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ホーム全日病ニュース(2020年)第955回/2020年2月1日号消費税引上げによる増収分活用で社会保障は1兆494億円増

消費税引上げによる増収分活用で社会保障は1兆494億円増

消費税引上げによる増収分活用で社会保障は1兆494億円増

【政府予算案】自然増は薬価改定などで4,111億円に抑える

 政府は12月20日、2020年度予算案を閣議決定した。厚生労働省予算案は一般会計で32兆9,861億円。対前年度比で3.2%増加した(1兆220億円増)。大部分(99%)を占める社会保障関係費は32兆6,323億円で、1兆494億円増となった(3.3%増)。医療や年金の経費が高齢化などで伸びる、いわゆる自然増は4,111億円に抑えたが、消費税引上げに伴う「社会保障の充実」が充てられ、全体で1兆円を超える伸びとなっている。
 厚労省予算案のうち、社会保障関係費を除いたその他の経費は3,538億円で、同7.2%の減少(274億円減)。東日本大震災復興特別会計は170億円で同20.2%の減少である(43億円減)。なお、令和元年度予算額、令和2年度予算案のいずれも、臨時・特別の措置は除いている。
 社会保障関係費のうち、年金が最も多く12兆4,615億円で、同4.0%増加した(4,745億円増)。次いで、医療の12兆2,674億円で同2.3%増となっている(2,700億円増)。介護は3兆4,038億円(同5.4%増、1,736億円増)、福祉等が4 兆4,517億円( 同3.0% 増、1,303億円増)、雇用が480億円(同2.0%増、10億円増)である。
 医療費の内訳は、全国健康保険協会(協会けんぽ)が1兆2,628億円で559億円増、国民健康保険が3兆3,277億円で321億円減、75歳以上の後期高齢者医療が5 兆3,619億円で1,312億円増、生活保護の医療扶助など公費負担医療が1兆9,095億円で379億円増となっている。
 なお、厚労省の社会保障関係費の増加は1兆494億円だが、政府全体の社会保障関係費は内閣府の子ども・子育て支援などがあり、全体では、1兆7,495億円の増加である。
 社会保障関係費の増加が今回1兆円を超えたのは、消費税率引上げの財源を「社会保障の充実」に充てたため。消費税引上げは社会保障の財源確保が目的であり、現行で財源が確保できていない分を埋めるだけでなく、「社会保障の充実」も行っている。2019年度の2兆1,930億円が、2020年度予算案では消費税引上げにより、5,181億円増えて2兆7,111億円となった。政府は、「消費税増収分2.3兆円と社会保障改革プログラム法等に基づく重点化・効率化による財政効果(▲0.4兆円)を活用し、2.7兆円を確保した」と整理している。
 2020度予算案の増加分として大きなものをみると、◇介護保険の1号保険料の低所得者軽減強化(450億円→786億円)◇国民健康保険の保険者努力支援制度(1,772億円→2,272億円)◇医療情報化支援基金(300億円→768億円)がある。そのほか、診療報酬改定の消費税財源活用分や地域医療介護総合確保基金(医療分)の増額などもある(後述)。
 消費税増税分は、2017年12月8日に閣議決定し、一部はすでに実施している「新しい経済政策パッケージ」(9,156億円)の安定財源としても使われている。「介護人材の処遇改善」は2019年度10月実施で、506億円を投入した。◇待機児童の解消(358億円)◇幼児教育・保育の無償化(3,410億円)◇高等教育の無償化(4,882億円)─もある。
 いわゆる自然増は4,111億円に抑えた。増大し続ける社会保障の費用を抑制するため、2020年度予算案でも、夏の概算要求段階の見込み額(5,300億円程度)を圧縮することが、予算編成過程で求められた。結果として、4,111億円まで圧縮することができたが、今回も頼ったのは薬価改定だった。
 薬価等改定は▲1,100億円程度。診療報酬本体の改定率が0.55%で500億円程度を当てるので、▲600億円となるが、介護納付金の全面総報酬割の財政効果が▲600億円程度になった。ほかに、被用者保険への支援の廃止や年金給付の増額分などをあわせ、1,200億円程度の圧縮が可能となった。
 勤務医の働き方改革の推進や地域医療構想の推進のために、新たな予算が確保されたのも2020年度予算案の特徴だ。地域医療介護総合確保基金に勤務医の働き方改革を推進する新規対応分を設けた(公費143億円)。対象病院は、地域医療で特別な役割を果たし、かつ過酷な勤務環境であると都道府県知事が認める病院であり、客観的要件を設定する。診療報酬改定での消費税財源を活用した「救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応」(0.08%、公費126億円)の対象とは重複しないようにする。
 医師の労働時間を短縮させる具体的な取組みとして、◇勤務間インターバルや連続勤務時間制限の適切な設定◇当直明けの勤務負担の緩和◇複数主治医制の導入◇タスク・シフティング、タスク・シェアリングの推進─を示した。補助対象経費として、ICT等機械、休憩室整備費用、改善支援アドバイス費用、短時間勤務要員の確保をあげ、パッケージとして補助する。
 地域医療総合確保基金に「勤務医の働き方改革の推進」の役割が加わることで、同基金の役割は4つとなる。他はこれまで通り、「病床の機能分化・連携(地域医療構想を踏まえた基盤整備)」、「在宅医療の推進(地域包括ケアシステムの構築に向けた拡充)」、「医療従事者等の確保・養成(病床機能等に対応した人員配置等)」がある。基金の医療分の予算額は、2019年度の1,034億円から1,194億円に増える(国分796億円、地方分396億円)。
 地域医療構想の推進では、今回、基金とは別に「病床ダウンサイジング支援」を設ける。一般財源で国費84億円を措置。地域医療介護総合確保基金と別に対応するのは、「自治体の財政力により、地域医療構想の推進の取組みで、差が出ないようにする」ためと、厚労省は説明する。具体的には、稼働病床を1割以上削減する病院に補助金を交付する。統廃合の場合は別の支援も用意する。職員の退職金割増や建物の建替え補助では、既存の枠組みで基金の財源を活用できるため、両者を区別する。公立・公的に限定せず、民間病院も活用できる。一般財源で措置するのは、2020年度に限り、2021年度以降は、消費税財源による「医療・介護の充実」として使えるよう法改正する。
 2019年10月から施行され、300億円を積んだ医療情報化支援基金は768億円を上乗せ。①オンライン資格確認の導入に向けた医療機関・薬局のシステム整備の支援②電子カルテの標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入の支援─の原資とする。
 社会保障関係費など義務的経費以外の予算では、地域医療構想、医師偏在対策、医師の働き方改革に対応する様々な予算を用意している。
 地域医療構想関連は上述のとおり。
 医師偏在対策では、2020年度から医師少数区域で診療に従事した医師を認定する制度がスタートするため、新規で2億円を確保した。幅広い領域の疾患等を総合的に診ることができる総合診療医の養成・確保では、医学教育から卒後の臨床研修以降のキャリア支援を継続的に行うため、2019年度の3.6億円から9.5億円に増やした。
 医療従事者の働き方改革の推進では、基金や診療報酬以外の予算でも幅広く施策がある。予算も2019年度の35億円から69億円に増やした。
 具体的には、◇ICT活用やタスク・シフティング等の勤務環境改善・労働時間短縮に取り組む医療機関の支援(3.9億円→21億円)▽特定行為に係る看護師の研修制度の推進(5.6億円→6.6億円)◇医師事務作業補助者・看護補助者の確保支援( 新規1千万円)◇女性医療職等のキャリア支援(1.9億円同額) ◇Tele-ICU体制の整備促進( 5 億円→5.5億円)─などがある。

 

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