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ホーム全日病ニュース(2020年)第958回/2020年3月1日号ICTを活用した次世代に対応する医療環境を目指して

ICTを活用した次世代に対応する医療環境を目指して

ICTを活用した次世代に対応する医療環境を目指して

 働き方改革や人材確保が課題となる中で、生産性を向上させるには、ICTの活用が不可欠だ。ICT 利活用シリーズの第4回は、iPhone の導入により、業務効率化の成果をあげているHITO 病院の取り組みを紹介していただいた。

 少子高齢化、人口減少が社会問題として大きくクローズアップされる中、病院の運営においても働き方改革や働き手の確保が大きな課題である。医療の質を落とさずに生産性を向上させ、効率化を図るためにはICTの利活用が必然であり、次世代に対応する医療環境や意識改革、多様化する時代に対応する柔軟性が組織に求められる。これらの課題に向き合うため2017年より未来創出HITOプロジェクトを通じて取り組んできた臨床現場でのICTの活用について記す。

ICT活用の現状
 未来創出HITOプロジェクトとは、病を診るだけでなく、人を診る医療を目指し、人がより良く生きるための医療のあり方を考えるという方針に基づき、HITO(人)を中心としたICT 活用による未来を創出するプロジェクトである。また働き方改革の実現に向けても、ICT導入活用による業務効率化による時間、および個々人の自己研鑽につながる時間の創出を目指し、多様な人材が協働出来る組織へと進化することで、高い成果、新しい価値を創造し続ける環境を目標としている。
 同プロジェクトは2017年1月より活動を開始し、徐々に多職種に活動範囲を広げ、2019年6月より日勤帯に働くスタッフが300台のiPhoneを活用している。2019年4月、理事長直属の部署として、経営管理室内にICT 推進課を設置し、医師(Clinical TransformationOfficer:CTO)1名、事務担当者として経営管理室長、開発・運用担当者1名の3名の体制とし、プロジェクトメンバーには、病院長を含む各部署の管理責任者を配置、月2回のミーティングを実施し、現場のニーズに応えられる開発・導入を目指している。(図1)
 現在、主な活用方法は、音声入力アプリ、iPhoneカルテ、業務用SNS、TV会議システム、院内マニュアルの電子化・動画化、カメラ・動画機能を用いた患者情報の共有、教育への応用、市販のアプリ活用による業務の効率化、ペーパレス化の推進、カレンダー機能による多職種での退院情報の共有などがあげられる。(図2)

音声入力・iPhoneカルテ導入の経緯
 2018年のiPhone導入時、まずはリハビリテーション科の日勤帯の勤務者40名に配布した。当院のリハビリテーション科のスタッフは77名(PT39名、OT27名、ST11名)で、平均年齢29.55歳と若い組織である。リハビリテーション科にて業務量調査を行った結果、カルテ入力に多くの時間を費やしており、教育等の指導は、時間外に行われている事がわかった。そのため、まずは日常的にスマートフォンを活用している若い世代への導入を決定し、導入モデルとならないかと考えた。カルテ記載をキーボード入力からiPhoneの音声入力アプリAmiVoice iNoteを活用した入力に切り替えた結果、患者介入1回当たりのカルテ入力時間が平均で174秒から55.3秒へ約70%短縮され、科内では患者介入量が1日9時間増加した。これにより、実施単位数が17.6単位から18.2単位に増加し、訓練終了後のカルテ入力時間減少により、時間外勤務が半減した。最近では、平均でスタッフ1人1日1単位の効率化が図られている。
 アプリについては、AI音声認識とスマートフォンを活用したアプリをワークシェアリングサービスを提供する株式会社アドバンスト・メディアと共同開発し、現場の声を反映する事が出来た。これは、iOSのアプリから入力した情報をオンプレミスサーバー経由で時間や場所を選ばず、カルテシステムへ転送できるので、入力業務の効率化による働き方改革の実現につながるツールと考える。
 音声入力を多職種に拡大していくためには、直接カルテへの入力が必然であると考え、2019年4月からは、もともとiPod touch用として存在したアプリに改修を加えた日本初のiPhoneカルテであるソフトウエア・サービス社の「Newtons Mobile」により、iPhoneでのカルテ閲覧と代行入力者を介さない音声入力が可能となった。これにより、現在、セラピストだけでなく、すべての医師や看護師、病棟薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどにも導入し、多職種で利用されるようになった。

臨床現場でのICT活用の具体例

①業務用SNSの活用
 チーム医療の現場では多職種での情報共有が必要であり、タイムリーな情報の共有が業務の効率化に大きな影響を与えると考え、業務用SNS「CiscoWebex Teams」を導入する事により、一対多のコミュニケーションが可能となった。報告業務についてはSNSの活用によって、看護師、リハビリスタッフの定例の朝礼・終礼の一部廃止、申し送りの短縮につながった。
 また、緊急連絡以外の報告や伝達はSNSで行われるようになったため、直接の通話回数が減り、電話をかけるスタッフ、受ける医師ともにストレスが軽減した。また、必要があればiPhone上の「Newtons Mobile」のアプリを使用し、患者カルテの閲覧も可能となり、医師は患者の検査値や画像情報、服薬状況などを確認し、SNSで返信もできる。医師から担当のスタッフへの直接の指示も容易となり、メディカルスタッフが業務中であっても確認が可能となった。テキストで記録が残るSNSは、自分の余裕のある時間に自分の都合で対応でき、業務や治療に専念できるため、業務効率が向上する。多職種でのコミュニケーションが密になることで、確認や指示待ちに取られていた時間が削減され、本来必要な患者に向き合う時間が増え、患者サービスレベルの向上につながっていると考える。
 iPhoneのカメラ機能を使用しての写真や動画撮影により、医療度の高いケアが必要な患者に対して、経時的な変化や日常生活動作のケアの場面を多職種で共有する事ができ、安全に手技やケアが行え、またグループ内の介護施設への情報共有にもつながっている。
 また、会議や委員会などの出席前にSNSに添付されたPDFの議題や会議資料を事前に閲覧できる事により、会議時間の短縮、事前の周知につながっており、モバイルを持ち歩けることによる確認作業の向上、ペーパレス化の推進にもつながっている。

②業務マニュアルの電子化・動画化・テレビ会議システムの利用
 緊急の処置が必要となる医療の現場においては、いつでもどこでもマニュアルが閲覧できて、何度でも確認できる利便性が求められる。そこで膨大な院内の業務マニュアルを電子化・動画化し、院内共有サーバーにアップロードする事によりiPhoneからの検索、閲覧が可能となった。新人や中途採用者の教育においても指導する側、される側の両者においての時間の効率化につながっている。マニュアルだけでなくこれまで紙で運用していた物品管理台帳や勤務表などは、アプリを使用し、電子化/PDF化することによりいつでも供覧することができ、同時にペーパレス化にもつながっている。
 縦動線の長い当院のケアミックス型の病棟配置、遠方にいる家族とのタイムリーな情報共有を考えると、その場に居ながら会議やカンファレンスを実施出来ることは業務の効率化には重要である。そこでテレビ会議システム(Cisco Webex Teams、Hangout、ZOOM等)を用い、病棟間の遠隔カンファレンス、手術室内外での報告・相談、退院後の患者の遠隔言語訓練、また、遠方の患者家族との面談だけではなく、グループ内の多職種カンファレンスなどの使用を開始している。様々なシーンでの活用が広がっており、場所に捉われない働き方が加速する可能性がある。

③カレンダー機能による多職種での退院情報の共有
 ケアミックス型の病床の配置により、退院・転床時期の把握が病床の運営には重要である。これまでは病棟師長やMSWが紙のカレンダーで運用していた退院患者リストをカレンダー機能を持つアプリの活用に変更した。退院支援カンファレンスで各病棟スタッフが集まる時間が削減されただけでなく、リアルタイムな情報共有が病床稼働や入院受入れにもたらす効果もあり、カレンダーでの共有開始後、急性期病棟の在院日数の短縮がみられた。また、事前の情報を多職種で共有し、把握できるため、各々の職種が余裕を持って退院関連書類を作成することが出来るようになった。

今後の展望
 人口構造が激変する「令和の時代」において、スマートフォン活用による働き方改革は「ひとを中心とした医療の提供」を実現するポイントである。だが、ICT活用ですべてを解決できるとは考えていない。多様な働き方に対応し、働くスタッフが意欲・能力を存分に発揮でき、尚且つ、生産性向上・効率化を実現していくためには、医療現場の慣習や組織風土に縛られないスタッフの意識改革と、医療環境の整備も重要である。当病院が掲げるブランドコンセプトを軸に、様々なテクノロジーの中心に「ひと」を置くことで、間接業務や事務作業にかかる時間を削減し、ICTの活用により、働き方改革を実行しながら、次世代の職場環境を構築していきたい。厳しい時代だからこそ、多くの病院で創意工夫を凝らすことにより、ヘルスケア変革の一助を担える可能性があるのではないだろうか。

 

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  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2019年10月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2019/191001.pdf

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