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救急医療提供体制の議論をスタート

救急医療提供体制の議論をスタート

【救急災害医療WG】第三次・第二次救急医療機関の果たす役割を考える

 厚生労働省の救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ(遠藤久夫座長)(WG)は4月28日、第8次医療計画策定に向けた救急医療の議論をスタートさせた。高齢の救急患者の増加など2040年頃の人口動態などを踏まえた課題を見据え、第三次・第二次救急医療機関の果たす役割を考え、地域の救急医療提供体制の見直しにつなげる。新型コロナの経験も踏まえ、重症者に対応できる医師・看護師などの医療人材の育成も課題となった。
 第8次医療計画は2024年度から始まる。2040年頃までの人口動態の変化などをみると、医療提供体制の改革が急務であることがわかる。人口動態の変化としては、現役世代(生産年齢人口)の減少と高齢者の増加が続き、2042年に高齢者数がピークを迎える。ただ、高齢者数の増加には地域差があり、都市部を中心に増加するが、減少する都道府県もある。
 高齢者数が増加し続けるのは、団塊世代が2025年度にすべて75歳以上となり、その後、団塊ジュニア世代が高齢化していくからである。超高齢社会は多死社会でもあり、2040年のピーク時には年間約170万人が死亡すると見込まれる。死亡場所は、病院・診療所の割合が大きいが、近年は自宅や介護施設なども増加傾向にある。自宅では、高齢者単身世帯が増加する。
 医療機関への入院では、脳梗塞・肺炎・心不全・骨折などが増加すると予測されている。認知症有病者も増加する。65歳以上の退院患者のうち、介護施設などや他の医療施設へ退院する患者の増加が見込まれる。
 現在、全体での救急出動件数は、新型コロナの影響で若干減少したが、傾向的には増加しており、高齢者の割合が増加傾向にある。「交通事故」は減少し、「急病」、「一般負傷」が増えている。疾病分類では、高齢者の「症状・徴候・診断名不明確」が増加している。

高齢者救急への対応が急務
 これらの変化に対応できるための救急医療提供体制が求められる。特に、軽症・中等症の高齢者の救急搬送が急増することへの対応が急務だ。第三次救急の医療機関が軽症患者も診療すると、対応能力を超えてしまい、重症患者の診療に支障をきたす恐れがある。これを防ぐには、第二次救急の医療機関の体制を強化する必要がある。
 また、単身世帯や要介護者の増加により、退院先が決まらずに搬送や退院が滞ることで発生する「出口問題」への対応も重要となる。
 全日病常任理事の猪口正孝委員は、第三次救急医療機関の受入れ体制を強化するためにも、地域医療構想区域内で高齢者などのニーズの高い入院の受入れは、「地域包括ケアシステムを支える医療機関が対応するべき」との考えを示した。その上で、「地域包括ケア病棟などは緊急入院が要件化されている。亜急性期を担う病院の救急医療における位置づけを明確にする議論が必要になる」と述べた。
 また、延命を望まないという本人の意思に反した救急搬送を防ぐためにも、ACP( アドバンス・ケア・プランニング)の普及を含め、かかりつけ医機能や在宅医療などプライマリケアの充実を強調した。
 日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、第三次救急医療機関が概ね人口100万に一カ所を目標に整備する方針であったにもかかわらず、2022年4月時点で救命救急センターは299カ所指定されていると指摘。「三次救急医療機関の実態をさらに検証し、二次救急医療機関が担うことのできる救急医療を行っているのであれば、一定の整理を行うべき」と主張した。
 これに関しては、日本災害医学会代表理事の大友康裕委員が、「救命救急センターには補助金があるが、第二次救急医療機関には特に評価がない。実績のある第二次救急医療機関があれば、救命救急センターに上げる傾向がこれまであったように思う。今後は二次救急医療機関への支援が重要になるかもしれない」と述べた。
 なお、救急搬送の傷病程度における軽症とは、「傷病程度が入院加療を必要としないもの」、中等症とは「傷病程度が重症または軽症以外のもの」、重症とは「傷病程度が3週間の入院加療を必要とするもの」と定義されており、一般的な疾病の重症度などとは異なる。
 委員からは、「緊急手術で早期退院すれば中等症、誤嚥性肺炎で長期入院すれば重症となる」、「入院しなくても必ずしも軽症ということではない」など、現状の定義が実態に即していないという指摘が複数の委員からあり、見直しが求められた。
 新型コロナの経験を踏まえた救急医療の課題も論点となった。
 その一つが人材確保で、新型コロナの重症患者の受入れ困難事例の多くが、ECMOや人工呼吸器を扱うことのできる医療従事者の不足がボトルネックとなっていた問題であり、重症者に対応できる医師・看護師などの人材育成を論点とした。ただ、これに対しては、新型コロナ対応は当面、災害医療としての取扱いを続けるべきとの意見が出た。
 一方、日本精神科病院協会副会長の野木渡委員は、「精神科病院に入院する患者が新型コロナに感染しても、他の病院に転院させることはほとんどできなかった。(自院に)感染症専門の医師や看護師がいるとだいぶ違う」と述べた。第三次救急医療機関に患者を集中させないためにも、地域の病院における人材確保の重要性を強調した。

 

全日病ニュース2022年5月15日号 HTML版

 

 

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