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ホーム全日病ニュース(2021年)第987回/2021年6月1日号看取り推進のための指針・マニュアルのモデルを作成

看取り推進のための指針・マニュアルのモデルを作成

看取り推進のための指針・マニュアルのモデルを作成

【高齢者医療介護委員会】高齢者住宅における看取りの実態を調査

 高齢者のターミナル期のケアに関する調査研究報告書が、高齢者医療介護委員会でこのほどまとまった。有料老人ホームやサ高住などの高齢者向け住宅における看取りの対応について実態把握を行うとともに、質の確保に資する指針・マニュアルのモデルを作成した。本人の意思を尊重した看取りを行い、看取り加算を算定することは特定施設の経営にとっても重要と強調している。調査研究は、2020年度老人保健健康増進等事業で行われた。

高齢者住宅は「終の棲家」の一つ
 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの高齢者向け住まい(高齢者住宅)の増加が著しい。国民の多くが住み慣れた自宅で最期を迎えることを希望する中で、こうした高齢者住宅も「終の棲家」の選択肢の一つとなっている。
 しかし、有料老人ホームやサ高住などの高齢者住宅は、特定施設の指定を受けていない場合、看護職員の配置が施設要件とされていない一方で、医療機関、訪問看護ステーション等との連携が認められる範囲が広い。介護職員は、研修を受けた場合のみ痰の吸引等の一部の医療行為を行うことができる。
 限られた医療資源の中で、看取りの場の確保が課題となりつつある。本事業は、増加する高齢者住宅の「終の棲家」としての看取りの対応について実態把握を行うとともに今後の取組みの推進を図ることを目的として実施した。
 調査では、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、特定施設入居者生活介護の指定を受けている有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅、特定施設入居者生活介護の指定を受けていない有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に対し、郵送によるアンケート調査を実施した。
 調査対象は、①サービス付き高齢者向け住宅(特定施設)491 施設②サービス付き高齢者向け住宅(非特定施設)1,200 施設③有料老人ホーム(特定施設)1,200 施設④有料老人ホーム(非特定施設)1,200 施設で、合計5,291 施設。施設・住宅票の回収率は19.8%だった。
 また、アンケート調査結果から看取りにおいて先進的・特徴的な取組みを行っている有料老人ホーム、サ高住を対象としてヒアリング調査を行った。
 調査では、高齢者住宅における看取りに関する指針やマニュアルの質を担保するため、看取りの指針やマニュアルを収集し、医学的な見地を踏まえて必要な項目等を整理。アンケートやヒアリング調査で得られた知見をもとに、高齢者住宅で看取りを行う際に参照できる看取りの指針・マニュアルのモデルを作成した。
 特定施設が介護報酬の看取り加算を取得するには、看取り指針の作成に加え、入居時に本人、家族等に対して指針に基づいた内容の説明を行い、理解と同意を得る必要があるが、指針を作成していない特定施設が少なくない。指針の作成の必要性は感じているが、1か所のみで運営している特定施設等では指針を作成することが難しい。報告書は、本調査で作成したモデルを参考に指針を作成し、本人の意思を尊重した看取りを行うことが望まれるとしている。

看取りのための体制づくりを提言
 報告書は、「看取りへの対応」は高齢者住宅の課題であり、地域の在宅医療体制の整備とあわせて喫緊の課題であると指摘。高齢者住宅では、予め看取りの指針を策定し、入居時に本人、家族等に説明し、理解と同意を得ておくことが重要と指摘している。高齢者住宅は疾病の積極的な治療を行う場ではなく、自然で穏やかな死を望む場合、家族等、職員、医療機関・訪問看護ステーション等と連携しながらの看取りになることを説明し、理解と同意を得ておくことが、本人、家族等の意思を尊重することにつながるとし、入居後も心身状態の変化等に応じ、繰り返し本人の意思、家族等の希望を確認することを提言した。
 また、看取り期においては、容態観察、急変時対応(家族等・訪問看護ステーション・主治医・医療機関等への連絡、救急搬送を行うか否かの判断を含む)、家族等の支援、臨終時の対応など、通常時には無い対応が求められることから、高齢者住宅内外の体制づくり、職員の研修・教育、ルールの取り決めと具体的な運用などを徹底しておくことが重要と強調している。
 主な調査結果は次の通り。
 ①提供できる医療の内容は施設類型によって異なり、医療職の配置が必須となっている特養・特定施設において、医療処置等を提供可能と回答した割合が高い傾向にあった。非特定のサ高住・有料老人ホームでは、全体的に非特定の有料老人ホームの方が医療提供を行える割合が高かった。また、レスピレータ(人工呼吸器)の管理や気管切開の管理など、対応が難しい項目では、特養・特定施設に比べて非特定(サ高住・有老)の方が提供できる割合が高く、その要因として外部機関との連携が考えられる。
 ②施設・高齢者住宅で看取りを行った人数は、特養が平均7.26人で最も多く、次いで特定施設が3.34人だった。特定施設入居者生活介護の指定を受けていない高齢者住宅で看取りを行った人数は、サ高住が1.28人、有料老人ホームが1.79人で、有料老人ホームの方が多かった。特養以外の施設・高齢者住宅について、協力医療機関や連携している訪問看護ステーションが同一法人・系列法人か、併設・隣接か否かで、看取った人数の比較を行ったところ、概ね同一法人・系列法人、併設・隣接の医療機関、訪問看護ステーションがある方が看取った人数が多い傾向があった。
 ③施設・高齢者住宅において、新型コロナウイルス感染症による看取りへの影響があったと回答した施設のうち、影響の詳細をみると、総計では「看取り期にある入居者の面会の機会を確保することが難しくなった」と回答した割合が高く、66.9%だった。

 

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  • [1] 令和2年度 老人保健事業推進費等補助金「高齢者のターミナル期の ...

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/other/210413_3.pdf

    2021年2月19日 ... モデルを参考に指針を作成し、本人の意思を尊重した看取りを行い、看取り加算
    の算定を行うことは特定. 施設の経営にとっても ... の過ごし方(家族等の宿泊や
    最期の立会い、手を握る、話をする)をかなえることが難しくなった」と回答し.
    た割合は施設類型 ... 者の割合は特養・特定施設で高く、それぞれ 87.3%、84.6%
    であった(非特定(サ高住)56.8%、非特. 定(有老)66.1%)。

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