全日病ニュース
看護の処遇改善の制度設計で特別調査の実施を了承
看護の処遇改善の制度設計で特別調査の実施を了承
【中医協総会】分科会での議論を踏まえ当初案を変更
中医協総会(小塩隆士会長)は4月27日、看護の処遇改善を10月から実施するための制度設計に向け、医療機関における看護職員の配置状況などを把握する特別調査の実施を了承した。議論では、どれだけ精緻に制度設計したとしても、医療機関に入ってくる処遇改善に必要な額と診療報酬で得られる額とのずれは必ず生じるので、それを踏まえた対応が必要との意見が、診療側・支払側の双方から出た。
特定の診療報酬に上乗せ
看護の処遇改善では、「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関」に勤務する看護職員を対象に、10月以降の収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げる。実施にあたっては、介護・障害福祉の処遇改善加算の仕組みを参考とし、予算措置が確実に賃金に反映される措置を講じることが求められている。
「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関」とは、具体的には、「救急医療管理加算を算定する救急搬送件数が年200台以上の医療機関と三次救急を担う医療機関」に特定されている。
処遇改善を受ける看護職員は、看護職員等処遇改善事業補助金と同様に、看護師、准看護師、保健師、助産師であり、看護職員以外でも、看護補助者、理学療法士・作業療法士などのコメディカルの処遇改善にも充てることができる制度とすることも決まっている。
診療報酬で処遇改善を実現するためには、特定の診療報酬への点数の上乗せを行い、その特定の診療報酬を算定する患者数に応じて得られる上乗せ分が、処遇改善に相当する金額に一致している必要がある。
中医協委員の間では、これを個別の医療機関ごとに一致させることは不可能との考えで一致しているが、できるだけずれを少なくする必要がある。
制度設計にあたり、活用できるデータとして、厚生労働省は、NDB(ナショナル・データ・ベース)、病床機能報告、補助金の支給状況をあげた。さらに、特別調査を実施して、対象医療機関の看護職員の配置状況などを把握することを提案した。
特別調査で職員配置状況を把握
特別調査の当初案は、4月13日の入院・外来医療等の調査・評価分科会(尾形裕也分科会長)に示され、議論を行っている。厚労省は、分科会での議論を踏まえた当初案の変更案を総会に提示し、それを了承した。変更点は2点ある。
1つ目は、調査時点の変更で、当初案では、2021年7月1日時点と2022年4月1日時点となっていた。ただ、4月1日は異動の時期であり、看護職員数などが変動しやすいことや、より直近のデータを把握したほうがよいとの意見が分科会の委員から出た。このため、2022年4月1日時点ではなく、より直近の2022年5月1日とすることになった。
2つ目の変更では、患者の受入状況について、年間の入院・外来・緊急搬送患者延べ数に加えて、新規入院患者数もあわせて調査することにした。診療報酬では、1日ごとに算定できる点数や入院時に1回だけ算定できる点数があり、新規患者数や在院日数が異なると、算定回数が変わるので、医療機関の収入も異なるためである。
対象外の医療機関等との格差指摘
中医協総会でも、分科会の議論と同じく、医療機関に入ってくる処遇改善に必要な額と診療報酬で得られる額とのずれは必ず生じるので、それを踏まえた対応が必要との意見が相次いだ。
日本医師会常任理事の城守国斗委員は、「ずれを最小限にする制度設計が求められるが、結果として生じる過不足にどのように対応するかは、医療機関の経営にとって極めて大事な問題だ」と強調した。健康保険組合連合会理事の松本真人委員は、「さまざまな要素を考慮すればするほど複雑な仕組みになってしまう。ある程度の割り切りは必要で、きちんと検証できるようにするためにも、シンプルな仕組みにしたほうがよい」と主張した。
日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦委員は、「今回の対応は、看護職員の処遇改善の第一歩との位置付けであるため、対象が限られていると理解している。今後、対象をさらに広げることが想定されているのであれば、今回の制度設計の後に、対象外の医療機関や職員との格差が生じることの問題をきちんと議論し、制度のあり方を考える必要がある」と述べた。
全日病ニュース2022年5月15日号 HTML版