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ホーム全日病ニュース(2022年)第1011回/2022年6月15日号医師の働き方改革の施行に向けた準備状況「評価できず」

医師の働き方改革の施行に向けた準備状況「評価できず」

医師の働き方改革の施行に向けた準備状況「評価できず」

【社保審・医療部会】副業・兼業を含めた時間外・休日労働の把握が4割弱にとどまる

 厚生労働省は6月3日の社会保障審議会・医療部会(永井良三部会長)に、医師の働き方改革の施行に向けた準備状況の調査結果を示した。全病院を対象にした調査の回答率は44%で、副業・兼業を含めた時間外・休日労働を概ね把握していると回答した病院は4割弱にとどまった。大学病院本院からはすべての回答が得られたものの時間外・休日労働を概ね把握している大学病院は2割強に過ぎなかった。厚労省は、「今回の調査では病院の準備状況の評価は困難」との見解を示した。

「派遣」の解釈にもばらつき
 都道府県と全病院を対象に、医師の働き方改革の施行に向けた準備状況を調査した。病院(8,193病院)の時間外・休日労働時間の把握状況の回答は44%の3,613病院、大学病院の本院(防衛医大を含む)の回答率は100%。調査は2022年3~4月に実施した。
 3,613病院のうち、副業・兼業を含めた時間外・休日労働を概ね把握していると回答した病院は1,399病院で、39%にとどまった。大学病院の本院82病院では20病院で24%に過ぎなかった。自院での労働時間の把握に限れば、全病院で41%であり、両者を合わせると80%になる。大学病院の本院では50%であり、合わせると74%。大学病院の本院において、副業・兼業先の時間外・休日労働時間が把握できていない病院が多いことがわかった。
 厚労省は、現時点で、副業・兼業先を含めた時間外・休日労働時間を把握できている病院が4割程度にとどまるため、「今回の調査では病院の準備状況等、総合的な評価は困難」との見解を示した。
 さらに、医師派遣に関する問いでは、回答する病院によって、「派遣」の解釈にばらつきがあるなどの課題があったと報告した。
 全日病副会長の神野正博委員は、「結果をみると、副業・兼業含めて把握している回答が4割というのは問題となってくるし、派遣の解釈もばらつきがあるという課題も示された」と述べた。その上で、「これまで派遣と言えば、地域の病院が大学病院などに依頼して、それに対して派遣が行われる形が一般的であったと思うが、最近の実態をみると、医師が空いた時間をどう使うかということで、民間の派遣会社が間に入って、地域の病院に紹介する形もある。そうすると、派遣元だけでは把握が難しいと思うので、派遣先とあわせて把握する必要がある」と指摘した。
 厚労省は、今後、各病院における準備が進んでいくのにあわせ、改めて調査を実施し、病院の準備状況などへの影響を把握する。その際は、質問の趣旨を明確にするなど、制度設計についても見直しを行うとの考えを示した。
 ほかの委員からも、実態が把握されていないことを問題視する意見が相次いだ。国際医療福祉大学大学院教授の島崎謙治委員は、「失礼な言い方をするが、まるで他人事のような回答結果になっている。医師の時間外労働規制の施行が2年以内に迫っているのに、勤怠管理も行っていない病院がある」と危機感を示した。
 健康保険組合連合会常務理事の河本滋史委員は、「2022年度診療報酬改定では、医師の働き方改革への対応を重点課題とし、相応の財源を投入した。施行に向けた取組みが進んでいないということでは、国民の理解を得られない。準備作業の加速化を求める」と指摘した。
 日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長の木戸道子委員は、派遣先の医療機関が宿日直許可を取得することができれば、時間外・休日労働時間から外れるが、宿日直許可の取得が進むと、二次救急の機能を果たす医療機関が減少するとの懸念を表明。これに対して、日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、「二次救急を担っている医療機関でも体制を整えれば、宿日直許可を取得することはできる。二次救急を担っているから取らないということにはならない」と述べ、可能な限り宿日直許可を取得したほうがよいとの考えを示した。また、厚労省に取得のための医療機関への支援を行うことを求めた。
 都道府県に対する調査でも、実態把握が低調であることがわかった。
 医師の働き方改革による医療提供体制への影響の把握に関する取組みを行っていると回答した都道府県は6都道府県(13%)で、今後行う予定の都道府県を含めても28都道府県で6割にとどまった。
 また、40都道府県(85%)で、小児・周産期・救急医療体制への医師の働き方の影響が把握できていなかった。

手術情報は個別に同意を得る
 全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大の進捗については、患者の保健医療情報が医師などに共有されることで、通常時に加え、救急や災害時であっても、より適切で迅速な診断や検査、治療などを受けることが可能となる仕組みを構築する方針が説明された。
 2021年7月からは特定健診情報、同年10月からはレセプト記載の薬剤情報を確認できる仕組みの運用が始まっている。今後も、確認できる情報が順次追加される。
 政府の成長戦略(2021年6月18日閣議決定)では、2022年夏をめどに、手術などの情報を追加する予定となっていた。手術のほかに、放射線治療、画像診断、病理診断、医学管理料、在宅医療(在宅療養指導管理料)、処置(人工腎臓、持続緩徐式血液濾過、腹膜灌流)の診療行為のレセプト情報も含む。
 このうち、手術の情報については、健康・医療・介護情報利活用検討会(森田朗座長)の議論により、「どういった情報が共有されるか十分な周知を行うことに加え、機微情報の共有について、特段の配慮が必要との指摘」を踏まえ、「個別に同意を得る仕組みを構築した上で活用する」ことになった。
 これに対し、神野委員は、「なぜ、手術の情報だけ、別の取扱いとするかについては多少違和感がある。機微情報という意味では、画像診断、病理診断などほかのレセプト情報も同じではないか」と指摘した。その上で、「病院はこれまで包括同意という形で、患者から同意を得てきた」と述べ、手術の情報だけを個別同意の形にすれば、別の問題が生じる可能性があるとの懸念を示した。
 また、骨太方針2022原案に、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう「保険証の原則廃止」が盛り込まれたことに対し、方向性としては「妥当」との考えを示した。
 厚労省は、手術情報以外の医療機関・薬局への医療上の共有は、今年9月より予定通り運用を開始すると説明。患者がマイナポータルを通じて自身の保健医療情報を閲覧できる仕組みについても、手術情報を含め今年9月から予定通り運用を開始するとしている。

オン資システムで医療情報共有
 全国的に電子カルテ情報を閲覧可能とするための基盤として、オンライン資格確認等システムネットワークを通じた電子カルテ情報交換サービスの仕組みの報告もあった。医療機関や薬局の間でやり取りする3文書・6情報をHL7 FHIR にデータ変換することで標準化し、オンライン資格確認等システムネットワークで送受信する。
 日本医師会常任理事の釜萢敏委員は、「オンライン資格確認等システムネットワークのセキュリティ対策はある程度整っているかもしれないが、そことつながる医療機関内のネットワークが脆弱な場合がある」と述べ、医療情報の共有化の取組みを進める上で、医療機関のセキュリティ対策とその支援が不可欠であることを強調した。

 

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