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ホーム全日病ニュース(2022年)第1021回/2022年11月15日号地域包括ヘルスケアシステム構築の取組み

地域包括ヘルスケアシステム構築の取組み

地域包括ヘルスケアシステム構築の取組み

【静岡学会・病院のあり方委員会企画】幅広い視点を持つ医療者が必要

 当委員会では「病院のあり方に関する報告書2015-16年版」発刊から5年が経過し、著明な人口減と高齢化のピークを迎える2040年に向けて、どう意識し行動していくべきか検討すべきとの判断のもとに、昨年6月、2021年版の報告書を刊行した。
 「病院のあり方に関する報告書2021年版」における我々の主張の中心が、2040年に向けた理想的な医療介護提供体制としての医療・都道府県主導の「地域包括ヘルスケアシステム」の構築である。
 現在、国は二次医療圏別に医療需要の変化にあわせて急性期・回復期・慢性期病床数を整理する都道府県・二次医療圏別「地域医療構想」と、中学校区にあわせた高齢者の医療・介護・生活・住まいの一体的支援のための市町村別「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。
 しかし、一般住民への周知は著しく遅れており、医療介護提供者も積極的な係わりを持っていない状況にある。そのため、行政管轄が異なり整合性にかけている「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」を、人口推移や高齢化率に加え地域の産業構造などから、一定の生活圏で地域特性に合致し、医療・都道府県主導による「地域包括ヘルスケアシステム」として再構築すべきと提唱し、その構築に向けた取組みについて考えるべく、今回学会の委員会企画のテーマとした。

病院の品質から地域の品質へ
 徳田禎久委員長(社会医療法人禎心会札幌禎心会病院理事長・院長)からは、全日本病院協会における病院のあり方に係る検討と今回の報告書作成の経緯説明がなされ、2021年版報告書の概要とともに、報告書にて提唱した医療・都道府県を中心とした仕組みである「地域包括ヘルスケアシステム」の説明がなされた。
 神野正博副会長(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)からはその実践について説明が行われた。高齢者の増加がピークアウトし生産人口の減少が続く時代においては “人生の質”が求められ、病院には医療の提供とともに患者の生活の場を支えていく使命が生じるが、そのどちらをも支える必要性から「病院のあり方報告書2021年版」の検討過程において「地域包括ヘルスケアシステム」という考え方を真っ先に提唱したことが示された。
 「医療」「介護」「障がい」「健康」の提供のために、その土台となる「情報」「サポート」「生活支援」提供体制を構築した自院の実践を紹介し、「病院の品質」から「地域の品質」へと展開すべき時代となってきたとの認識が示された。
 長谷川友紀特別委員(東邦大学医学部教授)は、現在の日本が経済成長率の低下、人口減少、高齢化、価値観の多様化等を特徴とする「成熟社会」に差しかかっており、顕在化する地域差から、より地域を中心とした政策の必要性を説明された。その中で「地域包括ヘルスケアシステム」の概念が地域の医療を中心とした取組みであることを指摘し、全日本病院協会に可能な役割として、地域における合意形成に携わる人材の育成や好事例の収集・共有が提案された。
 フロアから、「総合医や特定看護師など地域において広い視点を持つ医療者の必要性」について意見が求められ、神野副会長(看護師特定行為研修委員会委員長)から、そういった人材が確かに必要であり病院として確保したいと考えると前置きしたうえで、現実の不足状態に対しては、当面研修プログラム等を活用しながら、自ら今いる人材の中から育てていくべしとの見解が示された。
 また、「地域包括ケアや地域医療構想も地域の実情による進捗の差が顕著であること」について指摘があり、実情が異なるからこそ、より地域の病院が中心となって主体的に地域のあり方を構築していくことが肝要である旨議論が交わされ、「地域包括ヘルスケアシステム」の姿を具現化する必要性が各演者から改めて示された。

 

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