全日病ニュース
看護師特定行為研修をどう評価するか
看護師特定行為研修をどう評価するか
【看護師特定行為研修委員会】看護師特定行為研修委員会委員長 神野正博
2015年10月に開始された看護師特定行為研修制度も6年目となり、当初の目論見からは少ないものの、すでに全国で3,300人以上の修了者を輩出するに至っている。本制度の量的拡大を図りながらも、その効果・アウトカムを評価し、さらに研修内容をブラッシュアップすべき時期に来たという認識の下で企画した。
厚生労働省の最近の考え方や動向を、「特定行為研修の目指すもの、最近のトピック」という演題で、厚生労働省医政局看護課看護サービス推進室・習田由美子室長から伺った。また、修了者の活動等の実態把握調査(2020年12月24日~ 2021年2月14日)において、修了者の55.9%が新型コロナウイルス感染症患者への看護業務に従事し、うち21.7%が新型コロナウイルス感染症患者への特定行為を実施していることが示された。
次に「アウトカム指標の設定の現状」という演題で、東京大学大学院医学系研究科の仲上豪二朗准教授は、看護師の行う特定行為がどのような影響を与えるか、米国のNPにおける調査を参考にしながらの調査結果を報告した。特定行為研修修了者がいる施設でBarthel IndexやDESIGN-R 点数の改善傾向が見えたとし、今後患者QOL、医療者の労働環境、コストなどの客観的指標で大規模データベースを構築する考えを披露した。
さらに、本委員会のメンバーである江村正・佐賀大学医学部附属病院医師育成・定着支援センター長からは「指導者講習会受講者アンケートから見た特定行為研修を修了した看護師の役割(アウトカム)」、池上直己・慶應義塾大学名誉教授からは「看護師特定行為に対する調査」をお話しいただいた。江村氏の調査報告で、修了者が最も多くチェックした項目は「判断力が身についた」だったが、指導者が最も多くチェックしたのは「今まで出来なかった手技ができるようになった」であった。一方、修了者、指導者ともに50%未満の回答にとどまったものは、「安全管理能力が向上した」「種々の検査結果の解釈ができるようになった」「バイタルサインの変化の意味がよくわかるようになった」「リーダーシップが身についた」「処方されている薬剤の副作用が早期に発見できる」という項目であった。今後この制度を普及させ、さらにチーム医療を推進するためには、症例提示、医療記録、薬の副作用の早期発見、リーダーシップなどの、さらなる研修または実践が望ましいと結論づけた。
また、池上氏の調査報告は、主に看護管理者が対象であり、研修に対する期待は医師からのタスクシフティングよりも、全体的な技能の向上や医療の質の向上の方が顕著であったこと、研修修了者の業務のうち、特定行為研修に関わる業務は2割未満にとどまったが、半数以上において取得後に当該特定行為にかかわる業務の割合は向上していたことが示された。
ディスカッションで改めて2つの修了者像があり、アウトカム評価の難しさが示された。すなわち、認定、専門看護師や日本版NPを取得しているHigh Performerが最後の医行為を合法的に実行するために取得した者と一般の看護師が受講することによって知識と業務を拡大しようとする者である。前者は、数値の指標で評価可能かもしれないが、後者は、「判断力」「コミュニケーション能力」など数値化できないもので評価する必要性が考察された。
全日病ニュース2021年10月1日号 HTML版