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ホーム全日病ニュース(2020年)第968回/2020年8月1日号新型コロナ院内感染 どう動いたか、そして何が変わったか

新型コロナ院内感染 どう動いたか、そして何が変わったか

医療法人済衆館 済衆館病院 理事長 今村 康宏

新型コロナ院内感染 どう動いたか、そして何が変わったか

診療再開までの対応と今後の課題

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、2次救急を担う第一線の病院は院内感染のリスクに直面することになりました。院内感染により病院機能を大幅に縮小しながらも、迅速な意思決定と徹底した情報開示により危機を乗り切った済衆館病院の今村康宏理事長(全日病常任理事)に、病院再開までの対応と経緯、課題について報告していただきました。

はじめに
 本年4月、当院にて新型コロナウイルス感染が判明した2名の患者さんから当院スタッフ合計3名への院内感染を認め、外来や新規患者の受け入れを中止するなど大規模な病院ロックダウンを行わざるを得ない状況に至りました。昨年の全日病学会in愛知で会員の皆様と過ごさせていただいた楽しい時間が夢のようで、創業106年目にして当院始まって以来の危機を迎えることとなりました。このとき我々がどのように考えどのように動いたかについて、振り返ってみました。会員の皆様にはこれをどうか他山の石としていただきたく、わずかでもご参考になることがあれば幸いです。

経過
 当院は急性期2病棟、回復期リハビリ2病棟、地域包括ケア1病棟、医療療養2病棟、緩和ケア1病棟、合計369床のケアミックス病院です。年間の救急車搬送数は約2,300台、時間外患者総数は9,000名前後の2次救急病院で、現在まで帰国者接触者外来は行っておらず、新型コロナ患者を受け入れる対象医療機関ではありません。
 最初の症例は、4月6日に倦怠感のみを主訴として救急搬送された方でした。当院は全くの初診で入院時は発熱もなく、胸部CTでは肺炎像があるものの新型コロナに特徴的な像ではなく、通常の個室対応としていました。入院後次第に発熱し咳も出てきたため4月8日にPCRを行い、同日夜になり陽性と判明しました。近隣の新型コロナの受け入れを行っている専門医療機関に転送を図るも4月9日まで空床がなく、それまで待機となりました。しかし転送予定日の早朝に呼吸状態が急変し、気管挿管の上で大学病院に転送しECMOを行うことになりました。
 2例目は4月15日に肺炎で入院された方で、CTの肺炎画像が「すりガラス」とは異なるものの、通常の細菌性肺炎とは異なる所見であったため入院時にPCRを行い、翌日に陽性と判明したものです。こちらも転送先を手配している数時間の間に著明に呼吸状態が悪化したため挿管し、大学病院に転送、ECMO開始となりました。
 そして、図1に示したように、1例目から1名、2例目から2名の医療スタッフが感染しました。1例目から感染したと思われるスタッフは入院翌日の4月7日に当該患者を担当しており、そこから接触感染したものと思われました。4月10日のPCRでは陰性でしたが、濃厚接触者と考え自宅待機としていたところ4月18日に発熱し、同日PCR陽性と判明しました。接触から10日あまりの潜伏期を経て発症したことになります。
 また2例目の症例から感染した2人のスタッフは、いずれも4月16日の挿管介助を行っていました。1人は4月20日に発熱しPCRにて同日陽性判明、もう1人はこのときPCR陰性でしたが4月26日に発熱、4月27日に陽性と判明したものです。
 保健所と、当地区感染症審査会長である近隣の呼吸器専門病院「はるひ呼吸器病院」齊藤院長の全面的なご指導、ご協力をいただき、4月18日から4月30日までのすべての新規入院の停止、一般・救急外来の全面停止(電話診察除く)を行いました。その間に以下に述べる対応を行い、5月1日から一般外来及びかかりつけに限定した救急外来業務を再開、その後、徐々に通常体制に戻していき、5月11日から完全に再開となりました。

まず初めにすること
①ロックダウンの決断は、PCR結果が出る前に行う。
 この頃のPCRは県の衛生研究所に検体が多数出されていたこともあり結果が出るのに1日近く、日によっては2日かかっていました。1人目の職員は土曜に発熱したこともあり、その日の夜からロックダウンの判断をしても対応が後手に回ると考え、発熱しPCRを行った知らせを受けてすぐに緊急管理者会議を開いて、ロックダウンの道筋を昼間のうちに決定しておきました。その後、陽性と判明したときに全面停止を即決定し、全役職者に通知を行い、関係各所に一般・救急すべての外来の停止、新規患者受け入れと手術の全面停止を通達しました。
②まず濃厚接触者の洗い出しを行い、とにかく徹底的なPCRを行う。
 学会のガイドラインに従い、陽性者が判明したら即座に接触のあったすべてのスタッフや患者をリスクに応じてリストアップし、片っ端からPCRを行いました。
 結局、4月17日から一定の終息をみたと判断された4月末までの間に患者154名・職員89名にPCR を行い、感染が判明したスタッフ以外はすべて陰性と確認されました。

ロックダウン中に内部的にやるべきこと
①個人の防護スキルの向上と家族を含めた体調管理の徹底
 感染対策チーム(ICT)が主導的に関与する全部署に防護服の着脱訓練を行いました。職員の体調管理に関しては家族の発熱も報告対象とし、ICTにて管理を行い、出勤停止などの指示を毎日行うことを徹底しました。
②熱発者対応マニュアル(院内発生・一般外来・救急外来)の再策定と運用の徹底

図2・3にロックダウン中および解除後に策定した対応図を示します。ロックダウン当初は当該病棟でいつ発熱者がでるか分からないため、特に厳密に運用しました。
 さらに職種別、処置内容別に色分けして防護装備を規定したマニュアルを作成し、運用開始しました。
 リハビリも感染リスクの高い部門です。今回リハビリ部門は感染に無関係でしたが、今後のリスク管理としてリハビリ室をエリア分けし、病棟や部門で占有する時間帯を指定しました。これにより患者が時間的、空間的に交錯しないようになりました。また病棟をまたぐかたちの疾患別リハ専門チームがこれまで動いていましたが、病棟ごとに分けて配置しました。
③ハード面のゾーニングの徹底(プレハブ外来・救急外来内ゾーン分け・病棟陰圧室)

 一般外来で発熱がある方、発熱や呼吸器症状などコロナを完全否定できない症状を主訴として来られた方は一旦自家用車あるいは敷地内で新たに設置したプレハブを利用した外来で待機していただき、個別に対応するようにしました。

外部に対しての対応
 最低でも、まずロックダウンをする(しようと決めた)時と、ロック解除時は外部への連絡や情報提供は必須です。当院の場合、救急隊・地元自治体・医師会(長)・他の救急医療機関・連携医療機関・非常勤医師・派遣元大学医局などに連絡しました。
 手段としては、地域に対してはとにかくホームページが最重要と思われました。入口を含む院内掲示も同時に必須です。その上で、上記の関係機関へは結局幹部で手分けして直に電話しました。医師会方面と派遣元の医局、非常勤医師への対応はすべて私が行いましたが、自院がどうなるのか不安で仕方がない中、これらの対応はまさに心を削りながらの作業でした。先方に迷惑をかける申し訳なさ、大学内での風評への心配、そして時には連日派遣元の健康管理部から頻繁に問い合わせがありましたが、これに対しても誠意を尽くしたつもりです。他方面への対応に当たった幹部も同様であったと思います。

稼働の減少と経営悪化への対策
 医業収益は対前年同月比で4月は▲10.5%、5月は▲19.6%となりました。病棟稼働率は病院全体でロックダウン直前は大体91%でしたが、再開した5月1日時点で78%となっていました。また外来受診も前年の3割減となりました。その後、苦しみながらも稼働は徐々に持ち直し、6月の医業収益は対前年同月比▲4%程度にまで戻してきましたが、費用としては以前とはけた違いの感染対策費がのしかかっています。今後のコロナの動向を考えると不安は尽きないと言えます。
 当院の場合、2年ほど前からケアミックスとして有している各種機能の病棟のうち、回復期リハビリ病棟(2病棟合計88床)の稼働がやや少ない傾向がありました。様々な原因があると思われますが、そもそも当地区では回復期リハ病床は需要に対しほぼ飽和していると考えました。さらに今回のことで受療動向の変容から当院での回復期リハ病棟の稼働はさらに低下するであろうと思われました。一方で地ケア病棟などに退院困難な要因を有する患者さんが多いことから、回復期リハ病棟のひとつ、療養で届け出ていた38床の病棟を今年秋に介護医療院に変換することにし、現在準備を進めています。これをはじめとして、自院の求められるニーズに対し、その程度に応じて柔軟に変化していくことが今後さらに求められると思っています。
 資金繰りとしてはWAMの融資を受け、3億借り入れ15年返済としています。また地元自治体(2市1町)から合計1,100万円の補助金「新型コロナウイルス感染症対策医療機関助成金」をいただき、大変有難く感じました。あとは2次補正での各種支援に期待するしかありません。
 愛知県独自に県と自治体合わせて1医療機関あたり5億円の緊急融資があるとのことですが、地元自治体の同意が必要であること、また融資には理事全員の連帯保証が必要とのことで、現実的には利用しにくいと考えています。いずれにしても融資ですのでいつか返さなければならないわけで、将来の見通しが不透明な中でこれに頼る恐ろしさも感じずにはいられません。
 経営に関して私が最も危惧するのは、今でこそ「医療機関に支援を」といって2次補正とか自治体の助成金等が組まれていますが、コロナとの闘いが長期化するにつれて、医療機関が大変苦しい状況であるということが社会的にも耳慣れて世間の興味が薄れることにより、結局は支援が先細りしていくのではないか、ということです。コロナの重点・協力医療機関は当然のこと、そうではない当院でも水際で感染を食い止めるために相当な費用負担を強いられています。国や県、市町の支援を少なくとも一時的なもので終わらせていただきたくないものです。

マスコミ対応
 ロックダウン決定で精神的に参っているときにも、こと取材に関してはできるだけ断らないことが重要です。今回も発生事実の報道の後、中日新聞、CBCテレビ、東海テレビがそれぞれ取材に訪れました。いずれも、コロナの怖さ、そして当院が何に取りくみ再開を迎えたか、ということに主眼をおいた報道で、ほぼ正しく報道していただいたと私は感じています。幸いにして報道後に患者数が減ることもありませんでした。

おわりに 今だから思う、本当に大切なこと
①とにかく意思決定は早く。
②徹底した情報開示が重要、一方で全職員への一斉の情報共有が課題。
③必要な機能は、また必ず求められる。
 これらは今回のことを通して痛感したことです。そしてコロナに関することだけではなく、日々の診療や経営全般に関しても共通することではないかと思います。ロックダウンの決め手は第1例目のスタッフ感染があったからではなく、それまで2例の最重症患者を経験してしまった直後の4月17日に、何となく「コロナってこんなに怖いものか」「このまま救急受け続けて大丈夫だろうか」という不安感が院内に充満していたのを感じたことによります。
 「もしかして一度立ち止まって検証したほうがいいのではないか」とその日の夜に院長と相談し、翌朝には止める方向で気持ちが固まりかけていた矢先にスタッフの発熱が判明し、これがロックダウン宣言の後押しをしました。1例目の陽性となったスタッフは自宅待機中だったので、仮に1日判断が遅れても結果的には同じだったかもしれませんが、即日の対応により少なくとも職員の動揺が大きく鎮まったのは確かだと感じました。
 情報開示はできる限りのことをホームページ上で行いました。このことが幸いしてか、心ない誹謗中傷といったご意見、ご批判は表立っては一切ありませんでした。そして人の噂も75日とか、7月に入りやっとほぼこれまで通りの状態に戻ってきたようです。
 一方で、全職員への一斉の情報発信については課題が残りました。各部署長へはロックダウン決定後直ちに全ての経緯と方針を伝えたのですが、そこからの全職員への通知が不十分な部署がありました。そこで部署内の連絡を徹底するよう全部署長に求めつつ、災害時に全職員のスマホなどに自動発報される安否確認システムを利用して、最小限の手間で同時にアラートを発信するシステムを検討しています。
 職員にも多大な負担をかけました。全く接触の可能性がない職員でもご家族が職場で出勤停止を余儀なくされたり、幼い子供さんが院外の保育所で隔離されたりといった辛い事例もいくつかありました。しかし、今回のことで退職を希望する者は1人もなく、全員が必死に耐えて頑張ってくれました。彼らに心から感謝するばかりです。
 「コロナと共生する社会」とよく言われますが、どんな状況になっても本当に地域から必要とされている機能に関してはきっと社会が残してくれるのだろうと思います。一方で、背伸びをしていた部分については、次第に淘汰されていくのかもしれません。今回のことで地域に多大なご迷惑をかけてしまいましたが、地域での自院の立ち位置を改めて見直すことにもなりました。
 一生忘れないであろうこの苦い経験をもとに徹底的な予防策を講じつつ、今後いつ終わるとも知れないコロナとの闘いを乗り切っていく所存です。会員の皆様におかれましては、今後ともどうかご指導を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

図1 感染症例の経緯

図2 入院中の熱発者への原則的対応

図3 外来熱発者への対応(プレハブ・救外)

 

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