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ホーム全日病ニュース(2021年)第983回/2021年4月1日号新型コロナウイルス対策における民間病院の役割
データに基づく冷静な議論が不可欠

新型コロナウイルス対策における民間病院の役割
データに基づく冷静な議論が不可欠

新型コロナウイルス対策における民間病院の役割
データに基づく冷静な議論が不可欠

インタビュー●猪口雄二会長 に聞く

 政府は新型コロナウイルスの感染を抑えるために、1月7日に一都四県を対象に緊急事態宣言を発出。一定の成果をあげたことから、緊急事態宣言は3月21日に解除された。この間、新型コロナ患者の病床を確保するため、全日病は会員病院に対し、コロナ患者受入れを要請するとともに、行政や医療関係団体と協力して医療提供体制の確保に取り組んできた。
 感染第3波を踏まえて、ウィズ・コロナの状況にどのように対応するかを猪口雄二会長に聞いた。

緊急事態宣言は解除されたが感染状況は油断できない
── 緊急事態宣言が3月21日に解除されましたが、現在の感染状況についてどうみていますか。
 2か月半に及ぶ緊急事態宣言によって、新規感染者数はピーク時より大幅に減少し、一定の成果がみられるとして緊急事態宣言が解除されましたが、首都圏は下げ止まりから増加傾向にあり、リバウンドの懸念もあり、警戒を緩められる状況にはないと思います。
 変異株が広がる兆候もみられるので、感染の第4波も念頭に置いて医療提供体制の確保に努める必要があると考えています。

民間の受入病院は公立・公的よりも多い
──この間の動きをふり返ってみたいのですが、感染拡大の第3波が押し寄せる中で、民間病院の新型コロナ患者受入れが少ないことを問題視する報道が相次ぎました。
 年末に感染者が急激に増え、年が明けると東京で1日2千人を超える感染者が報告されるようになり、病床逼迫が懸念される事態になりました。医療崩壊を起こさないために、コロナ患者の受入れ病床を増やさないといけないという状況で、報道が過熱して、民間病院が新型コロナ患者を受け入れていないという論調がみられました。
 感染者数が減少すると同時にこうした報道は影をひそめていますが、この問題は冷静に考える必要があります。
 まず、報道の根拠となったデータですが、厚生労働省が地域医療構想ワーキンググループに出した資料です。G-MISで報告のあった全医療機関のうち、高度急性期・急性期病棟を有する医療機関(4,201医療機関)で、新型コロナ患者の受入れが可能な医療機関は、公立で69%、公的で79%、民間で18%というデータが示されました。このような数字を根拠に、「民間病院は2割しか受け入れていない」との判断がされたのです。
 しかし、データの中身をよくみる必要がある。これは病床機能報告で高度急性期・急性期の機能を持つと報告した医療機関が対象でした。病床機能報告は、病院が主に担っている機能を報告しているもので、2~3病棟のケアミックス病院で、1病棟でも急性期病棟があれば急性期と報告している病院は少なくありません。
 また、設立主体の分類にも注意が必要です。この資料では公立病院は、ほぼ自治体病院ですが、公的病院は「公的医療機関等2025プラン策定対象医療機関」であり、様々な設立主体を含んでいて、国立病院機構や日本赤十字、済生会などのほか、民間病院の地域医療支援病院も公的病院に入っているのです。コロナ患者を多く受け入れている大学病院など特定機能病院も公的病院の位置づけです。大きな民間病院は地域医療支援病院であることが多いのですが、そこが公的病院にカウントされていたのです。
 厚労省は追加資料を提示し、1月10日までに報告があった分として、地域医療支援病院を民間に含めました(図)。そうすると、受入れ可能な民間病院の割合は30%まで上がります。ただ、多くの人は、それをみただけでは「それでも少ない」と言うかもしれません。
 でも、民間病院の大部分は200床以下の中小病院です。1病院あたりの病床数が少ない上に、急性期だけでなく、回復期・慢性期の機能も果たしているので、感染防止対策として、動線を引くのも人材を確保するのも難しい。例えば、2~3病棟のケアミックス病院が、1病棟を新型コロナ専用の病棟にして対応した場合、ゾーニングが難しく、人員的にも無理があります。
 また、受入れ可能医療機関の割合だけでなく、受入れ可能病床数を示してほしいと思います。病床数は時々刻々と変わるので、難しいのはわかりますが、民間病院の受入れ医療機関の数は、公立・公的より多いですし、東京や大阪など、特に病床が逼迫した地域では、民間病院のほうが新型コロナ患者を受け入れていることも知ってほしいのです。



関係団体が協力しコロナ患者の受入病床確保
──感染拡大による病床逼迫が伝えられる中で、四病院団体協議会・日本医師会・全国自治体病院協議会は新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議を設置し、2月3日に報告書をまとめました。
 病院団体や日医は、1月から病床が逼迫した地域における病床確保の要請を行っていますが、地域の取組みをさらに支援するため、協議会を立ち上げました。病院団体や日医は全国組織ですが、新型コロナの感染拡大に直面するのは各地域です。地域の中で関係者が調整する際に、我々が支援できることとしては、まずは情報共有があります。受入れ医療機関や患者数、病床数などを把握し、公的な支援として何があるのかを把握し、情報提供する役割です。
 人材派遣では、JMAT(日本医師会災害医療チーム)やAMAT(全日本病院協会災害時医療支援活動班)が活動します。特に、AMAT は救急車を持つ病院が参加しているので患者を移送することもできます。また、行政は、保健所を通して、受入れ医療機関の調整を行っていますが、医療機関同士がウェブ会議などで、より具体的なことに踏み込んで、調整したほうが早い場合があります。
 特に課題になったのが、後方支援の役割で、民間病院の新型コロナ患者の受入れが少ないと言われているときに、新型コロナからの回復患者を受け入れるという重要な役割が与えられる形となりました。さらに、自宅・宿泊療養している患者に、健康状態の管理を含めて、地域の医療機関がどう関わっていくかも重要課題となりました。
 そのような調整においても、都道府県単位できちんと調整ができていればよいですが、例えば県境などでは、病院団体や医師会が関係を取り持ったほうがよい場合があります。
 このような医療側の取組みに応えて、厚労省は、2月16日に「新型コロナウイルス感染症の医療提供体制の整備に向けた一層の取組の推進について」(事務連絡)を示し、地域の関係団体の協力のもと、地域の会議体を活用して医療機能に応じた役割分担を明確化した上で、病床確保を進めることなどが示されました。後方支援では、新たに診療報酬や介護報酬の特例が設けられるなど、我々と歩調を合わせた対応が図られています。

介護施設におけるクラスター発生を懸念
──新型コロナの感染拡大の状況もある程度、落ち着いてきました。
 いま心配しているのは、介護施設でクラスター発生が多いことです。それに対して、どのような医療の支援ができるか。災害医療コーディネーター、感染管理の支援を行う医療従事者などの支援チームやDMAT・DPAT を派遣することになっていますが、クラスター発生がさらに増えれば、対応できなくなってしまうでしょう。
 また、財政的な支援について、補助金の活用をより柔軟にし、どの補助金を使うことができるかも明確にしてほしいと思います。なお、「高齢者施設等における感染防御・業務継続の支援のための体制整備等について」(2月10日・事務連絡)では、人材確保に緊急包括支援交付金が活用できることが示されましたし、2021年度介護報酬改定では、感染症対策に一定の報酬の上乗せが行われることになっています。
 介護施設の中でも、特に介護老人保健施設は、一定の医療が介護報酬の中に包括されてしまっているので、クラスターになってしまった場合に、実際にかかった費用がきちんと請求できるか確認する必要があると思います。

見通しがつかない2022年度診療報酬改定
──地域医療構想の議論は、新型コロナの感染拡大でストップしていますが、着実な推進が求められます。新型コロナ対策でも医療機関の機能分化が、ポイントの一つになっています。
 厚労省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」(2月3日開催)では、再編統合の再検証を要請する公立・公的病院を抽出する作業において、人口100万人以上の構想区域の「類似かつ近接」の分析は困難との結論になりました。
 当然の話で、人口30万~ 50万人で病院の数が30施設ぐらいの構想区域であれば、顔の見える関係での議論が可能です。しかし、大都市では無理です。例えば、東京都は100万人を超える構想区域ばかりですし、人口150万人で、病院が100施設あったら、もう話し合いになりません。大都市の二次医療圏(=構想区域)は見直さざるを得ないと思います。
──2022年度診療報酬改定の議論が始まりますが、新型コロナへの対応で、様々な特例が設けられたほか、2020年度改定の経過措置の延長も続いており、異例づくめの状況です。
 新型コロナが収束して、東京オリンピック・パラリンピックも開催され、通常の状態に戻ることを願っていますが、こればかりはわかりません。2020年度改定の入院基本料や入院料の見直しは、経過措置の延長が続き、改定結果を全く検証できない状況です。コロナ特例もどうなるか。当面、9月まで算定できることになっている特例の医科外来等感染症対策実施加算や入院感染症対策実施加算の取扱いは大きな議論になるでしょう。
 そうはいっても、次期改定に向けた課題は少なくありません。オンライン診療の見直しや、不妊治療の保険適用があり、特に外来機能の明確化が重要課題となっています。将来的に、消費税の引上げが予想される中で、いわゆる控除対象外消費税についても、個別の病院単位では診療報酬による補てんにばらつきがあることは明らかであるため、今のやり方では限界があると考えています。
──ありがとうございました。

 

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全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース 2015年05月01日号

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2015/150501.pdf

    2015年5月1日 ... 病棟を7対1看護とすることを意味して. いるため、患者 ... 病棟全体で月平均1
    日当たりの看護職 ... 論調がみられたため、規制改革会議と ... 西澤研究班報告書(
    ガイドライン)等を参考に省令、通知を決定。5月連休明けにも発出か ... どの、
    最悪に近い事態が発生する可能性が高まるレベルまで国の財政が逼迫.

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