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ホーム全日病ニュース(2020年)第964回/2020年6月1日号「実習する医学生の法的位置づけ明確に」医道審医師分科会が報告書

「実習する医学生の法的位置づけ明確に」医道審医師分科会が報告書

「実習する医学生の法的位置づけ明確に」医道審医師分科会が報告書

【厚労省・医師分科会】医学生の臨床実習の充実めざし医師法改正を提案

 厚生労働省は5月13日、医道審議会医師分科会による医師養成に関する報告書を発表した。タイトルは「シームレスな医師養成に向けた共用試験の公的化といわゆるStudent Doctor の法的位置づけについて」。報告書は、医学生の臨床実習を充実させるため、医学生が受ける共用試験を公的な仕組みにすることや、臨床実習を行う医学生を法的に位置付けることを提案している。実現には、医師法改正が必要になる。

医行為は違法ではないこと明確に
 報告書は、医師の養成においては、医学部卒業前の教育と、卒業後の臨床研修や専門研修とを分断なくつなげていくことが重要と指摘。医学部卒業前から卒業後の医師養成を、医療現場を中心にシームレスに行うことが望ましいが、「卒前の臨床実習における診療参加型実習が進んでいないこと」と、「医学部の臨床実習と、卒後の臨床研修の間にある、医師国家試験のための準備期間が長いこと」が課題との認識を示した。
 臨床実習が進んでいない背景には、まだ医師免許を持たない医学生が、医師でなければ実施できない医行為を行えるか否かが法令上明確ではないことがある。現在は、形式的には、「無免許医業罪」が成立する可能性があるが、臨床実習の重要性や医行為実施の条件などを考慮して、医学生が医行為をしても実質的には違法ではないと解釈されている。
 ただ、臨床実習の現場では医行為の範囲が広く、医学生が行っても許される医行為はそのうちのどれかを教員や医学生が逐一判断するのは容易ではない。そのため、臨床実習での医行為は十分には実施されてこなかった。
 診療に医学生が参加することについて患者からの同意を個別に得ることが難しいという事情もある。
 そこで報告書は、臨床実習を行う医学生をいわゆるスチューデントドクターなどとして法的に位置付けた上で、臨床実習で一定の医行為を行うことが違法ではないことを明確にするよう提案した。
 スチューデントドクターの質を担保するため、現在、医学部卒業前に医学生が受験する共用試験CBT(Computer-Based Testing) とOSCE(ObjectiveStructured Clinical Examination) を公的なものとして位置付けることも提案した。両試験は現在、公益社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構が実施しており、全大学が医学生に受験させている。
 スチューデントドクターは公的な試験に合格して一定の医行為をするための準備ができていることが明白になり、さらに法的にも問題ないことが明確であれば、診療参加型臨床実習への患者の同意も得やすくなることが期待される。

臨床研修医の負担減に
 報告書は、医学生の臨床実習における診療参加型実習は、単に、侵襲的な医行為を早期から医学生に修得させることを意図するのではないことを強調。患者の価値観や仕事との両立、経済的な要因、家族との関係性などをふまえた全人的な診療を医学生が学ぶ機会になるとの期待を示している。
 厚労省の担当者は、診療参加型実習の充実について、「質の高い医師の養成のために必要なこと。医師全体の質のボトムアップのためには、医学部5、6年生の臨床実習で密度の濃い、質の高い実習をすることが重要だ」と話す。
 医学生にとっては、医師免許取得後の臨床研修で初めて行っていた診療の一部をあらかじめ医学生の臨床実習で行うことで、臨床研修の負担が軽減することが期待される。一般の医師よりも長時間労働であることが問題とされる臨床研修医の労働時間短縮につながり、臨床研修もより質が高くなる可能性がある。

賠償責任保険の加入「強く推奨」
 医学生が臨床実習で侵襲的な医行為を行う場合に、医療事故に備えて賠償責任保険等に加入させることを報告書は「強く推奨されるべき」と明記した。賠償責任保険等に強制的に加入させるかどうかは、病院管理者と大学の判断になる。
 報告書の提案の実現に向けては、医師法の改正が必要になる。厚労省の担当者は、早期の改正に向け取り組む考えを示した。

 

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