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ホーム全日病ニュース(2021年)第982回/2021年3月15日号医師偏在対策の進展を検証しつつ、総医師数の抑制を議論

医師偏在対策の進展を検証しつつ、総医師数の抑制を議論

需給分科会はオンラインで開催された

医師偏在対策の進展を検証しつつ、総医師数の抑制を議論

【厚労省・医師需給分科会】養成段階の医師の派遣には疑問の声も

 厚生労働省は3月4日、医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会(片峰茂座長)を開催した。総医師数を抑制するのは、医師偏在対策の実施が前提であり、医学部入学定員の取扱いについては、医師偏在対策がどの程度進行しているかを検証しつつ、議論を進める方針を確認した。ただ、全日病副会長の神野正博委員は、「強力な偏在対策が実施されなければ、地域の医師不足は変わらない。『強力な』という意味では、まだ不十分」と強調した。
 2019年4月に施行された改正医療法等は、様々な医師偏在対策を含み、それが順々に実施されている状況にある。特に、医師不足地域に定着する医師を増やすことを狙う地域枠の拡充については、期待感が大きいが、実際に効果を発揮するのは、地域枠の学生が医学部を卒業し、医師になり、経験を積むまでに10数年単位の時間がかかる。
 臨床研修・専門研修の各養成段階の対策についても、将来的な地域定着を狙うとともに、養成段階の医師が大都市に集中するのを避け、医師不足地域で診療に従事する医師を増やす対策を講じている。しかし、同日の議論では、「養成段階の医師が医師不足地域に派遣されても、指導医の問題や患者の不安感もある。医師養成と医師確保は、別に考えるべきではないか」(山口育子委員・COML理事長)といった意見が相次いだ。
 診療科を考慮した医師偏在対策が不十分との主張もあった。全国医学部長病院長会議前会長の新井一委員は、「地域枠の拡充には期待するが、医師偏在対策が、医師の頭数をそろえることに終始している印象がある。そこから脱却して、医療の中身に踏み込んだ医師偏在対策が必要だ」と述べた。
 他方、神野委員は、2019年4月に施行された改正医療法等による外来医療機能の偏在対策に関し、「外来医師多数区域における開業制限の取組みは進んでいるのか」と質問した。これに対し厚労省は、「定量的な把握はしていないが、地域により地域医療構想調整会議などで、地域で不足している外来機能を担ってもらうよう、会議や書面で開業の際に要請するような事例が報告されている」と回答した。
 神野委員は、「取組みがしっかりと進んでいるかを評価する必要があるので、定量的な把握をお願いする」と求めた。
 また、岩手医科大学理事長の小川彰委員は、現状で進めている医師偏在対策は、都道府県内の医師偏在を是正する効果は期待できるが、都道府県間の是正効果は乏しいと指摘し、さらなる対策を検討する必要があると強調した。

研究医枠は効果の把握が不十分
 医学部入学定員の地域枠の拡充とともに、研究医枠と歯学部振替枠が議題となった。
 研究医枠は、日本の基礎医学論文数が各国と比べ、低調であることへの危機感により、2010年度に創設された。複数大学の連携によるコンソーシアムを形成し、研究医養成の観点から卒後・大学院教育を一貫して見通した特別コースで、増員数の2倍の履修者を確保する必要がある。入試段階で学生を選抜する地域枠と異なり、特定の年次に選抜が行われ、特別コースに編入される。
 履修者が実際に研究医への道を歩んでいるか把握が出来ておらず、目に見える効果も出ていないことに対し、委員からは、否定的な声があがった。医学部の入学定員増の手段にしかなっていないとの指摘もあった。
 一方で、片峰座長は、「何をゴールにするかは大学によって考えが異なる。医学生も入学時点で進路を決めるのは難しい。効果は長い目でみないとわからない」と擁護した。聖路加国際病院院長の福井次矢委員は、日本の基礎医学の水準を引き上げるためには、研究医枠以外の対応を含めた抜本的な対策が必要と強調した。

歯学部振替枠は不公平との指摘
 歯学部振替枠では、医・歯学部を両方持っている大学で、歯学部入学定員を減員する場合、減員数の範囲内で一定割合の医学部臨時定員の増加を認めている。2020年度で歯学部振替枠による医学部入学定員増は44人となっている。委員からは、「歯学部を持っている大学だけが余分に医学部定員を増やせるのは不公平」との意見があがった。日本医師会の釜萢敏委員は、「当時(2009年)の医師不足の状況に早急に対応するために、歯科医師の過剰感もあり、振替枠が始まった。しかし、その役割は終わったのではないか」と述べた。
 神野委員は、歯学部入学定員との関係があることを含め、「歯学部振替枠の議論は、医学部入学定員の臨時定員枠の議論とは分けて考えるべき」と主張した。厚労省は同日の議論を踏まえ、論点を整理するとの意向を示した。

 

全日病ニュース2021年3月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2015年8月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2015/150801.pdf

    2015年8月1日 ... 神奈川県、北海道の順だったが、15年. 度は千葉県と ... 委員は有識者. と産業界の
    14人からなり、医療関係か. らは松田晋哉産業医科大学医学部教授. がただ一人
    選出された。 推進委員会 ... その中で、神野正博委員(社会医療.

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2015年1月1日・15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2015/150101.pdf

    (2)2015年(平成27年)1月1日(木). 全日病ニュース 第839号. 全日本病院
    協会 副会長. 神野正博. 新年あけましておめでとうございます。 本年は医療界
    にとって節目の年になるでし. ょう。昨年6月、医療介護一括法が成立しま. した。

  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2014年9月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2014/140901.pdf

    業医科大学医学部の松田晋哉教授とDPC評価分科会の金田道弘委員(社会医療
    法人緑壮. 会金田病院 ... こうしたデータの公表と活用によって、行政だけでなく
    、医療機関の側も地域の需給. を踏まえた ... 社会医療法人財団董仙会の神野正博
    理.

  • [4] 全日病ニュース・紙面PDF(2016年10月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/161001.pdf

    2016年10月1日 ... と頻々. と言われるようになって来ていて、ロコ. モ・フレイル等といわれる健康
    弱者の増. 加・医療ニーズは今後増加することはあ ... 医師需給分科会」で年末に
    向けて検討を進め、とりま ... 全日病副会長の神野正博委員.

  • [5] 全日病ニュース・紙面PDF(2021年1月1・15日合併号号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2021/210101.pdf

    1988年3月23日 ... 需給・偏在対策等の課題について議論が再開されています。医療計画においては
    、 ... 常任理事 医療従事者委員会委員長 井上健一郎. 明けましておめでとうござい
    ... 全日病副会長の神野正博委員は、. 「『患者が営む日常生活や ...

  • [6] 2012年12月1日号

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2012/121201.pdf

    体的なあり方に関する検討会」が11月16日に初会合を開いたが、医療系委員から
    病床機. 能の定義の仕方 ... 構成員の西澤全日病会長は、「病床機能は医療機関が
    自主的に選択するもので、行政が. 決めるものでは ... (3)高額療養費の見直し、
    (4)不正受給. 防止のための ... 神野正博全日病副会長(社会医療法. 人財団
    董仙会 ...

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