全日病ニュース

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オンライン診療の現状と展望

オンライン診療の現状と展望

【HOSPEX Japan 全日病セミナーより】株式会社メドレー代表取締役医師 豊田剛一郎氏

 医療介護の求人サイトやオンライン診療システムを手がける株式会社メドレーの代表取締役医師、豊田剛一郎氏は2020年11月11日、医療福祉分野の展示会HOSPEX Japan 2020における全日病主催のセミナーで、「オンライン診療の現状と展望」をテーマに講演した。豊田氏はオンライン診療を、患者と医療機関の関係性をより太くするためのコミュニケーションツールと位置付け、実例を紹介した。将来的には、オンライン診療か対面か、医療機関が患者を管理・指導するための手段を場面に応じて柔軟に選び、それが評価される報酬制度になることが望ましいとの考えを示した。

新型コロナで第二次ブーム 普及に向けたスタート切られた
■オンライン診療
 オンライン診療について、これまでの流れを振り返る。1997年に厚生省(当時)は、へき地や離島に限るといった条件付きで遠隔診療を行ってよいと通知を出したが、当時はオンライン診療を進める理由がとくになく、オンライン診療ができる人や設備も十分ではなかったため、広がらなかった。
 2015年8月の、厚生労働省からの事務連絡により遠隔診療が事実上の解禁へ。ここからオンライン診療に取り組む医療機関や企業が増えていった。第一次オンライン診療ブームと言えるだろう。
 2018年の診療報酬改定で、オンライン診療料が設定された。報酬上、オンライン診療が位置付けられたのは大きな一歩だったが、要件が厳しく、実際にはなかなか報酬が取れず、第一次のオンライン診療ブームが終わった。
 2020年度の診療報酬改定でオンライン診療が緩和される見通しだったが、新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するために、2月28日と4月10日に事務連絡が出され、特例的にオンライン診療の規制が緩和された(図表)。これにより、オンライン診療の適用範囲が広がり、第二次オンライン診療ブームが起きた。現在、かなり速いペースで普及が進んでいる。
 規制緩和は今後も継続して行われそうであり、現在のブームは一時的なものでは終わらないだろう。将来からみて、2020年はオンライン診療普及に向けたスタートが切られたタイミングとして位置付けられるのではないか。オンライン診療が医療現場に根付き始める環境が近年中に整うと考えている。

慢性疾患の患者を脱落させず 通院継続率を上げるための手段
 「オンライン診療は対面診療に勝るのか」などと言われることがあるが、その問いの立て方では建設的な議論は生まない。オンライン診療は対面診療を補完するものである。
 例えば仕事では、eメールと直接対面しての会議を場面に応じて使い分けていると思うが、だからといって「eメールは会議に勝るのか」などと議論することはない。
 オンライン診療も、場面に応じて使い分けるものと考えればいい。重要な診察や検査は、対面でなければできないが、患者さんと医療機関の関係性をより太くするためのコミュニケーションツールとしてオンライン診療は利用できる。
 診療報酬で「オンライン診療料」という点数があると、「オンライン診療と対面診療の評価の差はどうやって決めるのか」などという議論を招いてしまう要因となっているのではないか。
 本来ならば、オンライン診療か対面か、医療機関が患者さんを管理・指導するための手段を柔軟に選べるようになるといい。現在の出来高払いの診療報酬制度では難しいが、診療報酬にいずれP4P(pay-for-performance、実績に基づく支払い)や価値に基づく支払なども導入され、患者さんとの関係の最適化が医療機関に求められるようになったとき、現場でオンライン診療が本当に有意義なものになるのではないか。
 オンライン診療に一歩踏み出した医療機関では、診療形態の一つとして定着しているし、オンライン診療を一度受けた患者さんも、選択肢のひとつとしてオンライン診療を利用し続けている。オンライン診療は、爆発的に普及するというものではないが、今後、確実に広がっていくだろう。
 対面とオンラインを組み合わせ、慢性疾患の通院をできるだけ快適にすることで、慢性疾患の患者さんの治療を継続しやすくすることができる。オンライン診療により、患者さんの通院継続率の向上や、かかりつけ機能の強化を実感している医療機関を増やせるよう、我々もサポートしていく。

セカンドオピニオンや難病治療 検査結果説明をオンラインで
 わが社はオンライン診療システム「CLNICS(クリニクス)」を提供している。最初は診療所向けのシステムとしてスタートしたが、大病院や専門領域の病院にも利用が広がってきた。
 病院ではセカンドオピニオンや、遠隔地の難病患者さんの診察などにも使っていただいている。コロナの院内感染防止で、患者動線を分けるためにも利用されている。検査の結果説明でも使われており、例えば婦人科では、不妊治療の検査結果の説明をご夫婦そろって聞いてもらう機会をオンラインにすることがある。ご夫婦そろってレディースクリニックに来てもらうのは、物理的にも精神的にも負担があるが、オンラインで行えれば、患者さんの負担軽減になる。
 新型コロナへの対応で、オンライン診療には特例措置が設定された。4月の事務連絡で、電話・オンラインで初診もできることになった。初診では214点がとれる。再診の場合、特定疾患療養管理料(225点)を取っていた患者さんについては、オンラインで147点が取れる。

薬機法改正で診療から服薬指導までオンラインで一気通貫
■オンライン服薬指導
 服薬指導は最近まで法律で対面が必須とされており、オンライン服薬指導は禁止されていた。しかし、2019年末の薬機法改正で、オンライン服薬指導が可能になった。
 わが社では、調剤薬局向けに「Pharms(ファームス)」というオンライン服薬指導のシステムを提供している。CLINICSと組み合わせると、患者さんは、オンライン診療とオンライン服薬指導の一気通貫のサービスを受けられる。

新患は原則対面で コロナ流行下の発熱外来は例外
■オンライン医療の今後
 新型コロナの特例措置で電話初診が認められているが、電話初診は危険だという声がある。電話は再診のみに戻す方向で、厚労省でも検討が進められている。
 厚労省では、「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が頻繁に開かれている。診療の安全性・信頼性を確保することは当然だが、これまで検討会では、「利便性」という言葉に対して慎重に捉えられていた。ところが、新型コロナへの対応を経て、利便性もポジティブなものとして検討していく方向に変わってきた。検討会の議論は、1年前、2年前とは大きく変わったと感じる。
 私たちは、できれば新患は対面であるほうがよいと言い続けてきた。とくに一度も診たことのない患者さんの電話診療には、かなり難しさがあると考える。「何かあった時には対面での診療に来てくれる」という患者さんと医師との関係性があることを前提に、オンライン診療を実施するのがよい。
 ただ、例外として、新型コロナとインフルエンザが流行するこの冬の発熱外来では、完全初診であっても、一定は許容されると考えている。
 日本プライマリ・ケア連合学会の新型コロナウイルス感染症の初期診療の手引きでは、発熱患者のオンライン診療も許容されることが明確に書かれた。患者さんに必要な初期対応を行い、経過をオンラインでフォローするということが考えられる。

電子処方箋がオンライン医療の鍵 対面以外での患者管理の評価を
■オンライン医療と診療報酬制度
 電子処方箋は、まだ日本では制度が使える状況にないが、我々は、2018年から2019年にかけて、電子処方箋の実証事業を厚労省から受託して実施した。
 電子処方箋を現場で使うには、まだ障壁が多く、国もいま普及に向けて動いている。電子処方箋も今後、1〜2年くらいで状況が変化していくのではないか。
 電子処方箋が、日本の医療情報の標準化とオンライン医療の推進の鍵を握るポイントではないかと考えている。
 ICTの普及を阻害し、現場で課題になっている多くのことの背景に、診療報酬の出来高払い制があるのではないかということも考えている。
 患者さんを医療機関に来させなくとも、きちんと管理し、治療できている医療機関を診療報酬で評価する仕組みが現在はない。そのような中で、コロナの感染拡大のようなことが起きると、一気に患者が減って医療機関の経営がたちゆかなくなる。将来的には、患者を医療機関に来させなくとも管理できるような仕組みづくりが、今後の日本には必要だ。
 そのような未来を見据えてサービスやプロダクトをつくり、臨床現場と患者さんに還元していきたい。

出典:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(2020年8月6日)資料

 

全日病ニュース2021年1月1・15日合併号号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
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    2020.06.01 新型コロナウイルス感染症に対応したへき地に係る医療提供体制
    について(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部:R2.5.29) PDF
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    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2020/200414_5.pdf

    なお、第7次医療計画の中間見直しの時期については、今般の新型コロナ
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    いる。 厚生労働省は、平成26 年度より依存症に対応することのできる医療機関の
    確保を.

  • [3] 掲載記事一覧:お知らせ - 全日本病院協会

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    2020年3月31日 ... 日以前の入院日となる。 問 27 区分番号「A245」データ提出加算について、
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  • [5] 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連通知、事務連絡一覧 ...

    https://www.ajha.or.jp/topics/novel_coronavirus/pdf/200508_3.pdf

    2020年4月6日 ... 新型コロナウイルス感染事例が発生した場合や感染リスクが高い者との接. 触
    による介護 ... 新型コロナウイルス感染症におけるへき地に係る対応について配慮
    が必要 ... の事務連絡等を整理したが別添として添付されている。

  • [6] 第7章 科学的根拠に基づいた病院経営への挑戦

    https://www.ajha.or.jp/about_us/50years/pdf/50years_07.pdf

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