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ホーム全日病ニュース(2020年)第972回/2020年10月1日号実際の審査を想定してシミュレーションを実施

実際の審査を想定してシミュレーションを実施

実際の審査を想定してシミュレーションを実施

【中小病院の病院機能評価認定率向上を目指して⑤】美原 盤(全日本病院協会 副会長、診療アドバイザー)

 8月28日、香川県の樫村病院を訪問した。7月に行われた看護部門による支援はコロナウイルス感染症の問題でWEB対応となってしまったが、今回は実際に現地に赴くことができた。
 前日に高松入りし、支援は10時から開始した。まず、病院概要説明のシミュレーションを病院長がPPTを用いて行った。病院概要説明に求められることは受審病院の特徴を明確に示すことである。一般病院1は地域医療を支える中小規模病院であり、概要説明に当たっては、地域の特徴(人口、高齢化率など)、地域の医療提供体制、その中での自院の立ち位置を明らかにすべきであり、地域包括ケア、地域医療構想を意識したプレゼンテーションが望まれる。
 当該病院は、①整形外科を中心とした急性期医療、②地域の施設と連携したサブアキュート患者の受け入れ、③大学病院からのポストアキュート患者の受け入れ、といった機能を有していることが示された。これらの機能の中でどれがメインなのかを明らかにし、その機能を示すのに適当な症例をケアプロセスの対象患者として挙げるようアドバイスした。
 次に合同面接のシミュレーションを行った。実際の審査においても合同面接は病院長による病院概要説明に引き続き行われる。病院管理者・幹部以下、各部署の責任者が一堂に会して面接する意義は、病院長がリーダーとして病院スタッフをワンチームと纏め上げることにある。換言すれば、病院はどこを目指して運営されていくのか、それに向かって各部署は何をすべきかをスタッフが共有する重要な場であると捉えたい。
 各項目ともサーベイヤーが質問する内容は決まったものであり、どの項目に対し誰がどのように答えるかを準備しておくとよい。時間が限られているのでアピールしたいことをアピールできないまま終わってしまう恐れもある。そこで前もってアピールしたいことを図表などにまとめ、資料としてプリントアウトしておくことを勧めた。
 資料の内容としては、具体的な取り組みとともにそのアウトカムとしての客観的データも示すとよい。そうすればサーベイヤーにとっても評価コメントが書きやすくなる。参考資料として、当院受審時の合同面接の際に用意した資料を提供した。病院概要説明を受け「1.2 地域への情報発信と連携」は当該病院の強みであることが推察され、S評価を受けることを狙って準備することを勧めた。
 昼休み後、ケアプロセスのシミュレーションを行った。ケアプロセスの経験がないためやむを得ないが、準備が不十分であった感は否めない。訪問前にケアプロセスのやり方につき十分に伝えておかなかったことを反省し、申し訳なく思っている。症例の選択について、1例目は、前述したように当該病院のメインの機能を示す症例を、2例目はそれ以外の機能を示す症例を準備することが望ましい。また、1例目のケアプロセスにおいて評価できない項目に関しては(例えば輸血、身体拘束実施、死亡例など)、個別の項目ごとに症例を用意しておくとよいであろう。
 当該病院は電子カルテシステムが運用されているが、実際のケアプロセスの際は電子カルテの画面上で実施するのではなく、必要な書類、説明するのに適切な診療記録はプリントアウトしておくことが時間を有効に使うためには有用である。例えば、入院時に行われる標準化された転倒・転落のリスク評価、持参薬のチェック、栄養評価などについて、その症例に関わった専門スタッフが、プリントアウトした資料を提示し、説明することがチーム医療をアピールすることにつながる。
 当該病院では、説明と同意について同意書は作成されていたが、これ以外にカルテ記載はなかった。医師による説明内容の記載、また、説明をどのように理解し受け止めているかなどの患者の反応について看護師の記載があるとよいと思われた。手術に関して術前訪問は、看護部門としては実施したいと思っているが行われていない。であるなら、審査の時に率直にその事実を伝えるべきであろう。これをサーベイヤーが指摘することが、現場の意見を吸い上げ、病院機能の向上を後押しすることにつながると考えている。中小病院においてはマンパワー不足などの理由で実施したくてもできないことは多々あると思われるが、問題であることを認識し、放置しないでどのように補完したらよいか検討し、工夫する態度が必要であろう。
 予定時間を大幅に過ぎてしまったため部署訪問は行えず、スタッフからの質問を受けた。薬剤部からはポリファーマシー対策についての質問があり、これに関する当院のマニュアル、薬事委員会の報告を資料として提供した。
 受審に向けて準備していくに当たり、表面的に形を整えようとするのではなく、各項目の求めていることは何かを考え、医療の質におけるストラクチャー、プロセス、アウトカムを意識して対応を心がけたらよいと思われた。

 

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