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ホーム全日病ニュース(2020年)第960回/2020年4月1日号地域包括ケアと西岡病院と「とよひら・りんく」

地域包括ケアと西岡病院と「とよひら・りんく」

地域包括ケアと西岡病院と「とよひら・りんく」

 地域のニーズに応えて地域包括ケアを構築するには、在宅医療に対応するとともに、近隣の医療機関や介護施設との連携が欠かせない。会員病院の地域包括ケアの取り組みを紹介するシリーズの第2回は、札幌市豊平区の西岡病院。同病院は、在宅医療支援病院として、地域に密着して入院から在宅医療までを担う。在宅医療連携拠点事業の主体である「とよひら・りんく」の活動とあわせて紹介していただいた。

1 当院の概要
 当院は、札幌市豊平区西岡に位置する内科主体の98床の病院です。一般病棟48床(内、地域包括ケア病床12床)、医療療養病棟50床で急性期から慢性期にかけての医療を担い、法人内外の医療機関、介護事業所と連携しています。当院が開設された昭和54年当時、周囲の西岡・福住地区は宅地開発が進み、一戸建ての住宅建設が盛んでした。それから40年が経ち、当時働き盛りだった住民の方々に高齢化が進んできています。法人としては、それに対応して平成2年に札幌で老人保健施設を開設し、訪問看護、通所介護、居宅介護支援事業所等を開設、札幌市から3つの地域包括支援センターの委託を受けています。さらに在宅医療にも対応すべく在宅療養支援診療所の西岡水源池通りクリニックを開院し、訪問診療、看取りを行っています(図1)。
 このような中で当法人内はもとより近隣の医療機関、介護施設との連携、在宅医療の必要性が次第に高まってきていました。

2 「とよひら・りんく」について
 平成23年度に厚生労働省が「在宅医療連携拠点事業」を行い、委託を受けることができました。この活動主体として札幌市豊平区西岡・福住地区在宅医療連携拠点事業推進協議会「とよひら・りんく」が立ち上がりました。国レベルではそのころから地域包括ケアシステムの導入が始まりましたが、その目指すところは「在宅医療連携拠点事業」=「とよひら・りんく」とほぼ重なるものと考えて現在まで活動してきました。

3  「とよひら・りんく」と地域包括ケアシステムと地域医療構想における当院の立ち位置
 地域包括ケアシステムの図には在宅医療をはじめとする医療と在宅系、施設・居住系の介護サービス、地域包括支援センターを担う行政などの存在があり、その上で互いの連携が必要とされています。地域によっては在宅医療、介護サービスなどが不足しているところもあるようですが、幸い「とよひら・りんく」が主たる活動地域としている西岡・福住地区には医療機関、介護事業所が充実しており、恵まれた環境にあるといえます(図2)。
 その中で当院は、入院施設を有する在宅医療支援病院として、地域包括ケアシステムの中では在宅や介護施設に入所されている方に入院加療が必要となった際にお引き受けし、加療後はまた住み慣れたところへお返しするという機能を担っています。実際には6つの在宅療養支援診療所の先生方と、診療において機能強化型のグループを組み、タッグを組んで、在宅療養支援病院としての機能を果たしたいと考えています。また地域内の介護施設とは協力医療機関として病状悪化時の入院対応を含めた医療を担っています。
 一方、地域医療構想の観点からみると、豊平区内の総合病院、専門病院との連携も構築されつつあります。外科的治療など当院の専門外の治療を要する方を総合病院にお願いし、急性期治療後の回復期、慢性期の治療を要する方をお引き受けするべく当院の役割を担っています。
 2018年の1年間に当院に入院した方の経路をみても、36%が自宅から入院(≒当院外来からの入院)となった方で、特養、老健など施設からの入院が29%、他院からのご紹介で自宅から入院となった方(≒訪問診療からのご紹介)が16%、他院入院中からの転院が11%となっていました(図3)。
 このことからも、当院は地域包括ケアシステムの中で入院施設を有しつつ、在宅医療までの医療を提供する地域密着型の医療機関と在宅療養支援病院としての機能を果たし、地域医療構想の枠組みの中で高度急性期病棟を有する専門医療機関と連携しつつ急性期医療、回復期、慢性期さらには介護までの医療・介護サービスを提供する機能を担っていると言えます。このような中で介護施設、訪問診療を主体とした診療所ならびに専門医療機関との連携は必須な取り組みとなっています。

4 「とよひら・りんく」のこれまでの活動
 平成23年度の在宅医療連携拠点事業では、以下①~③のタスクの取り組みが求められました。

①多職種連携の課題に対する解決策の抽出について
 地域の在宅医療に関わる多職種(病院関係者・介護従事者等も含む) が一堂に会する場を設定する(年4回以上)という項目があり、以来、合同会議として開催してきました。発会当初は新たな取り組みについての提案、説明などが主題でしたが、次第に参加されている方々からの「これが必要だ。これが困っている」というニーズに従ってテーマを決めるようになっています。
 ちなみに新型コロナウルス(COVID-19)感染の蔓延のため、3月30日の会議は初めて中止となりました。

②在宅医療従事者の負担軽減の支援として
 24時間体制を構築するためのネットワーク化とチーム医療を提供するための情報共有体制の整備の課題がありました。
 24時間体制のネットワークなど、当初は何もありませんでしたが、在宅医療を行っている近隣の医療機関の先生方とタッグを組んで機能強化型の医療機関として今に至っています。
 情報共有体制の整備については、ICTの活用が求められていましたが、そのようなものはありませんでした。当初、当院のシステムエンジニア(なぜか居たのです)に、当時出始めたモバイル端末を利用したシステムをゼロから作ってもらいました。その後、検討を重ね今は帝人ファーマのバイタルリンク®を導入しています。載せるべき情報、共有すべき職種、個人情報保護法へのコンプライアンスなどについては我々の中で今後も、検討していかねばならないと思っています。

③効率的な医療提供のための多職種連携
 これについては永遠のテーマだと思います。これまでの合同会議でも取り上げてきましたが、「とよひら・りんく」全体の体制構築と個々の事例への対応をどう折り合いをつけるか。それぞれの職種の立場、職員個々の置かれている状況などは日々、変化しており、日常業務として不断の取り組みが必要とされるものと感じています。

5 課題、やるべき事
 あしかけ10年の活動を振り返ってみると様々な面において地域社会は変貌しているので、「とよひら・りんく」もそれに対応し続けなければならないと思います。人の煩悩が尽きない限り「とよひら・りんく」の完成はなく、日々、前に進み続けるしかないと思っています。
 課題、やるべきことは今現在もいろいろとあり、将来においては新たな課題が生まれ続けるものと思います。

6 結語
 この結語の作成に取り組んでいるたった今、訪問診療で拝見している方が亡くなったとの連絡がありました。ちなみに私は今、出張中なのです。「とよひら・りんく」で行ってきた取り組み、ICTネットワークのおかげで仲間の先生に急遽連絡し、必要な医療情報をお伝えし、看取りをお願いしたところです。
 従来にはなかった医療体制(私的には「とよひら・りんく」)の構築に取り組んできたおかげで、今までできなかった医療を患者さんに提供し得るようになったと実感しているところです。まだまだ課題もありますが、ひとつひとつを解決してより良い地域社会の実現の一助になればいいなと思っているところです。

 

全日病ニュース2020年4月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年7月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170701.pdf

    2017年7月1日 ... 2017年(平成29年)7月1日(土) 毎月2回1日・15日発行 定価1日号300円・15日号
    200円(会員の購読料は会費に含む). (昭和63年3 ... 当院は、4年前に県立病院の
    民間移. 譲に伴い104 ... 一緒に地域包括ケアシステムを実践す. る。そのため ... 病院が
    それぞれの地域の特性の中で活 ... もとより、本構想は2025年までに協議.

  • [2] 病院のあり方に関する報告書 (2015-2016年版)

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2015_2016_arikata.pdf

    を有する団体として、客観的な現状分析を行い、医療・病院・全日病のあり方、医療提供.
    体制等の今後 ... 自分が健康であると自覚している期間の平. 均」は国民 ... 2025 年に
    向けて東京及び周辺地域における人. 口減少は ... 地域包括ケアを推進するために、
    かかりつけ医との連携機能、介護との連携、 ... 医療保険制度の抜本改正はもとより
    その.

  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年8月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170801.pdf

    2017年8月1日 ... 2017年(平成29年)8月1日(火) 毎月2回1日・15日発行 定価1日号300円・15日号
    200円(会員の購読料は会費に含む). (昭和63年3月23日 ... 連携している病院の理事
    長と申請に向. けた準備を進め ... 地域包括ケア病棟の評価を2つに分けることを検討.
    調査結果は試行 ... の向上はもとより、スループットの向. 上にも日々務め ...

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