全日病ニュース

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改正医療法が参議院で可決・成立

改正医療法が参議院で可決・成立

【国会】医師の働き方改革などで21項目の附帯決議

 改正医療法が5月21日の参議院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立した。前日の厚生労働委員会では、立憲民主党の田島麻衣子委員と日本共産党の倉林明子委員による反対討論後の採決で、与党などの賛成多数で可決されている。その際に、医師の働き方改革を実施する上での配慮を中心に、21項目の附帯決議がついた。医療提供体制に関わる多岐にわたる法改正事項が盛り込まれた同法案が成立し、今後、政府は各施策の施行に向け、厚生労働省の検討会などで、具体的な運用に向けた議論に入る。
 5月13日の与野党の協議では、同日の委員会質疑後に採決を行うことが合意されていたが、三原じゅん子・厚労副大臣が午後の厚労委を30分程度不在にしたことに野党が反発。立憲民主党の委員らが退席したため、厚労委は休憩となり、調整が続けられたが流会となった。5月20日に審議が再開されたが、当初見込みより成立が1週間遅れた。
 改正医療法の中身は大きく4項目ある。まず、医師の働き方改革への対応であり、2024年度からの医師の時間外労働の上限規制の適用に向け、地域医療の確保や集中的な研修実施の観点から、やむを得ず、高い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度を創設する。あわせて、高い上限時間で勤務する医師に対する健康確保措置(面接指導、連続勤務時間制限、勤務間インターバル規制等)の実施を医療機関に義務づける(2024年度に向け段階的に施行)。
 各医療関係職種の専門性の活用も医師の働き方改革に関連する。医師の負担軽減を主な目的とし、タスクシフト・シェアを推進するために、各職種の業務範囲の拡大を行うためだ。法改正事項としては、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士が対象となる(2021年10月施行)。
 医師養成課程の見直しでは、共用試験合格を医師国家試験の受験資格要件とし(2025年度から)、同試験に合格した医学生が臨床実習として医業を行うことができる旨を明確化する(2023年度から)。臨床を重視した医学教育に転換することで、現場で活躍する医師がより早く養成されることが期待される。
 地域の実情に応じた医療提供体制の確保では、①新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保に関する事項の医療計画への位置づけ(2024年度施行)②地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組みの推進(2021年度施行)③外来医療の機能の明確化・連携(2022年度施行)─がある。医療計画の見直しは、新型コロナの感染拡大により対策を考える必要が生じたものだが、逆に、地域医療構想の推進については、新型コロナにより慎重な対応が迫られる状況となっている。
 最後に、持ち分の定めのない医療法人への移行計画認定制度を延長する取扱いがある(交付日施行)。医療法人の非営利性を徹底するため、持ち分の定めのない医療法人に移行する場合の障害となっている相続税・贈与税の支払いを猶予する制度を延長するものだ。

立憲民主党や共産党が法案に反対
 これらのうち、医師の働き方改革の時間外労働の上限や、地域医療構想を推進するために、病床削減を補助金で支援する制度に対し、野党から反対があった。
 地域医療構想に関しては、その推進のため、2020年度に創設した「病床機能再編支援制度」を地域医療総合確保基金に位置づけ、同事業について国が全額を負担するとともに、再編統合を行う医療機関に対し税制優遇措置を実施するとしている。「病床機能再編支援制度」では、病床削減と病院統合を補助金で支援する。昨年度から実施されているが、安定財源とするため、消費税を財源とすることを明確化させることになった。
 参院厚労委での反対討論で、共産の倉林委員は、「新型コロナの感染拡大で、医療が逼迫し、日本の医療提供体制が脆弱であることが明らかとなった。病床確保が課題になっている中で、病床削減を推進する政策を法定化することは認められない」と訴えた。立憲の田島委員も、「地域医療構想の進め方は、新型コロナの感染拡大前に決められたことであり、その時からも問題点が指摘されてきた。ここは一度立ち止まるべきで、医療機関の再編統合を先行させることには反対だ」と述べた。
 医師の働き方改革では、一般の医師よりも高い時間外休日労働の上限を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度を創設する。地域医療の確保の観点では、「特定地域医療提供機関」と「連携型特定地域医療提供機関」があり、年間1,860時間までの時間外労働で勤務する働き方を認める。集中的な研修実施の観点では、「技能向上集中研修機関」があり、同様に年間1,860時間までの時間外労働で勤務する働き方が認められる。
 共産の倉林委員は、「特例水準は過労死ラインの時間外労働の2倍の水準。現状の異常な働き方を合法化するもので、容認できない。対象医師には追加的健康確保措置が実施されるというが、時間外労働時間を客観的に把握する仕組みとなっていない。医師の過重労働は医師の絶対的不足が原因だ」と反対した。立憲の田島委員は、「女性医師の働き方が考慮に入っていない。制度上取得が認められている育児休業なども実際は取りにくい状況が放置されている。女性医師をはじめ子育て世代が仕事と子育てなどを両立できる環境を整えるべき」と強調した。
 このような反対意見も踏まえ、参院厚労委では21項目の附帯意見がつけられることになった。21項目中15項目が医師の働き方改革関連であり、与党からも医師の働き方改革に関しては、懸念があることが窺われた(2頁参照)。

病床には余裕が必要との指摘も
 5月20日の採決前の質疑では、国民民主党の足立信也委員と共産の倉林委員が登壇した。足立委員は、今回の医療提供体制の見直しの法案の内容が、「利害関係者の意見を調整し、長い検討を経て練り上げられたものであることは評価する」としつつ、「病床機能再編支援制度」で消費税財源を用いることに違和感があると指摘した。社会保障・税一体改革においては、社会保障の充実のために消費税を引き上げた経緯があるためだ。
 足立委員は、「病床稼働率をぎりぎりまで上げないと採算が合わない構造がおかしい。救急医療など緊急時や今回の新型コロナの感染拡大でも、余裕を持たせて対応することが不可欠であることが明らかとなった。やはり地域医療構想を改めてチェックし直す必要があるのではないか」と尋ねた。
 これに対し田村憲久厚労大臣は、「平時と有事の医療提供体制のバランスが大事だ。今回、有事が来て、再編統合の再検証の要請は止め、医療計画も見直す。一方で、ベッドに余裕があっても、人材を確保できないと対応できない。平時に余剰を持ちすぎると経営が厳しくなる。限られた資源を有効に活用するため、医療機能の分化・連携を進め、適切な配分や配置を行うことが求められる」と述べた。

 

全日病ニュース2021年6月1日号 HTML版

 

 

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