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2040年の世界と理想的な医療介護体制

2040年の世界と理想的な医療介護体制

【病院のあり方委員会】病院のあり方に関する報告書2021年版を解説

 「病院のあり方に関する報告書」2015-16年版発刊から5年が経過し、著明な人口減・高齢者人口のピークを迎える2040年に向けてどう意識し行動していくべきか検討すべきとの判断のもとに、本年6月、2021年版の報告書を刊行した。
 20年前の報告書を振り返った上で、20年後の変化を予測しながら検討を進めた本報告書の作成は、議論の最中にコロナ感染症拡大が生じ、1年余り遅れた。医療介護提供体制の弱点が露呈する事態に見舞われたが、この状況を将来なすべき課題解決を迅速化させる出来事ととらえ、この教訓も踏まえながら、我々自身が望む体制を提言し、会員にどのような行動をとってもらいたいかのメッセージとあわせて取りまとめた。
 本報告書は、全4章構成(第1章「20年前の2020年予測本と病院のあり方報告書の検証」、第2 章「想定される2040年の世界」、第3章「2040年における理想的な医療介護提供体制」、第4章「会員へのメッセージ」)となっているが、長谷川友紀特別委員(東邦大学社会医学講座教授)の座長のもとで、その執筆に係った委員より以下の主な内容について解説が行われた。
 川嶌眞之委員(社会医療法人玄真堂川嶌整形外科病院理事長・院長)からは、第2章について、本報告書がどのような未来を前提として議論を進めたものであるかの説明がなされた。人口や社会構造、経済財政、環境問題、就業・住まい等について公的統計や関連省庁、シンクタンク等における検討、2019年厚生労働省・経済産業省合同で行われた「未来イノベーションワーキンググループ」における検討等を基に議論を重ね、来る2040年の姿を想定したことが説明された。
 徳田禎久委員長(社会医療法人禎心会・札幌禎心会病院理事長・院長)からは、「2040年における理想的な医療介護提供体制」として提唱した「地域包括ヘルスケアシステム」の構築を中心に説明がなされた。都道府県主導で2次医療圏ごとに作成される「地域医療構想」と市区町村単位の「地域包括ケアシステム」では整合性に難があることから、主要医療機関を中心に一定の生活圏で地域特性に合致した医療・介護・高齢者の住まい・生活支援等を一体的に検討する枠組みの必要性が示された。具体的な医療介護提供体制に関しては、「国民皆健診制度」確立の必要性、医師不足解消のための養成数見直し撤廃と総合医育成の重要性、医療介護従事者としての外国人、特に移民・難民の受入れや、高齢者の定義の75歳以上への変更、診療報酬体系の抜本的改革等について記載したことが説明された。また、来る2040年に向け、常に地域の将来像を確認することや、理念・運営方針の確認、情報技術の活用、災害や感染症への備えとしてのBCP(事業継続計画)の策定等、今から会員が検討しておくべき事項についてのメッセージも示された。
 飯田修平委員(公益財団法人東京都医療保健協会練馬総合病院理事長)はコラムの中から特にBCPの策定の重要性を取り上げ、解説した。事前の想定の難しい各種災害に対応するためにはBCPの策定は不可欠であり、同時にBCM(事業継続マネジメント)に基づく管理が肝要であることを、理論と自験例からマインドマップを駆使して理解しやすいよう説明された。さらに、今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大下における実践に関して具体的に詳細に説明されたが、総合的質管理(TQM)の視点での取り組みととらえるべきことが強調された。
 ディスカッションでは、人口減少への対応として、医療・介護・福祉の分野で一体的に生産年齢人口を取り込んでいく必要性を再確認するとともに、具体的取組としての育児・介護の受け皿確保とともに、病院業務におけるテレワーク導入の難しさ等の課題について言及があった。「地域包括ヘルスケアシステム」については、医療・介護・福祉複合体が医療機関を中心として形成されている事例で有効性が示されている実態を踏まえたものであり、ケアだけにとどまらず、地域住民の健康を一体的に管理していく必要があることも検討され、今回の提言に至った経緯も説明された。最後に、示したものは2040年に向けた長期的展望ではあるが、今から検討し備えるべき事柄の確認も含め、会員病院・本企画視聴者への本報告書熟読の依頼がなされた。

 

全日病ニュース2021年10月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2012年4月1日号 - 全日本病院協会

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2012/120401.pdf

    らためて考え、具体的な行動を起こしたい」と述べた。 ... たが、座長(遠藤久夫学習院大学教授). を除く16名の構成員から ... 病院のあり方委員会の委員川嶌眞之氏.

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