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ホーム全日病ニュース(2021年)第983回/2021年4月1日号介護報酬改定で感染症対策や科学的介護を推進する

介護報酬改定で感染症対策や科学的介護を推進する

介護報酬改定で感染症対策や科学的介護を推進する

【全日病・介護報酬改定等説明会】改定財源はすべて基本報酬に充てる

 全日病は2021年度介護報酬改定の説明会をオンライン開催した。厚生労働省老健局の眞鍋馨・老人保健課長の講演が3月8日~ 15日に映像配信された。眞鍋課長は、新型コロナの感染拡大を含めた2021年度介護報酬改定の背景とともに、主要事項の解説を行った。以下では、施設系サービスの見直しを中心に、その要旨をまとめた。

〇経営実態調査の結果から
 介護報酬改定の議論の前に、介護事業経営実態調査を実施した。2020年度調査では、2019年度決算の対前年度比が老人保健施設で▲1.2%であるなど、厳しい結果が示された。影響を分析すると、人件費増の要因が大きかった。
 この状況も踏まえ、今回改定では、若干の濃淡をつけながら、プラス0.70%分の財源をすべて基本報酬に充てた。このうち、0.05%分は新型コロナに対応するための特例的な評価である。2021年9月末までの間、すべての基本報酬に0.1%分の上乗せを行う。
 新型コロナの影響は、2020年4月・5月で「通所介護」、「通所リハビリテーション」、「短期入所生活介護」、「短期入所療養介護(老健)」の保険給付額や利用者数の減少に大きく出ており、手当てが必要ということになった。収入減だけでなく、支出増もある。支出増については、主に補正予算で対応した。
 2021年度改定では5本の柱を設けた。①感染症や災害への対応力強化②地域包括ケアシステムの推進③自立支援・重度化防止の取組の推進④介護人材の確保・介護現場の革新⑤制度の安定性・持続可能性の確保である。「感染症や災害への対応力強化」以外は、前回改定と同様となっている。人口構造の変化など、変わらない課題に対し、連続性のある対応を行うことが重要である。

〇感染症や災害への対応力強化
 介護サービスは、利用者やその家族の生活を継続する上で欠かせない。感染症や災害が発生しても、サービスが安定的・継続的に提供される必要がある。介護報酬や運営基準等、予算事業による対応を適切に組み合わせ、総合的に取組み、対応することが重要だ。
 感染症対策の強化では、現行の委員会の開催、指針の整備、研修の実施等に加え、訓練(シミュレーション)の実施等を義務化する。業務改善の取組みの強化では、業務改善に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練の実施等を義務化する。どちらも3年の経過措置を設ける。4月中に留意事項通知で示すが、小規模事業所を支援するため、法人全体で実施すればよいとの取扱いを考えている。
 通所リハビリ等の報酬について、感染症や災害の影響により利用者数が減少した場合の特例措置を設ける。「同一規模区分内で減少した場合の加算」では、利用者減の月の実績が、前年度の平均延べ利用者数等から5%以上減少している場合に、基本報酬の3%の加算を算定可能とする。「規模区分の変更の特例」では、前年度の平均延べ利用者数ではなく、利用者減の月の実績を基礎とした規模区分を算定可能とする。なお、5%以上の利用者減に対する新型コロナの特例は、年度当初から新たな仕組みが適用される。

〇地域包括ケアシステムの推進
 2019年6月に認知症施策推進大綱が閣議決定され、「共生」と「予防」を車の両輪とする施策が進められている。
 今回改定では、介護に関わるすべての者の認知症対応力を向上させるため、介護に直接携わる職員が認知症介護基礎研修を受講するための措置を義務化する。3年の経過措置を設ける。各種研修については、eラーニングの活用等により受講しやすい環境整備を行う。
 看取りへの対応では、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組みを老健施設では努力義務とし、看取り介護加算では要件化する。看取り介護加算では、死亡日45日以前の対応を評価する新区分を設ける。これまでは死亡日30日以前を評価していた。
 医療と介護の連携では、医師等が居宅療養管理指導を行う際、居宅介護者の社会生活に目を向け、地域での様々な支援につながる情報を介護支援専門員等に提供することを努力義務とした。
 老健施設に対して、短期療養の総合的な医学管理を評価する総合医学管理加算(275単位/日)を新設した。1回の入所で7日まで。在宅復帰・在宅療養支援という老健施設の機能に則り、呼吸が苦しいといった場合に、入院せず、短期入所することを評価する。
 老健施設の介護報酬の見直しではほかに、所定疾患施設療養費やかかりつけ医連携薬剤調整加算の見直しがある。所定疾患施設療養費では、算定要件で、検査の実施を明確化するとともに、算定日数を延長する。対象疾患に「蜂窩織炎」を追加する。かかりつけ医連携薬剤調整加算では、入所時・退所時での、かかりつけ医との連携やCHASEの活用、減薬に至った場合をそれぞれ区分し、新たな加算を新設する。
 介護医療院には、療養病床に1年間以上入院していた患者を受け入れる場合に算定できる長期療養生活移行加算(60単位/日)を新設する。入所日から90日間算定できる。介護療養型医療施設から転換した場合の1年以上の入院患者にも、算定することができる。
 介護療養型医療施設に対しては、2023年度末の廃止期限までの円滑な移行に向け、検討状況の報告がない場合の移行計画未提出減算(10%/日減算)を新設する。意思決定に関しては、早く行ってほしいとの趣旨だ。
 医療と関わるケアマネジメントでは、利用者が医療機関で診察を受ける際、介護支援専門員が同席し、医師等と情報連携し、それを踏まえてケアマネジメントを行うことを新たに評価する(通院時情報連携加算50単位/日)。

〇自立支援・重度化防止の取組の推進
 今回、この項目を大きく見直した。ポイントは大きく3つ。「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の連携・強化」、「介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進」、「寝たきり防止等、重度化防止の取組の推進」。科学に裏付けられた質の高いサービスを提供するのが目的である。
 リハビリ、栄養、口腔の取組みは一体的な運用により、効果的な自立支援・重度化予防につなげられる。例えば、口から食べるには嚥下訓練、座位を保つにはリハビリが必要で、それを長く維持するには、栄養を摂取し筋肉をつけないといけないといった具合である。管理栄養士の腕の見せ所でもある。
 具体的には、加算等の算定要件である計画作成や会議は、リハ専門職、管理栄養士、歯科衛生士が必要に応じて参加することを明確化する。口腔衛生管理体制加算を廃止し、基本サービスとして、口腔衛生の管理体制を整備する。栄養マネジメント加算は廃止し、状態に応じた栄養管理の計画的な実施を求める。これらには3年の経過措置を設けた。また、入所者全員への丁寧な栄養ケアの実施や体制強化等を評価する加算を新設し、低栄養リスク改善加算は廃止する。
 介護に関連する様々な情報を収集する体制が整いつつある。介護関連データの中で、通所・訪問リハビリ情報をVISIT、高齢者の状態やケアの内容等情報をCHASE という。2020年度からC H A S E ・VISITを一体的に運用するにあたり、科学的介護情報システム(LIFE)との総称を用いる。
 これに伴って新設する科学的介護推進体制加算などの加算は、単にデータを提出することに対する評価ではない。計画を作成し(PLAN)、計画に基くケアを実施し(DO)、利用者の状態、ケアの実績等を評価・記録・入力(CHECK)し、フィードバック情報により計画書を改善する(ACTION)というPDCAサイクルを回すことが重要になる。

〇介護人材の確保・介護現場の革新
 介護職員に対する処遇改善は、これまでの実績を合計すると、月額75,000円となる。2018年度改定では新たな経済政策パッケージに基づき、経験・技能のある職員に重点化した特定処遇改善加算を導入した。特定処遇改善加算は、制度の趣旨は維持しつつ、平均の賃金改善額の配分ルールを各事業所の賃金体系にも合うよう、柔軟化した。
 人員配置基準における両立支援への配慮では、複数の非常勤職員を常勤換算することや、週30時間以上勤務を常勤として認める。ハラスメント対策はすべての介護事業者に求める。介護現場は、若い人が多く両立支援が助けになる。ハラスメントに関しては、介護従事者が利用者から受けるハラスメントに対応する必要がある。

〇制度の安定性・持続可能性の確保
 介護療養型医療施設は、2023年度末の廃止期限までに介護医療院への移行等を進めるため、基本報酬を引き下げる。介護医療院の移行定着支援加算は、予定通り廃止する。介護職員処遇改善加算は上位区分の算定が進んでいることから、加算(Ⅳ)、加算(Ⅴ)を廃止する。介護予防サービスにおける介護予防訪問リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーションは、1年超の長期利用の評価を引き下げる。

 

全日病ニュース2021年4月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 第1章 2025年の日本を想定した報告書:「病院のあり方に関する ...

    https://www.ajha.or.jp/voice/arikata/2016/01.html

    我々が過去に報告書で示してきたあるべき医療提供体制の構築は、内容に濃淡
    あるもののある程度実現したとの認識のもとに、本報告書では2025 年に想定され
    る人口減少と高齢社会の進展、疾病構造の変化という確定的な社会構造変化を ...

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2010年10月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2010/101015.pdf

    置は税収や歳出に見合う財源を確保す. ることが前提とされる。 ... 施設は
    サービスの濃淡でり類型化されるべきだが、老健の入所期. 間長期化は、地域の
    受皿整備が ... て時間をかけて考えるべき. □「議論の整理」(医療関連項目を
    抜粋=要旨).

  • [3] 病院のあり方に関する報告書 (2015-2016年版)

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2015_2016_arikata.pdf

    療提供体制の構築は、内容に濃淡はあるものの. ある程度実現した ... 財源の問題.
    2011 年に、国の医療・介護に係る長期推計(主. にサービス提供体制改革に係る
    改革について). による需給と財源 ... その要旨は下記に示す。 急性期医療を担う
     ...

  • [4] 2009年8月15日号

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2009/090815.pdf

    策の有無やその濃淡も考慮に入れつ. つ、各施策の重要性と取り組み ... 勢と財源
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