議には様々なステークホルダーがいるから、部会をつくり、病床を持つ医療機関が真摯に向かい合う場とすべきです。その上で、本部があるところは本部に相談すればいい。
猪口 そうですね。調整会議本体ではなかなか議論が進まないですから。
吉田 人口減少のなか、コミュニティ全体を支えるという観点からも、地域包括ケアを視野に入れた地域医療構想、医療計画が求められていると思います。医療だけでなく、生活支援、もっといえばまちづくりまでを視野に入れて、論じるべき課題だと強く感じます。
 医療に話を戻せば、やはり提供側の人が減っており、医療従事者の偏在と働き方の問題になります。大学を含めた医育機関が地域医療のかたちをどう考えるか。もちろん全体をコーディネートする地元の自治体の役割も大きい。地域医療構想は、偏在対策、医師確保と密接に関わるので、この3つを一緒に進めなくてはいけないと考えています。
織田 地域医療構想は今ですらこの状況なのに、働き方改革と偏在対策も関係づけたら、何から話していいかわからない状況というになるのではないでしょうか。
吉田 切実な課題は地域によって違うのかもしれません。まず医師の確保・派遣・偏在の問題から議論を始め、病床のあり方を議論せざるをえない場合もあるでしょう。あるいは、病床をまず議論して、その上で医師確保の問題にいく場合もあると思います。

 

全日病ニュース2020年1月1・15日合併号 HTML版

 

 

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  • [1] Untitled - 全日本病院協会

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2008/080515.pdf

    2012年3月7日 ... 自院グループの平成20年度事業計画 ... とか警察に通知するということはおか 拠隠し
    といった違法なケースは例外に そうした目的の組織であるというので 猪口副会長 事故
    調査の組織 ... の組織というのは何を手がかりにどう 出が難しくなる。 ... ○50周年記念
    事業準備ワーキングチーム・ る寄付金が 143会員病院から236万円(4.

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