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ホーム全日病ニュース(2021年)第993回/2021年9月1日号2022年度診療報酬改定の基本方針策定の議論を開始

2022年度診療報酬改定の基本方針策定の議論を開始

2022年度診療報酬改定の基本方針策定の議論を開始

【社保審・医療部会】「要介護の患者対応を急性期医療で評価すべき」神野副会長

 社会保障審議会・医療部会(永井良三部会長)は8月5日、2022年度診療報酬改定の基本方針策定に向けた議論を開始した。診療報酬改定は、内閣が決定する改定率を前提に、各項目への配分を中央社会保険医療協議会が議論するが、その基本方針は、社会保障審議会の医療部会と医療保険部会が策定することになっている。例年だと、秋に入ってからの議論になるが、今回は8月上旬での開始となった。
 全日病副会長の神野正博委員は、まず医療部会での基本方針策定の議論が8月上旬に始まったことを評価した。すでに中医協での2022年度改定に向けた第1ラウンドの議論は始まっている。基本方針が決まる前に、中身の議論が始まっていることの不整合があり、それは変わっていないが、少なくとも議論の開始が早まり、医療部会での議論が意味を持つことになり得るからだ。
 基本方針策定に向けては3点を指摘した。1点目では、「新型コロナの感染拡大を踏まえ、有事と平時の診療報酬のあり方を考える必要が出てきた。今は有事で、補助金を大いに絡めることが大事になる。診療報酬と補助金の切り分けをどうするかをきちんと整理すべきだ」と述べた。2点目では、「診療報酬改定は、入院と外来がモメンタムとなり、動いてきた。しかし、コロナ禍でもそうだが、訪問診療や往診が増えている。医療費の中で在宅医療の比率が上昇することでもあり、在宅医療をどう位置付けるかを改めて考えないといけない」と述べた。
 3点目では、急性期入院医療の「重症度、医療・看護必要度」について提案した。2020年度改定では、同指標の判定基準のうち、「B14またはB15に該当、かつ、A得点1点以上かつB得点3点以上」の基準が削除された。B14は「診療・療養上の指示が通じる」、B15は「危険行動」で、認知症やせん妄のある患者への対応が想定されている。神野委員は、「認知症やせん妄の患者への対応に対する評価が前回改定で低くなった。それが国民の意思で、政府の方針ならそれでよいが、そうでないならば、人生100年時代だからこそ、そのような看護師のケアを評価すべきではないか。具体的には、介護度が高い患者の急性期医療をどう評価するかといったことが課題になる」と提案した。
 新型コロナの感染拡大を踏まえ、「有事」と「平時」に診療報酬がどう対応するかについては、他の委員からも「整理が必要」との意見が相次いだ。特に、現状で講じられている様々な診療報酬の特例について、新型コロナの収束後、どのように解消していくか、あるいはどの程度、恒久的に組み込んでいくかが論点になるとの指摘があり、医療提供側の委員と保険者側の委員で温度差がみられた。
 日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、新型コロナの感染拡大において、特に大都市で、民間中小病院による二次救急の努力があったことを説明した上で、高齢化社会で、二次救急の評価をさらに充実させることの重要性を強調した。その際に、現状では年間の救急自動車・ドクターヘリの搬送件数が2千件以上を要件としている地域医療体制確保加算の対象拡大に言及した。また、病院給食の赤字構造の原因である入院時食事療養費の引上げを訴えた。
 なお、2020年度改定の基本方針の「改定の基本的視点と具体的方向性」は、①医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進【重点課題】②患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現③医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進④効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上─となっている。
 委員からは、新型コロナの感染拡大を踏まえた対応は別にして、上記の4つについては、引続き重要課題との意見で概ね一致した。一方、団塊世代がすべて75歳以上に達する2025年を目指した対応を超えて、高齢者人口がピークに達し、その後は医療需要が全体でも減少する可能性が高い2040年以降を見据えた「グランドデザインがない」(楠岡英雄委員・国立病院機構理事長)といった指摘もあった。
 神野委員は、「改定の基本的視点と具体的方向性」の①②に含まれている「ICTの利活用」の推進の必要性を強調した。

医療情報ネットワークWGを設置
 データヘルス改革の工程表については、「医療機関等で患者情報が閲覧できる仕組み」のうち、電子処方箋の閲覧は当初、2022年夏から可能としていたが、システム設計会社の入札の不調により、2023年当初に遅れるとの報告が厚労省からあった。また、電子カルテの標準化が検討課題の一つである「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」が設置されることも報告された。
 神野委員は、「医療情報のデータベースが乱立して、相互に分断されている。私は個人が健康情報を管理するPHRが基軸になるべきだと思うが、そろそろ何を基軸にして、医療情報ネットワークを構築するかの方針を確定させるべき」と述べた。

広告できる専門医の告示見直し
 「専門医に関する広告」の見直しによる医療広告規制の告示見直し案が示された。日本専門医機構が認定する基本的な診療領域の専門医が、医療法において広告できる専門医であることが基本になる。現状で広告できる専門医については、「当分の間」広告が可能な経過措置との位置づけで、引続き専門医として広告できる。神野委員は、「『当分の間』とはどのくらいの期間か」と質問。厚労省担当者は、法令でこのような文言を用いる場合は、経過措置の期日を明確に定める見直しを行わない限り、現状どおりが続くと説明した。
 日本医師会常任理事の釜萢敏委員は、「専門性が高くても、国民になじみのない専門医を広告可能とすることは国民の利益にならない。広告可能な専門医は最小限にとどめることを、基本的な考え方とすべきである」と主張した。

 

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