全日病ニュース

上段右から大田理事長、松田教授、織田正道副会長、下段右から江澤理事長、池端理事長、仲井理事長

地域密着の多機能病院への道

【シンポジウム３】４中小病院の選択をみる

　「令和時代の医療・中小病院の生きる道」と題したシンポジウムでは、４人の民間病院の経営者が、将来を見据え、病院として何を選択してきたかを語った。座長の松田晋哉・産業医科大学教授は、「地域密着型で、急性期から慢性期の医療を提供できる総合的な機能を持つ中小病院が求められている」と指摘。４病院が、それぞれの地域の実情に合わせて、変化に対応してきたことが示された。また、「地域の信頼を得ることが何より大事」（松田教授）ということも共通していた。
　脳神経センター大田記念病院（広島県福山市）の大田泰正理事長（全日病常任理事）は、同病院が、脳血管疾患の急性期医療に特化した機能から、地域包括ケアシステムを念頭に置いた多機能病院に移行した過程を説明した。現在の病床は213床。脳神経以外の診療科の拡充や回復期リハビリテーション機能、訪問看護のほか、介護老人福祉施設など生活を支えるサービスまで事業を拡げた。
　2016年には地元企業と管理栄養士のノウハウを生かした「だしつゆ」「だしパック」を開発した。人々の暮らしを支え、並走するという病院の役割に目覚めたという。
　ただ、「急性期脳神経疾患医療の機能を単体で維持するのは困難」とも感じている。政府は循環器病の機能分化を強力に進める方向にあり、今後は、「地域連携推進法人といったアライアンスを本格的に検討する」と述べた。
　芳珠記念病院（石川県能美市）の仲井培雄理事長（地域包括ケア病棟協会会長）は、「能美市の公益民間総合病院として、２次救急や地域包括ケアシステムを守ることが使命」と自院を位置づけた。地域包括ケアシステムを支える病棟として、地域包括ケア病棟が中心的な役割を担い、疾患への治療に、リハビリテーション、栄養、認知症ケア、ポリファーマシー対策などを包括的に提供しているとした。
　手術や救急、健診、訪問看護、病診連携に注力し、併設の介護事業所や共生型福祉施設を含めて「ほうじゅグループ」と総称している。
　新型コロナの感染拡大に際して、手術や健診を縮小させながらも、受入れ協力医療機関の指定を受け、対応した。
　コロナ禍での在宅医療増と減少した入院需要は、長期的な影響と見込み、ダウンサイジングを決断した。260床のケアミックス病院だったが、医療療養病床を廃止するなどして、2021年５月に183床まで減らした。

慢性期でも「選択と集中」が重要
　池端幸彦理事長（日本慢性期医療協会副会長）の池端病院（福井県越前市）は、病床数は30床と少ないながらも、多機能を誇る。地域包括ケア病床管理料が11床、療養病棟入院基本料１が19床。機能強化型在宅療養支援病院であり、在宅復帰機能強化加算を算定する。
　池端理事長は、「地域包括期と慢性期の両者にまたがる慢性期多機能病院として、地域包括ケア病棟・リハビリ集中病棟・慢性期治療病棟を担う」と説明した。その機能として、「在宅復帰・在宅医療支援機能」、「リハビリテーション機能」、「看取りを含めた終末期機能」をあげた。そのための三種の神器として、信頼できるかかりつけ医、信頼できるケアマネジャー、頼りになる地域包括支援センターが必要とした。
　その上で、「慢性期病床といえども、『選択と集中』を行い、医療機能を高める努力をしないと生き残れない」と述べた。
　倉敷スイートホスピタル（岡山県倉敷市）の江澤和彦理事長（日本医師会常任理事）は、「医療が中小病院の担う中核機能であることに疑いの余地はない」としつつ、「今後の展望として、住民への健康づくりや介護予防の自助への支援、互助である民生委員をはじめとするボランティア団体との連携を通じた地域づくりへの参画は、中小病院の生命線となり得る」と強調した。
　倉敷スイートホスピタルは、機能強化型在宅療養支援病院で、196床に、地域包括ケア病棟等、地域一般病棟、障害者施設等一般病棟がある。サービス付き高齢者向け住宅も併設する。
　国が目指す地域共生社会の実現において、地域包括ケアシステムの構築が鍵を握り、その本質を地域づくり（町づくり）と位置付けた。「主役は住民で、地域に密着した中小病院が住民と連携し、町づくりに参画することが重要な役割であり、地域からの期待も高まっている」と述べた。
　新型コロナ対応では、昨年12月18日にコロナ病床を13床開設し、今年５月24日には50床に増床。抗体カクテル療法拠点病院として、運用している。