全日病ニュース

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救急救命士の院内での活用で具体案

救急救命士の院内での活用で具体案

【救急医療等検討会】救急外来に限定し救急救命処置を実施可能に

 厚生労働省は2月6日、救急・災害医療提供体制等のあり方に関する検討会(遠藤久夫座長)に、救急救命士の院内での活用について、いわゆる救急外来に限定し、現状で認められている33項目の救急救命処置を重度傷病者に実施できるよう法改正することを提案した。救急救命士を院内で活用する案が具体化された形だが、まだ検討会で了承は得られておらず、次回以降のとりまとめを目指す。
 医師の働き方改革に対応するため、タスク・シフト等の推進の一環として、救急救命士の院内での活用は、病院団体が強く主張しており、厚労省も積極的に検討を進めている状況にある。ただ、日本看護協会は現段階で反対姿勢を変えていない。救急救命士が救命率の向上を目指し、他の職種よりも、場所・行為を細かく限定した特殊な職種であることから、慎重な検討が必要だとする有識者の意見も出ている。
 厚労省がこれまでの議論を踏まえ、①救急救命処置の対象者は、従来どおり重度傷病者とする②救急救命処置の範囲は、現行の33項目に限定する③場所はいわゆる救急外来まで─との具体案を提示した。
 イメージとしては、消防署の救急救命士は搬送中に患者へ救急救命処置を行うが、医療機関に到着すれば、救急外来で救急救命士から医療機関に患者を引き継ぎ、消防署に戻る。院内の救急救命士は、救急外来で医師の指示の下、救急救命処置を行い、集中治療室など入院病棟に移す段階で、医師・看護師に引き継ぐ。院内で救急救命士が救急救命処置を行うに当たっては、他の医療職種と同様に、医師から具体的な指示を受ける必要があるとしている。
 救急救命士に認められている救急救命処置は、医師の包括的指示で実施できる28項目と、具体的な指示がないと実施できない5項目がある。28項目には、「胸骨圧迫」「圧迫止血」「経鼻エアウェイによる気道確保」などがあり、5項目にはエプネフリンや乳酸リンゲル液の投与などがある。これらの範囲であれば、傷病者に対して安全に医療を提供できると判断した。
 「救急外来」については、診察室の有無やER体制を取っているかなど、様々な運用の形態があり、定義は難しい。一般的な概念として、入院あるいは帰宅になるまでの診察、検査、処置等を行う場と位置づけた。
 入院中の急変への対応も問われたが、通常の病棟業務で、基準となる看護配置の下で、看護師が対応していると想定されるため、必要性は低いと判断された。急変時に他の医療職種が周囲にいない場合は、心肺蘇生などを救急救命士が行うことは、一般的な「緊急避難の法理」が適用される。
 これらの仕組みで救急救命士が院内で救急救命処置を行うに際して、医療機関には相応の体制が求められる。
 具体的には、◇指示に関する規定◇行為や範囲に関する規定◇研修体制◇検証の体制─を整備するとともに、院内委員会を設置する。現行では、メディカル・コントール体制の下で、救急救命処置が行われているが、院内では直接医師の指示を受けられるので、より安全性が担保できると考えられる。
 研修については、救急救命処置の範囲を変更しないため、33項目に対するカリキュラムの変更は不要とした。一方で、救急外来で使用される医療資機材や医療過誤に関する知識などは、追加的に習得する必要がある。従来から院内で行われている他の医療職種と同様の研修とあわせて、新たに追加する研修について、①医療安全②感染対策③今回の検討会で議論された事項─の観点で、通知で明確にする方針が示された。
 これらの提案を受け、委員からは様々な意見が出た。多くの委員は救急外来での救急救命処置の実施に賛意を示したが、日本看護協会常任理事の井本寛子委員は、「これまで安全性を担保するために、行為・場所が限定されていた。場所を広げる場合に、安全性を担保できるかをもう少し明確にする必要がある」と慎重姿勢を示した。日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、「救急車による搬送だけでなく、ウォークインでの来院にも対応できることを明確にしてほしい」と要望した。
 救急救命士の業務見直しについては、同検討会の議論の状況を、「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」に報告することになっている。

 

全日病ニュース2020年3月1日号 HTML版