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ホーム全日病ニュース(2021年)第995回/2021年10月1日号人生の最終段階の医療・ケアの決定プロセス

人生の最終段階の医療・ケアの決定プロセス

人生の最終段階の医療・ケアの決定プロセス

【高齢者医療介護委員会】高齢者医療介護会 前委員長 木下 毅

 当委員会では2020年度の老健局の老人保健事業推進等補助金で行った研究「看取りのガイドライン、マニュアルのモデル・人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスの行い方」の結果をもとに生と死について討議した。
 土屋病院の土屋繁之先生は、慢性期病院における患者受入れ時の意思確認について述べた。急性期病院から慢性期病院に転院して来る患者・家族の多くは医師からの説明を十分理解しないまま「厳しい状態である。これ以上良くならない」という言葉で納得して転院して来る印象がある。急性期における治療は時間がない中での判断を強いられるため患者・家族の意向に十分添えない環境にあることは想像がつく。
 しかし、救命されしばらく療養生活を続けなければならない患者・家族にとって、どのような環境で療養生活を送ることが患者本人にとって最善かの判断は難しい。急性期から慢性期への移行段階で、時間をかけて患者・家族の意向を集約し、患者にとって満足できる療養環境提供が望まれる。ACPは1人の人間の生命のあり方、家族とのあり方を考えるプロセスである。在宅療養が主たる生活環境となった今、生命の価値を疎かにしないための継続的な関わりが求められる時代になった。
 上智大学総合人間科学部社会福祉学科教授の香取照幸先生は、超高齢社会における終末期のあり方を論じた。今後、日本は大量死の時代を迎える。現在死因の第一位は癌だが、老衰が急速に増大し、人々の死との向き合い方は大きく変化している。ターミナルケアは医療・ケアのあり方そのものへの問いかけであり、地域包括ケアは、現在の我々の到達点。いかに生活の継続性と自己決定を尊重してその人らしい人生を全うできるかかが問われる。
 死は生の延長線上にあり、死と生は連続的なものである。死を医療者目線・介護者目線で語るべきでなく、その人の「死」をその人から奪ってはならない。ACPがなかなか理解されない一方で、エンディングノートを書く人が増えている。専門職の方々はその理由を考えてみてほしい。
 上智大学総合人間科学部教授で、当委員会特別委員の栃本一三郎先生は、意思決定プロセスと人間の尊厳について論じた。人間の尊厳と人生の最終段階における最も重要な事柄として死を迎えるまでのあり方を考えていきたい。これは自分の問題でもあり、家族の問題でもある。深く文化や宗教観にかかわることであり一部の専門家や行政が定式化し、それを差し示すことについては慎重であらねばならない。深い教養と知識、人間についての洞察をもって考えていかなければならない事柄といえる。
 ACPの出発点は会議室での会議ではない。「話し合い」の結論ではなく、そこにいたるプロセス、納得や相互の理解や承認、分かち合い、そして考えていくこと、避けずに考えることこそが大切だ。
 その意味で、ACPに至るまでの期間が大切と言える。これは国民が自ら生と死を考えるということを引き受けることでもあり、習慣の形成が前提として大切である。
 さらに意思決定支援には原則がある。①意思決定存在の推定の原則②意思決定の支援を受ける権利③賢明でないように思われる意思決定をする権利④最善の利益の確保の原則⑤最小の制限の5つである。それらから言えることは、意思決定支援について日本はあまりにも安直であるという事である。人生会議によって、さらに形骸化することを恐れる。

 

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