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ホーム全日病ニュース(2021年)第979回/2021年2月1日号厚生労働省が医療経済実態調査の実施案示す

厚生労働省が医療経済実態調査の実施案示す

厚生労働省が医療経済実態調査の実施案示す

【中医協総会・調査実施小委】コロナの影響小さくするため単月データを追加

 厚生労働省は1月13日の中医協の調査実施小委員会に、2022年度診療報酬改定の参考資料となる医療経済実態調査の実施案を提示した。2020年度診療報酬改定の医療機関の経営に対する影響を把握するのが目的だが、2020年度の事業年度データはコロナの影響を強く受けている。厚労省は、2020年度改定の影響を把握できるようにするため、コロナの影響が小さい単月データを追加して調査することを提案した。ただ、診療側は医療機関の負担が大きいなどの理由で難色を示しており、引続き議論を行うことになった。
 なお、同日、調査実施小委員会の委員長に、秋山美紀・慶應義塾大学環境情報学部教授が選出された。
 通常の医療経済実態調査の方法で、2020年度改定の影響を把握する場合は、2019年度と2020年度の2カ年の事業年度データを用いる。しかし、厚労省が公表する「最近の医療費の動向」によると、2020年4月~8月で医療費は対前年同期比▲6.2%となっている。コロナの影響で医療機関の医業収益が減少しており、単純に2カ年の事業年度データを比較しても、2020年度改定の影響を把握することは困難な状況だ。このため、コロナの影響が小さい月のデータを追加する提案があった。調査を作成する今年7月までで、実施可能な最も後の月は今年6月であると、厚労省は説明した。
 また、新型コロナ感染症緊急包括支援交付金などのコロナ関連の補助金による収益は、その他の補助金と分けて把握する。病院であれば「その他収益」、診療所であれば「その他の医業収益」として、別に項目を設ける。新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金は、従事者へ支払われる慰労金であり、医療機関によっては、損益計上している施設もあれば、預かり金として損益計上していない施設もあるため、損益に計上しないとする提案もなされた。
 これに対し、特に単月調査に関し、診療側は難色を示した。日本医師会副会長の今村聡委員は、「どの月もコロナの影響を免れ得ない。医療経済実態調査は医療機関の負担が大きく。回答率の低下につながってしまう。また、2カ年の事業年度データとの違いの解釈も難しくなる」と述べた。
 日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦委員も、「単月調査は支出の振り分けが大変で、負担が大きい。コロナの影響も、地域差やコロナ患者受入れの有無で異なる。分類して把握しようとすると、回答数が少なくなり、調査の有意性が課題になる」と指摘した。
 厚労省は、単月調査の回答が困難な場合でも、回答全体としては「有効」として扱うことや、費用項目の内訳の一部省略を検討することを補足した。
 一方、支払側は賛成した。健康保険組合連合会理事の幸野庄司委員は、「通常の医療経済実態調査を実施しても2020年度改定の影響を把握することは難しい。工夫して実施することが必要だ」と述べた。また、「重症度、医療・看護必要度」や入院料の見直しも経過措置が今年度まで延長となっていることから、「今年度で延長が切れれば、2020年度改定の影響を把握できる」と主張した。
 厚労省はこれらの意見を踏まえ、今回は結論を出さず、コロナの感染状況をみながら、引き続き議論するとの考えを示した。

不妊治療の保険適用めぐり議論
 同日の総会(小塩隆士会長)では、不妊治療の保険適用をめぐり議論を行った。菅内閣は9月16日閣議決定の基本方針で、不妊治療への保険適用の実現の方針を決めている。これを踏まえ、社会保障審議会・医療保険部会(遠藤久夫部会長)は昨年12月23日に「議論の整理」をまとめた。「議論の整理」では、2022年度当初からの保険適用の実現と、全世代型社会保障検討会議が決めた工程表(下表参照)に沿って中医協で議論を進めることを求めている。
 工程表では、3月末に実態調査の最終報告が出され、夏頃に学会ガイドラインがまとまるため、中医協での本格的な議論はそれ以降になる。また、保険適用までの間は、助成制度を大幅に拡充することが決まっており、所得制限を撤廃し、助成額を増額することになっている。また、不育症の検査やがん治療に伴う不妊について、新たな支援を実施することも2021年度予算案で措置された。
 現状で不妊治療については、治療と疾病の関係が明らかで、治療の有効性・安全性が確立しているものを保険適用している。一方、原因が不明な不妊症に対して行われる体外受精や顕微授精などは保険適用されていない。
 治療技術には様々な特性があり、一律に保険適用するのは難しい。だが、現状では保険適用外の治療は混合診療になってしまう問題もある。このため、工程表では、保険外併用の仕組みの検討も明記されている。
 倫理的な問題もある。池端委員は、「不妊治療を保険適用にすると、子どもを産めないことが保険事故という取扱いになってしまう。子どもを望まない人への偏見につながる可能性がゼロではない」と指摘した。厚労省は、「不妊治療の保険適用は、少子化社会対策のパッケージとして、推進を図るものであり、里親・養子縁組制度の促進などもあわせて推進する。国民への広報と啓発を図る」と説明した。
 日医の松本吉郎委員は、「医療保険部会などで様々な議論があったと思うが、中医協でしっかりと議論していく」と述べ、これまでの議論にとらわれずに議論を行う姿勢を強調した。
 日本産科婦人科学会に不妊治療実施医療機関として登録されている622施設の医療機関に対する昨年秋のアンケート調査結果も示された(回収率49%で307施設)。
 それによると、新鮮胚移植の費用の中央値は37万~ 51万円、凍結肺移植は43万~ 51万円であった。数値の幅は、排卵誘発剤の使用の多寡、体外受精であるか顕微授精であるかなど治療法の違いによる。これに対し拡充前のこれらの治療に対する助成額は、15万円(初回30万円)である。

 

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