全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2020年)第964回/2020年6月1日号脊髄性筋萎縮症治療薬のゾルゲンスマを保険適用

脊髄性筋萎縮症治療薬のゾルゲンスマを保険適用

脊髄性筋萎縮症治療薬のゾルゲンスマを保険適用

【中医協総会】患者1人当たり1億6,708万円で過去最高額

 中医協(小塩隆士会長)は5月13日にオンライン会議で総会を開催し、脊髄性筋萎縮症治療薬で遺伝子治療用製品のゾルゲンスマ点滴静注の保険収載を了承した(写真)。算定薬価は過去最高額の約1億6,708万円。昨年、保険収載された白血病治療薬のキムリアの薬価(約3,349万円)を大きく上回る。
 高額薬剤が次々と登場し、保険財政に与える影響が懸念されているが、ゾルゲンスマは、2歳未満の脊髄性筋萎縮症の患者に対する1回の静脈注射で済み、根治の可能性もあるという。対象は限定的で、今年度の対象患者数は25人、販売金額は年間42億円にとどまると厚生労働省は予測する。ただ、委員からは今後の適用拡大などを懸念し、昨年度から本格導入された費用対効果評価制度が適切に運用されることに期待する意見などが相次いだ。
 ゾルゲンスマ点滴静注は脊髄性筋萎縮症に対する治療薬で、成分名はオナセムノゲン・アベパルボベク。収載希望者はノバルティスファーマ。効能・効果は脊髄性筋萎縮症である。2歳未満の患者に単回投与する。脊髄性筋萎縮症を発症していなくても、遺伝子検査で発症が予測される者も対象だ(右表の概要を参照)。
 特定の遺伝子の異常に対して、正常な遺伝子を細胞に直接的に投入するという新規の作用機序が評価された。臨床試験では、1回の治療で長期間の有効性が認められている。
 算定薬価は患者1 人当たり1 億6,708万円。遺伝子や再生医療の技術の発展により、最近になって次々と登場してきた過去の高額薬剤の薬価を大きく上回る。医療保険全体に与える影響は現段階では小さいが、財源規模が小さい保険者に与える影響は、無視できない。
 昨年5月に最初に承認された米国では、いわゆるレッドブックの価格で約255万ドル(AMP)。2018年4月~ 2020年度3月までの為替レートの平均を取ると、日本円で約2億7,795万円となるので、それよりは低く抑えられている。

ノバルティスファーマから不服意見有用性加算率が4割から5割に上昇
 日本での価格設定においては、まず医薬品として取扱い、薬価算定を行うことを決めた。ゾルゲンスマは再生医療等製品と整理されているためだ。薬価算定の方法は、原価計算方式ではなく、脊髄性筋萎縮症の治療薬として使われているスピンラザ髄注を比較薬として、類似薬効比較方式(Ⅰ)により算定した。
 スピンラザは髄腔内投与だが、ゾルゲンスマは1回の注射で済むという治療方法の改善を評価するとともに、新規の作用機序であることから、有用性加算を50%とした。先駆け審査指定加算は、同制度の対象品目であったものの、日本で承認の基礎となる臨床試験が実施されていないため、限定的な評価とし、加算率は10%とした。
 薬価算定組織の当初の算定では、有用性加算は40%だった。しかし、申請者のノバルティスファーマが不服意見を提示。これを受け、原理的には、根治の可能性のある新規作用機序であることや、1回の静脈注射で投与が完結し、患者負担が軽減されることをより評価し、加算率を引き上げた。
 先駆け審査指定加算の適用については、企業のデータの不備などを理由に、薬価算定が大きく遅れたことなどを踏まえ、「加算は必要ないのではないか」との意見が複数の委員から出た。
 また、ゾルゲンスマは費用対効果評価制度の対象となる。今後の分析により、効果が高く費用も高いと判断されれば、価格は下がり、効果が高く費用も低いと判断されれば、価格は上がる。委員からは、ノバルティスファーマから十分な分析データが提供され、昨年度から本格的に始まった費用対効果評価制度が適切に運用されることを求める意見が相次いだ。
 ゾルゲンスマの費用の内訳に関する質問もあった。厚労省担当者は、「ウイルスを増殖させないように、必要な遺伝子を搭載した、画期的で困難な技術であり、ウイルスベクターの産生技術の確立、原薬製造のシステム、品質管理など多岐にわたる工程で、費用と時間がかかる」と説明した。
 なお、患者負担については、脊髄性筋萎縮症は小児慢性特定疾病の助成対象であり、多くの市町村が小児に対する医療費助成を行っているため、世帯収入などにより異なるが、かなり低く抑えられる。

自家培養角膜上皮ネピックも収載
 角膜上皮幹細胞疲弊症に対する再生医療等製品であるネピックも保険適用した。こちらは医療機器として取扱い価格算定を行った。保険適用希望者は、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング。C2(新機能・新技術)の区分で原価計算方式により算定。保険償還価格は、ネピック(組織運搬セット)が428万円、ネピック(培養角膜上皮パッケージ)が547万円となった。患者から採取した角膜上皮細胞をシート状に培養し、患者の眼表面に移植することで、角膜上皮を再建する。
 ピーク時(2025年)の予測使用患者数は54人、予測販売金額は合計5.3億円となっている。

 

全日病ニュース2020年6月1日号 HTML版