全日病ニュース

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医療法等改正案の概要

医療法等改正案の概要

【資料】

 政府は2月2日、「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。法案は、医師の働き方改革をはじめ、医師養成課程の見直し、新型コロナ感染症を踏まえた医療計画の見直し、外来機能報告制度創設など幅広い内容を含んでいる。同法案は、3月18日の衆院本会議で審議入りした。法案の概要は以下の通り。

●改正の趣旨
 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進する観点から、医師の働き方改革、各医療関係職種の専門性の活用、地域の実情に応じた医療提供体制の確保を進めるため、長時間労働の医師に対し医療機関が講ずべき健康確保措置等の整備や地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組に対する支援の強化等の措置を講ずる。

Ⅰ.医師の働き方改革:
 長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等(医療法)
⇒2024年4月1日に向け段階的に施行
〇これまでの我が国の医療は医師の長時間労働により支えられており、今後、医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想される。
〇こうした中、医師が健康に働き続けることのできる環境を整備することは、医師本人にとってはもとより、患者・国民に対して提供される医療の質・安全を確保すると同時に、持続可能な医療提供体制を維持していく上で重要である。
地域医療提供体制の改革や、各職種の専門性を活かして患者により質の高い医療を提供するタスクシフト/シェアの推進と併せて、医療機関における医師の働き方改革に取り組む必要がある。【対策】
長時間労働を生む構造的な問題への取組・医療施設の最適配置の推進(地域医療構想・外来機能の明確化)・地域間・診療科間の医師偏在の是正・国民の理解と協力に基づく適切な受診の推進
医療機関内での医師の働き方改革の推進・適切な労務管理の推進・タスクシフト/シェアの推進(業務範囲の拡大・明確化)⇒一部、法改正で対応
<行政による支援>・医療勤務環境改善支援センターを通じた支援・経営層の意識改革(講習会等)・医師への周知啓発

■時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用(2024.4~)⇒医療法改正で対応

<地域医療等の確保>・医療機関が医師の労働時間短縮計画の案を作成・評価センターが評価・都道府県知事が指定・医療機関が計画に基づく取組を実施
<医師の健康確保>・面接指導:健康状態を医師がチェック・休息時間の確保:連続勤務時間制限と勤務間インターバル規制(または代償休息)

Ⅱ.医療関係職種の業務範囲の見直し(診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法)⇒2021年10月1日施行
〇関係団体(全30団体)から「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」を実施。
〇ヒアリングで提案された業務のうち、「実施するためには法令改正が必要な業務」について、「 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」において、安全性の担保等の観点から、タスク・シフト/シェアの推進について検討。
〇下記について、法律改正により、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士へのタスク・シフト/シェアを推進することで合意。

【診療放射線技師】
〇RI検査のために、静脈路を確保し、RI検査医薬品を投与する行為、投与終了後に抜針及び止血する行為
〇医師又は歯科医師が診察した患者について、その医師又は歯科医師の指示を受け、病院又は診療所以外の場所に出張して行う超音波検査
【臨床検査技師】
〇超音波検査において、静脈路を確保して、造影剤を接続し、注入する行為、当該造影剤の投与が終了した後に抜針及び止血する行為
〇採血に伴い静脈路を確保し、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む)に接続する行為
〇静脈路を確保し、成分採血装置を接続・操作する行為、終了後に抜針及び止血する行為
【臨床工学技士】
〇手術室等で生命維持管理装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続するために静脈路を確保し、それらに接続する行為輸液ポンプやシリンジポンプを用いて薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)を投与する行為、投与終了後に抜針及び止血する行為
〇心・血管カテーテル治療において、身体に電気的負荷を与えるために、当該負荷装置を操作する行為
〇手術室で行う鏡視下手術において、体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラを保持し、術野視野を確保するために操作する行為
【救急救命士】
〇現行法上、医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置について、救急外来(※)においても実施可能とする。
 ※ 救急外来とは、救急診療を要する傷病者が来院してから入院(病棟)に移行するまで(入院しない場合は、帰宅するまで)に必要な診察・検査・処置等を提供される場のことを指す。

Ⅲ.医師養成課程の見直し(医師法、歯科医師法)①共用試験合格を医師国家試験の受験資格要件とし、②同試験に合格した医学生が臨床実習として医業を行うことができる旨を明確化。⇒①は2025年4月1日/②は2023年4月1日施行等
■医師国家試験の受験資格における共用試験合格の要件化
 大学における医学教育の中で重要な役割を果たしている共用試験について、医師国家試験の受験資格の要件として医師法上位置づけることとする。また、共用試験の合格は医学生が一定水準の技能・態度のレベルに達していることを担保するものであることから、共用試験に合格していることを臨床実習において医業を行うための要件とする。
■医学生が臨床実習において行う医業の法的位置づけの明確化
 医学生がより診療参加型の臨床実習において実践的な実習を行うことを推進し、医師の資質向上を図る観点から、「共用試験」に合格した医学生について、医師法第17条の規定にかかわらず、大学が行う臨床実習において、医師の指導監督の下、医療に関する知識及び技能を修得するために医業を行うことができることとする。

Ⅳ.新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保に関する事項の医療計画への位置付け(医療法)⇒2024年4月1日施行
<背景>
○新興感染症等の感染拡大時には、広く一般の医療提供体制にも大きな影響(一般病床の活用等)
○機動的に対策を講じられるよう、基本的な事項について、あらかじめ地域の行政・医療関係者の間で議論・準備を行う必要
<概要>
 都道府県が作成する「医療計画」の記載事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加
○詳細(発生時期、感染力等)の予測が困難な中、速やかに対応できるよう予め準備を進めておく点が、災害医療と類似⇒いわゆる「5事業(※)」に追加して「6事業」に
 ※ 5事業:救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む)
○今後、厚生労働省において、計画の記載内容(施策・取組や数値目標など)について詳細な検討を行い、「基本方針」(大臣告示)や「医療計画作成指針」(局長通知)等の見直しを行った上で、各都道府県で計画策定作業を実施⇒第8次医療計画(2024年度~ 2029年度)から追加

Ⅴ.地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組の支援(地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律)⇒2021年4月1日施行
〇2020年度に創設した「病床機能再編支援事業」を地域医療介護総合確保基金に位置付け、当該事業については国が全額を負担することとするほか、再編を行う医療機関に対する税制優遇措置を講じる。
<背景>
○地域医療構想の実現に向けて積極的に取り組む医療機関に対し、病床機能や医療機関の再編を行う際の課題(雇用、債務承継、初期投資など)に対応するための支援が必要
<概要>(1)病床機能再編支援事業を全額国費の事業として地域医療介護総合確保基金へ位置付け
○2020年度限りとして措置された「病床機能再編支援事業(※)」について、消費税財源を活用した地域医療介護総合確保基金の中に位置付け、全額国負担の事業として、2021年度以降も実施
 ※ 地域医療構想調整会議等の合意を踏まえて、病床機能を再編し、自主的な病床削減や病院統合を行う医療機関に対し、財政支援を実施(2)再編計画の認定(税制上の優遇)
○複数医療機関の再編・統合に関する計画(再編計画)について、厚生労働大臣が認定する制度を創設○認定を受けた再編計画に基づき取得した不動産に関し、登録免許税を優遇(租税特別措置法により措置)

Ⅵ.外来医療の機能の明確化・連携(医療法)⇒2022年4月1日施行
〇医療機関に対し、医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める外来機能報告制度の創設等を行う。
<外来医療の課題>
○患者の医療機関の選択に当たり、外来機能の情報が十分得られず、また、患者にいわゆる大病院志向がある中、一部の医療機関に外来患者が集中し、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題が生じている。
○人口減少や高齢化、外来医療の高度化等が進む中、かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進めていく必要。
<改革の方向性>
○地域の医療機関の外来機能の明確化・連携に向けて、データに基づく議論を地域で進めるため、①医療機関が都道府県に外来医療の実施状況を報告する。②①の外来機能報告を踏まえ、「地域の協議の場」において、外来機能の明確化・連携に向けて必要な協議を行う。⇒①・②において、協議促進や患者の分かりやすさの観点から、「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関(紹介患者への外来を基本とする医療機関)を明確化
〇医療機関が外来機能報告の中で報告し、国の示す基準を参考にして、地域の協議の場で確認することにより決定⇒患者の流れがより円滑になることで、病院の外来患者の待ち時間の短縮や勤務医の外来負担の軽減、医師の働き方改革に寄与

Ⅶ.その他 持ち分の定めのない医療法人への移行計画認定制度の延長 ⇒公布日施行
〇移行計画認定制度の期限を2023年9月30日までとする。

 

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