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ホーム全日病ニュース(2021年)第986回/2021年5月15日号猪口会長が医療法等改正案の参考人質疑に出席

猪口会長が医療法等改正案の参考人質疑に出席

猪口会長が医療法等改正案の参考人質疑に出席

【参議院厚労委】医師の働き方改革などへの見解示す

 参議院の厚生労働委員会で4月27日、医療法等改正案に関する参考人質疑が行われ、猪口雄二会長が出席した。医療法等改正案には、地域の医療提供体制に影響する様々な事項が盛り込まれており、猪口会長はそれぞれについて、意見を述べた。国会審議では特に、医師の働き方改革が与野党で賛否が分かれる争点となっており、見解を求められた。
 猪口会長は、医師の働き方改革に関し、医師の労働時間短縮と健康確保の取組みは重要としつつ、「地域医療とのバランスをみながら改革しなければならない」と強調。大学病院などが地域の病院から医師を引き揚げてしまうことのないような対応が不可欠とした。また、新型コロナにより混乱している医療現場が、改革に取り組める状況であるかを注視していくべきと主張した。
 宿日直制度については、労働基準監督署の弾力的・謙抑的な運用と医療機関への支援を求めた。
 医師の働き方改革との関連性が強い医療関係職種の業務範囲については、救急救命士が病院前だけでなく、救急外来でも救急救命処置ができるようになるなど、複数の職種の業務範囲が拡大される。猪口会長は、「医療安全の観点から、充実した教育・研修体制が必須」と指摘した。法令による業務拡大だけでなく、すでに認められている業務であるにもかかわらず、現場での活用が進まない業務への支援も求めた。

紹介患者中心病院は手上げを基本に
 立憲民主党など野党は、医師の時間外労働の基準の妥当性に疑問を呈しているが、地域医療構想を推進するための病床機能再編支援事業にも反対している。新型コロナで病床が逼迫している状況で、病床削減に補助金を出す制度だからだ。猪口会長は、病院の再編統合が一部の利益を代表する当事者だけで決まってしまう事例があることを踏まえ、「地域の関係者間の十分な協議と合意に基づいて行われることが、実際の運用でも担保されることを求める」と述べた。
 新型コロナの感染拡大を踏まえ、都道府県の医療計画に「新興・再興感染症対策」を加えることに対しては、賛同を表明した。あわせて、「感染症への対応と通常の医療が両立し得る医療提供体制を整備していくことが必要」と述べるとともに、政府による支援が必要とした。
 外来医療機能の明確化・連携については、病院の外来機能を報告する制度を作り、そのデータに基づき、都道府県が「医療資源を重点的に活用する外来」を担う病院を地域で位置づける。その病院は紹介状なし受診での患者への定額負担が義務化される方向だ。このため、猪口会長は、「各医療機関の自主的な手上げ方式が基本であるべき」と強調。また、「同一病院でも診療科により高度医療を提供する頻度は大きく異なることを十分に勘案する」ことを求めた。
 持ち分の定めのない医療法人への移行計画認定制度の延長については、制度施行後の速やかな認定を要請した。
 総論としては、今回のような大規模な制度改正は、想定外の問題が生じやすいことや、硬直的な対応を図れば、現場に不安や混乱を招きかねないとして、「施行に際しては、政省令・告示、関係通知等により、具体的な制度設計を含め、地域の実情に応じ、柔軟に運用されること」が必要とした。また、国や地方自治体が、「地域の不安惹起や混乱の発生を防ぐために、現場に対して丁寧かつ詳細な説明を行う」ことを求めた。
 さらに、制度改正による制度改革を確実に進めていくため、「様々な財政支援が不可欠」と強調した。
 最後に、「各地の医療機関、特に病院は、公か民か、あるいは施設の大小や機能にかかわらず、新型コロナへの対応に大変な尽力をしている。今回の制度改正は、そうした現場の苦労に報い、支えとなるものでなければならない」と述べた。

新型コロナの対応含め与野党の議員が猪口会長に質問
 参考人の意見陳述を受けて、質疑が行われ、与野党の議員から、猪口会長に様々な質問があった。
 自民党の島村大議員は、日本の医療制度が世界的に評価されているにもかかわらず、診療報酬が不十分で医療機関の経営基盤が強くない状況でありながら、今後、少子化・高齢化が進展し、厳しい財政事情にもある中で、日本の医療制度がどうあるべきかを質問した。
 これに対し猪口会長は、医療費の財源論では、「消費税が論点になる」と述べた。今後の医療提供体制については、人口構造の変化などを踏まえ、「機能分化は進まざるを得ない。診療所・中小病院はかかりつけ医機能を持ち、日常の健康・生活を守る。高度急性期はある程度、集約化させる。それが地域医療構想の目標であり、引いては医師の過重労働の是正にもつながる」との考えを示した。ただ、「実現には時間がかかる」と述べた。
 立憲民主党の田島麻衣子議員は、地域医療構想を実現させるために、厚生労働省が公立・公的病院の再編統合の検証を要請する440病院のリストを公表し、新型コロナの感染拡大を踏まえても、方針を変更しないことへの見解を求めた。猪口会長は、厚労省の地域医療構想に関するワーキンググループの議論を踏まえ、現状では公立・公的病院への再編統合の再検証の期限は凍結されていると指摘するとともに、440病院については、急性期医療の診療実績が特に少ない、あるいは類似の機能を持つ病院が近接しているとの判断基準に該当した病院であり、具体的な対応は、地域医療構想調整会議で決められるべきものであると説明した。
 また、この場合の公的病院には、民間の地域医療支援病院が含まれており、データ分析によって新型コロナに対応している公的病院の数が減り、民間病院が増えることに注意を促した。
 公明党の矢倉克夫議員は、新型コロナへの対応で、医療従事者を集めることが困難な状況を踏まえ、医療界の対応を質問した。猪口会長は、日本医師会・四病院団体協議会・全国自治体病院協議会として、受入病床確保対策会議を設置し、そこで、医療従事者の派遣の支援を行っていることを報告した。
 猪口会長は、地域の実情に応じて活動する地域医師会や病院団体支部の役割を強調。「例えば、コロナ対応の病院が医師をかき集め、一般医療が手薄になった場合はそこに医師を派遣する。あるいはクラスターが発生した高齢者施設で、感染者全員を入院させることは難しく、そこで医療を提供できる体制を整える必要がある。そのための感染症専門チームの派遣を支援するといった対応がある」と述べた。
 また、中小病院が新型コロナの急性期後の患者を受け入れる後方支援機能の役割の重要性を強調した。
 日本維新の会の梅村聡議員は、医師不足問題を取り上げた。猪口会長は、「現場の感覚では、都会であっても医師の過剰感はない。また、地方の診療所で後継ぎがおらず、廃業する診療所が増えている話を聞く。様々な理由で医師不足が起きている。医師不足問題に対しては、総合的な診療を行うことのできる医師を増やすことが一つの解決策になる。日本専門医機構の総合診療専門医は少ないが、既卒の医師であっても、一定の研修を受ければ、総合医として活躍できる」と述べた。
 国民民主党の足立信也議員は、AI・ICTなどを医療に積極的に取り入れることで、医師不足が一定程度解決できるのではないかと質問した。猪口会長は、「AIに関しては、画像診断の補助としての活用が広がると思うが、最終的には医師が判断するので、根本的な医師不足の解決策にはならないと思う」との見解を示した。
 共産党の倉林明子議員は、新型コロナの影響による病院の経営状況を質問した。猪口会長は、全日病、日本病院会、日本医療法人協会の3団体で影響を四半期ごとに調査しており、病院の経営が悪化している状況を説明した。「昨年の4~6月が特に悪かった。その後、回復の兆しをみせたが、新型コロナ以前の状況には戻っていない」と述べた。政府による新型コロナ緊急包括支援交付金が経営維持に効果があるとしたが、クラスターが発生した病院などへの支援は不十分と指摘した。

女性医師や大学病院の立場で発言
 参考人には、猪口会長のほか、上家和子氏(元大阪府健康医療部長)、福井淳氏(全日本自治団体労働組合衛生医療局長)、中原のり子氏(全国過労死を考える家族の会会員・医師の働き方を考える会共同代表)、山本修一氏(地域医療機能推進機構理事・全国医学部長病院長会議臨床系教員の働き方改革WG座長)が出席し、意見を述べた。
 上家氏は、女性医師の働き方について発言。医学生の4割が女性である中で、子育てしながら働けるという条件で女性医師が診療科を選んでしまうことによる医師偏在の問題を指摘した。特に、整形外科・脳神経外科・泌尿器科などは主治医制の慣例が強く、診療における適性とは違う理由で診療科偏在が生じることへの懸念を示した。
 福井氏は、放射線技師などの業務範囲が拡大し、タスクシェアが行われることに期待を示す一方で、本来業務が減らなければ、時間外労働が増えることになるため、全体のマネジメントが重要と指摘した。
 中原氏は、民間病院勤務医だった夫を過労死自殺で亡くした。問題の本質に医師不足があり、「医師の時間外労働の特例水準の基準が過労死ラインの2倍であるのはおかしい」と訴えた。
 山本氏は、大学病院の立場で発言。「大学病院に勤務する医師は、臨床だけでなく教育・研究の役割も担い、それらはモザイク状に組み合わさっていて、分けるのが困難」と述べ、特殊性を踏まえた働き方改革の支援を求めた。

 

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  • [4] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年5月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170501.pdf

    2020年5月1日 ... 問診療料は1人の患者に対し、1人の. 医療機関の医師に限り算定できるが、. 1
    人の医師で24時間の対応は困難だ。 このため診療側は、複数の医療機関が ... は
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  • [5] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年10月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/171001.pdf

    2017年10月1日 ... 診療報酬本体財源の確保を政府・与党に訴える. 特別講演. 特別講演 ... お手本など
    もあるので、参考にされる. とよい。今の段階 ... 人口28万人を切り、高齢化率35.
    %の庄内地方で、 ... があり、質疑が行われた。 ○平成29年度 ...

  • [6] 全日病ニュース・紙面PDF(2018年10月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2018/181001.pdf

    2018年10月1日 ... ③人(患者):AIの分析結果をもとに、. フィードバックして ... 需要は2025年に
    約100万人、いわゆる. 「追加的需要」で約30万 ... NDBでの運用が参考になる。
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