全日病ニュース
オンライン資格確認を先行導入
高橋肇理事長
オンライン資格確認を先行導入
病院の取組み●社会医療法人 高橋病院(北海道函館市)実際の利用はまだ少ないが今後の効果に期待
厚生労働省は、患者がマイナンバーカードや健康保険証を使い、医療機関などで医療保険の資格確認がオンラインで可能となるシステムの導入を推進している。7月上旬から9月末までを「集中導入期間」と位置付け、10月以降が本格実施となる。今後、マイナンバーカードを活用したマイナポータルの情報も、段階的に充実化が図られていく。
高橋病院(北海道函館市)は昨年10月のテスト運用で、オンライン資格確認のシステムを先行導入した。情報通信技術に積極的に取り組んできた高橋病院だが、運用に至るまでには苦労もあったようだ。オンライン資格確認の導入作業がどう進み、どのような業務改善につながったのか。導入の経緯から運用まで話をきいた。
ネットワーク設定は予想外に苦労
― オンライン資格確認のシステム先行導入のきっかけを教えてください。
(高橋理事長)
全日病のICT 担当の役員として、厚労省の主催する会議に出席する中で、厚労省の調査研究事業に参加するなどデータヘルス改革との関わりが生まれ、興味を感じていたところに、厚労省担当者から先行導入の打診がありました。
日本の医療現場のデジタル化が遅れていることは明らかであり、オンライン資格確認の推進は、その一環として医療保険のサービスを向上させると考え、導入を決めました。
― 顔認証付きカードリーダーの選定やシステム設定は順調でしたか。
(工藤泰央・法人情報システム室室長補佐)
オンライン資格確認の仕組みが始まることは知っていましたが、先行導入の対象病院になるとは思っておらず、いざ作業を開始してみると、とまどいの連続でした。いくつかのベンダーに相談しましたが最初は、仕様の詳細がわからず対応できないとの返事ばかりでした。
全体でどれだけの費用がかかるのかもわかりません。最終的に、ネットワークの構築はNTTに依頼することになり、顔認証付きのカードリーダーについては、厚労省が補助金を出す製品を示したので、その中から、公費医療券読取機能の付加が明確であった株式会社アルメックスの製品に決めました。
(高橋理事長)
他のICT関連事業と同じで、先行事例がないゆえの、喜びと苦労がありました。やはりノウハウがないと、運用までに時間がかかります。例えば、「カードリーダーを電子カルテやレセプトコンピュータに接続すればすぐに動く」、「既存のインターネット回線でつながる」、「一般的なパソコンで十分」などの先入観が次から次へと覆され、一つひとつベンダーと検証し、調整する必要がありました。
費用面でも、ネットワーク環境を構築するための各種機器との接続やソフトウエアの改修、回線の問題などを含めると、想定を上回りました。
民間中小病院がオンライン資格確認を導入する上で、病院の機能や規模に合ったモデルに応じた説明のためのビデオなどのツールが必要だと思います。厚労省は、先進的なモデルを示しがちですが、地域の病院にとっては、レベルが高すぎる場合があります。
地域医療連携の情報との棲み分け
― オンライン資格確認を導入することで、どのような利便性がありますか。
(高橋理事長)
マイナンバーカードを使えば、特定健診や薬剤、医療費通知の情報が見れるようになります。閲覧できる情報は、段階的に増えていきます。例えば、特定健診の情報を診察で活用すると、検査の異常値が出た場合に、その時の異常値なのか、恒常的な異常値なのかがわかります。長い期間にわたる患者の健康状態を把握することができます。
患者にとっても、マイナポータルを通じてPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)に情報が集まってくることは有用です。ただ、データベースが分散している状況もあり、情報収集が二度手間になっていないかなどを念頭に置いて、システムの設計をするべきです。
高橋病院は「ID-Link」という地域医療連携ネットワークに参加しています。ネットワーク内では、医療機関間の情報連携は可能ですが、連携に加わっていない医療機関の情報が抜けてしまう問題があります。その点、マイナンバーカードは、すべての医療機関の薬剤情報を閲覧できますが、トータルの情報量には大きな差があります。それぞれの利点を生かして、棲み分けを図ることが重要になります。
マイナンバーカードによる情報は今後、増えていきます。入院・外来だけでなく、在宅医療や訪問診療、介護の現場で、それらの情報を活用する余地は大変大きいと思います。妊婦や出産後の乳幼児の継続的な健康情報が、ワクチンの接種などを含め閲覧できるようにすることも、とても役立ちますね。
重複投薬の防止など薬剤情報を介護の現場で活用することの有用性も、非常に高いと感じています。しかし、介護との情報連携は取り残されている感があり、残念です。人生では、医療より介護サービスを受けている期間のほうが長いのが普通です。生涯を通じて一気通貫の情報を集約するのであれば、在宅医療・訪問診療、介護の現場でのインフラを整えて、使えるようにすべきです。
業務負担を軽減させる効果としては、入力の手間が減り誤記リスクが減少することや、正しい資格情報の確認ができることで、レセプトの返戻がなくなることが期待できます。ただ、高橋病院では、まだまだ利用が少ないので、効果を実感するにはもう少し時間が必要かもしれません。
(朴田誠・医事課課長)
高橋病院は高齢患者が多く、後期高齢者医療制度への切り替えを別にすれば、間違った保険証を使うといったケースは年間数件ぐらい。業務負担が減ったという実感はあまりありません。今後、利用が増えていけば、利便性が目に見える形になると期待しています。
(山岸久記・医事課主任係長)
生活保護受給者の医療券が2023年度中に、オンライン資格確認の対象になると聞いています。高橋病院でも最近、生活保護に適用後も、間違って健康保険証で受診した患者がいたので、そのような場合に役立つと期待しています。
逆に、オンライン資格確認の導入で、手間が増える場面もありました。新患が複数来られて、カードリーダーの前に並び、一人が手間取ると、混雑の原因になります。従来の作業には慣れているので、手入力のほうが早い場合もあります。
(高橋理事長)
やはり、新しいものを導入するので、慣れるまで利便性を感じにくいというのはあります。また、導入の際は、事前にロールプレイをやって、それも変わった行動を取りがちな職員(笑)に試してもらって、うまく運用できるかを確認するのがよいでしょう。ICTの専門家が病院職員にいないのであれば、技術面を手伝ってくれる地場のベンダーを頼るのも一案です。
― 補助金は十分でしたか。
(高橋理事長)
厚労省の適正価格への指導も、大手のベンダーには効果があったと思いますが、高額な請求をしてくるベンダーはなくなりません。不適切な請求を除いても、全体の費用を賄うのに、補助金は足りないと思います(3月以前の全額補助)。また、あくまでイニシャルコスト(導入経費)です。ランニングコストを含めれば、もっとかかります。オンライン資格確認を医療機関に普及させたいのであれば、一定の利用率を要件に、診療報酬の加算を時限的に設けてはいかがでしょうか。
生まれる時間を人に充てる
― 世の中のデジタル化に、病院として、どう対応していきますか。
(高橋理事長)
デジタル化を進めることで、病院業務の「ムリ・ムラ・ムダ」を洗い出し、業務改善につなげることが可能です。そして、業務効率化で生じる時間をどう活用するかについては、人減らしに使うと言う人もいますが、そうではなく、患者との関わり合いを増やすことや、職員の働き方の改善に充てることができると思います。
また、デジタル化の技術は、リアルタイムでの患者情報の把握に役立ちます。例えば、ウエアラブルのデバイスで自律神経系を把握すれば、発熱や尿意、全身の不調などが事前にわかり、看護師の業務も、より質が上がり効率的なものにすることができるでしょう。デジタル化が病院業務を改善し、患者の「多幸感」を大きく広げることを願っています。
右から、工藤泰央システム室室長補佐、八木教仁主任係長、朴田誠医事課課長、山岸久記主任係長
顔認証付きカードリーダー(アルメッ
クス社)
オンライン資格確認等システムが始まっています
ご心配をおかけしました、オンライン資格確認等システムに格納されているデータの正確性ですが、審査支払機関及び保険者の努力により、おかげさまで、確保されました。今後も転職や引っ越し等で保険者が変わり、加入者データの変更がありますが、入力ミスを検知できる仕組みも入っています。オンライン資格確認等システム、安心してお使いいただけます。
導入の着手には、①顔認証付きカードリーダーの申込み、②レセコン業者への見積もりの連絡を病院自ら行ってください。レセコン業者もシステム改修を経験し、価格もそれなりの段階へ収斂しました。ご不安な点があれば、私たちも相談に乗ります。ぜひ、早めの導入をお願いいたします。
厚生労働省保険局医療介護連携政策課長 山下 護
全日病ニュース2021年9月1日号 HTML版