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ホーム全日病ニュース(2021年)第979回/2021年2月1日号医療など自然増を実質3,500億円に抑え、社会保障費を抑制

医療など自然増を実質3,500億円に抑え、社会保障費を抑制

医療など自然増を実質3,500億円に抑え、社会保障費を抑制

【厚労省予算案】コロナ禍踏まえ診療報酬は特例を設ける

 政府は 12 月 21 日、2021年度予算案を閣議決定した。厚生労働省予算案としては 33 兆1,380億円を計上。大部分を占める社会保障関係費は 32 兆7,928億円、対前年度比1,609億円、0.5%増で、例年にない低い伸びだ。コロナの影響による医療費減を2,000億円見込んだためで、実質的には3,500億円の増加となっている。
 増加額を抑制した最も大きな要因は薬価引下げであり、▲1,000億円の効果がある。一方で、介護報酬(196億円)や障害福祉サービス等報酬( 86 億円)はプラス改定としている。

医療費を2千億円低く見積もる
 医療費は、2020年度のコロナの感染状況を踏まえ、2021年度の医療費の伸びを想定し、通常より2,000億円低く見積もった。それを含めた実質的な伸びは3,500億円程度となるが、それでも最近の傾向では低く抑えている。
 これについて財務省は、「高齢化による増加分におさめるという方針を着実に達成した」と誇っている。2021年度の医療や年金などのいわゆる自然増が4,800億円と見込まれた中で、制度化・効率化により1,300億円を削減し、3,500億円程度としたためだ。2020年度予算では、4,111億円だった。
 1,300億円の削減の達成に寄与したのは、初の毎年薬価改定(▲1,000億円)と、これまでの制度改革の効果(▲700億円)である。逆に、介護報酬改定(196億円)や障害福祉サービス等改定(86億円)など給付増に寄与したものもあり、差し引きで1,300億円の削減となっている。

初めての中間年の薬価改定を実施
 薬価改定は、国費ベースで1,000億円、薬価ベースで4,300億円の効果があった。2016年12月20日の4大臣合意で毎年薬価改定の方針が示されて以来、中間年改定が実施されるのは初めて。2019年度改定は10月の消費税10%への引上げに伴う薬価改定であり、中間年改定ではなかった。
 対象範囲は、平均乖離率8%の0.5倍~ 0.75倍の中間である0.625倍(乖離率5%)を超える品目とした。対象数は1万2,180品目で、全体の69%が該当する。中医協での医療側の主張と隔たる幅広い範囲が対象となった。
 一方で、薬価の削減幅は、通常の2%の調整幅に加え、0.8%分を緩和する配慮は行われた。
 なお、薬価改定以外のこれまでの制度改革の効果による700億円の削減は、主に2019年度から段階的に実施している後期高齢者医療制度の保険料の軽減特例の見直し(▲600億円)や、2020年度の介護保険制度改革(▲100億円)によるものだ。

介護報酬は0.70%のプラス改定
 介護報酬改定(196億円)や障害福祉サービス等改定(86億円)はプラス改定となり、給付増に寄与した。診療報酬の対応(451億円)も別にあるが、特例的な対応との位置づけで、自然増の抑制手段にはなっていない。
 2021年度介護報酬改定の改定率はプラス0.70%となった。給付の適正化を行う一方で、感染症などへの対応力強化やICT化の促進を行うなどメリハリのある対応を行う。プラス改定の水準は、介護職員の人材確保・処遇改善にも配慮しつつ、物価動向による物件費への影響など介護事業者の経営状況を踏まえた。
 プラス0.70%分のうち、0.05%はコロナ対応で必要となる、かかり増しの経費に充てる分とした。
 このため、2021年9月末までの特例対応とする。ただし、10月以降も、「この措置を延長しないことを基本の想定としつつ、感染状況や地域における介護の実態等を踏まえ、必要に応じ柔軟に対応する」としている。
 2021年度障害福祉サービス等報酬改定はプラス0.56%となった。福祉・介護職員の人材確保・処遇改善にも配慮しつつ、感染症への対応力強化などを踏まえた。介護報酬改定と同様に0.05%分は、コロナ対応で必要となる、かかり増しの経費に充てる分とした。2021年9月末までの特例対応だが、同様に「柔軟に対応する」としている。

感染症対策で診療報酬の特例
 コロナ禍でも地域の医療提供体制を維持・確保するための診療報酬の特例的な引上げも実施する。感染予防策を講じた一般診療において、医科・歯科の外来で5点、医科・歯科の入院(1日)で10点、調剤で4点、訪問看護で50円(1回)を2021年4月から、それぞれ追加的に算定できる。
 これまでの診療報酬の特例は、基本的にコロナ患者・疑い患者への診療を想定した手当だったが、今回は一定の感染症対策を求めるとしても、すべての患者に対して算定できる特例である。コロナの感染拡大により、誰もがウイルスを保有している可能性があることを考慮し、医療機関が感染症対策を講じていることの評価だ。
 これらの措置は2021年9月まで。だが、10月以降についての合意事項の文言は、「延長しないことを基本の想定としつつ、感染状況や地域医療の実態等を踏まえ、年度前半の措置を単純延長することを含め、必要に応じ、柔軟に対応する」となっている。
 小児特有の感染予防策を講じた場合の特例的な評価は、2020年度第三次補正予算案により2020年12月15日から実施されている。小児特有の感染予防策を講じた上で、6歳未満の乳幼児を診療した場合、医科で100点、歯科で55点、調剤で12点を特例的に算定できる。
 医科では、初診料の乳幼児加算(75点)と地域包括診療加算1(25点)の点数を準用し、合算した。歯科では、初診料の乳幼児加算(40点)、再診料の乳幼児加算(10点)、歯科外来診療環境体制加算2(5点)の点数を準用し、合算した。調剤では、薬剤服用管理指導料の乳幼児服薬指導加算(12点)を準用した。
 2020年度内の財源は第三次補正予算案で措置するが、2021年度分は2021年度予算案で措置する。2021年10月以降、小児特有の感染予防策の評価は半分となり、医科が50点、歯科が28点、調剤6点となる。特例は2021年度末までの措置としているが、「必要に応じ、柔軟に対応する」としている。
 そのほかのコロナ対応の様々な診療報酬の特例については、当面の間、継続する。
 このような対応により、自然増を3,500億円程度に抑えることができた。ただ、2022年度から団塊世代が75歳に達し始め、医療・介護などの費用が急増すると予想される。2021年度はその直前で、戦間期の低出生率が継続している期間に当たり、75歳に達する高齢者は比較的少ない。コロナの収束が見通せない状況ではあるが、来年度以降はさらに厳しい予算編成になる見込みだ。

コロナ以外の予算は例年並みを確保
 2021年度予算案は◇ウィズコロナ時代に対応した保健・医療・介護の構築◇雇用就業機会の確保◇「新たな日常」の下での生活支援の3本柱で、コロナ対応を主眼にした「15カ月予算」の考えの下で構成しており、2020年度第三次補正予算との連動性が強い。
 特に、医療提供体制を確保するため、2020年度第一次補正予算から矢継ぎ早に対策を打ち出しており、その金額は膨大なものだ。
 主な対策をあげると、2020年度第一次、二次、三次補正予算と予備費をあわせ、◇緊急包括支援交付金等(4.3兆円)◇診療報酬対応(1千億円)◇福祉医療機構の資金繰り支援(1千億円、貸付枠1.9兆円)◇ワクチン確保等(1.7兆円)◇PCR 検査体制の拡充、検疫体制の強化等(3千億円)◇コロナ関連の研究開発等(2千億円)◇医療用物資の確保、その他のシステム整備等(8千億円)がある。単純に足し合わせると7.6兆円に上る。
 「ウィズコロナ時代に対応した保健・医療・介護の構築」の2021年度予算案をみても、15カ月予算の中で、多くを補正予算等での財政措置に依拠している対策が少なくない。例えば、感染防止に配慮した医療・福祉サービス提供体制の確保の予算は、2020年度第三次補正予算案で1兆6,422億円、2021年度予算案で533億円である。
 一方、コロナ対策以外の医療提供体制確保策などの予算は例年に近い規模を確保している。地域医療介護総合確保基金の医療分は2020年度の1,194億円に対し、1,179億円を計上した(国分が851億円、地方分が328億円)。うち病床機能再編支援分は2020年度と同額の195億円となっている。
 病床機能再編支援制度は地域医療構想の達成に向け、病院の「病床削減」と「病院統合」に財政支援を行うものだ。全額を国が交付。2020年度予算で創設した制度だが、2020年度は一般財源で措置した。2021年度以降は消費税財源で措置するため、法改正を実施することになっている。
 地域医療介護総合確保基金の介護分も、2020年度と同じ824億円(国分が549億円、地方分が275億円)を確保している。
 そのほかの項目でも2020年度と同水準の予算を確保した事業が多い。
 地域医療構想・医師偏在対策・医療従事者働き方改革の推進等は2020年度の1,051億円に対し1,021億円(補正3.6億円)、介護の自立支援・重度化防止に向けた取組みの強化は同409億円に対し410億円、認知症施策推進大綱に基づく施策の推進は2020年度と同額、介護の受け皿整備・介護人材の確保は同1,096億円に対し1,093億円(補正133億円)、健康寿命延伸に向けた予防・健康づくりは同1,500億円に対し、1,493億円(補正98億円)となっている。

 

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  • [5] 全日本病院協会

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    医療行政に関する情報サイト。各情報を「全日病について」「主張・要望・調査
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