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ホーム全日病ニュース(2020年)第968回/2020年8月15日号医師の上位10%の労働時間は年1,824時間で前回より微減

医師の上位10%の労働時間は年1,824時間で前回より微減

医師の上位10%の労働時間は年1,824時間で前回より微減

【厚労省・厚労科研事業】医師の勤務実態と地域医療への影響を調査

 厚生労働省は7月31日、厚生労働省科学特別研究事業による医師の勤務実態調査の結果を公表した。2019年9月の1週間の医師の上位10%にあたる時間外労働は年換算で1,824時間となり、前回の2016年度調査の1,904時間と比べ、80時間減少した。上位10%の労働時間が微減したことで、2024年度からの医師の時間外労働規制の特例水準(B水準)の年1,860時間の妥当性が、改めて議論される可能性がある。
 調査は、厚生労働科学特別研究事業である「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究」(研究代表者=谷川武・順天堂大学教授)で、2019年9月2日から8日の一週間の医師の労働時間を調べた。前回調査と比較できるよう同規模の調査とし、医師・歯科医師・薬剤師調査と異なる診療科ごとの性・年齢の偏りなどは調整した。WEBによる回答を含み、2万382人の医師と3,967施設の回答を得た。
 その結果、医師の時間外労働の上位10%の平均は年換算で1,824時間だった。2016年調査では、年1,904時間だったので、80時間の減少だ。長時間労働の医師をみると、年1,920時間から年2,400時間は5.0%、年2,400時間から2,880時間は2.3%、2,880時間超は1.2%となっている(下図)。
 なお、宿日直許可を取得している宿日直中の待機時間は労働時間から除外している。
 厚労省は、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」に一定の効果があったとの考えを示した。緊急的な取り組みは、現行制度で対応できる対策を示したもので、◇労働時間管理の適正化◇36協定等の自己点検◇既存の産業保健の仕組みの活用◇タスク・シフティングの推進◇女性医師等に対する支援◇当直明け勤務の緩和や複数主治医制など医療機関の状況に応じた取り組み─となっている。
 医師の働き方改革については、労働の特殊性と長時間労働が常態化している状況を踏まえ、一般の労働者より実施時期を遅らせるとともに、特例措置を講じることになった。医師への時間外労働規制は2024年度からである。
 上位10%の労働時間に着目するのは、地域の医療提供体制を維持するための経過措置として設ける特例水準(B水準)の基準を決める際に、上位10%の労働時間を着実に短縮させることを目指し、2016年調査の年1,904時間から、雇用管理の便宜上、12月で割り切れる近似値を求めた結果、1,860時間になったことによる。
 厚労省は新型コロナの影響で遅れていた医師の働き方改革の議論を8月以降に再開する予定で、今回の調査結果が「医師の働き方改革の推進に関する検討会」に報告され、議論される。

労働規制の地域医療への影響を調査
 厚生労働科学研究事業の「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」(研究代表者=裵英洙特任教授)の調査結果も同日、公表された。医師に対する時間外労働規制(年1,860時間、年960時間)が適用された場合に、◇大学医局から関連病院への医師派遣◇副業・兼業に該当する関連病院における勤務への影響が懸念されていることを踏まえ、調査を実施した。
 地域医療の現場からは、医師の働き方改革が断行されれば、長時間労働の医師が多い大学病院などによる関連病院からの医師の引き揚げや、副業・兼業の労働時間の通算の徹底により、副業・兼業ができなくなる医師が出てくる恐れがあるとの声が上がる。医師の働き方改革を実施する前に、これらの懸念に応える必要があり、調査はその一環と考えられる。
 今年2~3月にA大学(地方大学)の消化器内科・消化器外科・産婦人科、B大学(都市部に近い大学)の産婦人科・救急科・循環器内科の2大学・6診療科を対象に調査を行った。
 2大学・6診療科とも大学病院のみの労働時間では平均週60時間(時間外=年960時間)を超えなかったが、兼務先を合わせると、多くが週60時間を超え、A大学の消化器外科は平均で週70時間だった(同=年1,440時間)。1人ひとりをみれば、週80時間(同=年1,920時間)を超える医師がどの診療科にもいる。週100時間を超える医師はB大学の救急科に1人だった。
 一方、アンケート調査では、年換算では1,860時間を超えるが、調査月が特に労働時間が長かった月であり、実際の年間労働時間では超えない場合も少なくないとの回答があった。
 これらの実態を踏まえ、時間外労働規制が実施された場合、「各診療科の平均労働時間勤務する医師」があと何人必要になるかのシミュレーションを行った。宿直・日直中の待機時間は労働時間に含め試算した。結果をみると、上限1,860時間が適用された病院で、補てんが必要となる医師数は、概ね1人を下回り、1人を超えたのはA大学の消化器外科だけだった。その他は0.18人から0.87人であり、調査の結論は、「少ない数の医師で補てんが可能であることが示唆される」とした。
 さらに、労働時間から宿直・日直中の待機時間を除外すると、年1,860時間を上回る医師の割合は「顕著に低くなる」。このため、兼務先で宿直・日直許可を取得することができれば、労働時間の短縮につなげることが期待できると指摘した。また、宿直・日直は、内科・外科一般の業務があることから、特定の診療科に限らない対応を病院が考えることを提案した。
 大学へのアンケート調査では、「時間外労働時間の上限規制を遵守するため、関連病院等からの医師の引き揚げを第一選択肢とする医局はなかった」との回答が得られた。
 調査結果は、時間外労働規制の影響は一定範囲に抑えられることが示唆されるという結論だが、病院が医師の労働時間を短縮するには、各診療科が詳細な勤務実態を把握し、実態に即した計画を作成することが重要と強調した。年1,860時間の特例水準を採用せざるを得ない病院があることに対しては、地域医療を守り、健康確保措置が確実に履行される制度設計が今後議論されることを求めた。

 

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