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ホーム全日病ニュース(2022年)第1021回/2022年11月15日号居宅における医療ニーズの把握と提供実態の調査研究

居宅における医療ニーズの把握と提供実態の調査研究

居宅における医療ニーズの把握と提供実態の調査研究

【静岡学会・高齢者医療介護委員会企画】全日病の老健事業の成果と意義

 高齢者医療介護委員会では、老人保健事業へ応募し、調査を行っている。地域で完結する在宅療養を提供するには、デジタル化などによる省力化と、コロナウイルスのような新興感染症への対策が求められる。2021年度は「居住系サービス等における医療ニーズの調査研究事業」と「高齢者住宅の入居者の介護保険のリハビリテーション、機能訓練、訪問看護のニーズ」に応募した。訪問リハビリの提供方法について、美原記念病院リハビリテーション部の石森卓矢様。終の住処である高齢者住宅におけるリハビリ・看護の提供方法について、ケアハウス笠松の郷施設長の田中徹也様から報告いただいた。発表を受けて放送大学客員教授の栃本一三郎先生からコメントをいただいた。以下に発表内容のサマリーを提示する。

訪問リハビリテーションのあり方について提言
 在宅リハビリテーション(リハ)の提供は、医療機関と訪問看護ステーション(訪看)からの訪問が存在する。前者は機能回復を目的とし、後者は看護業務の一環なので、機能分化されるべきである。両者は看護師の配置基準、医師の指示が異なっているが、機能分化がなされているとは言い難い。
 併設訪看のアウトカム調査では、利用者の重症度はADL改善に影響を与えない、発症からの期間や疾患がADLの改善に影響すると示唆された。退院からの期間や疾患という利用者像と目的に対応したリハの提供が、在宅リハの機能を分化させる。そのアウトカムが評価されるような診療報酬・介護報酬の適切な改定が期待される。

グループホームと特定施設における医療と機能訓練の現状
 グループホームと特定施設に、常勤看護師2名の加配および常勤PTを配置したことによる施設利用者に対する効果について前後の比較を行った。
 看護師加配の結果、医療管理能力が向上し入居可能者の範囲が拡大した。その反面、入院が60%程度増加した。しかし退所者数は変化しなかった。
 経験値の高いPTが入所前から継続したアセスメントを行うと、適切な環境設定・移動手段を選定し介助方法の適正化に有効であった。転倒件数は40%程度減少した。
 以上から、在宅施設における医療・リハビリの提供方法は、アセスメントできる常勤専門職の配置によって、入院日数を削減し社会保障費の削減につながる。これが評価される報酬体系が望まれる。

【栃本一三郎先生のコメント】
 高齢者医療介護委員会の特別委員として、御2人の発表を含めて全日病が老健事業によって調査研究を行うことの意義について話したい。
 政策は、さまざまな手続きを経て立案され、立法化され、予算化される。高齢者医療介護分野であれば、介護報酬や診療報酬、基準や通知等によって実施されるが、その根拠となるのが、政策の変更や制度運用の課題を客観的に明らかにする作業である。この根拠づくり、いわば、「エビデンスに基づく政策」という場合の「エビデンス」と「狙う政策のエビデンス探し」という二つのエビデンスが並ぶことになる。いわゆるEBPとPBEだが、これを今日的な英国などヨーロッパの政策立案の新しい考え方として表現すると「参加型調査」や「参加型政策」ということになる。
 地域完結型医療介護、治し支える社会と医療を考えると、地域に根を下ろす中小民間病院と開業医はそれぞれの地域にあった地域包括ケアを実際に進めていく核となるものである。そういった病院および医師と病院のチームによって、医療介護にかかわる報酬の改定や運用の変更を現場で受け止め、現場の臨床や経営を通じてクリティカルに見ていく調査研究は我が国の医療介護領域の政策の適切さを担保するために欠かせないものである。
 報酬改定や基準の見直し、加算等が本来目指したものとは別の副次的な作用が起きることは当然の現象であり、そのことを関係ないと省いてしまう調査は重要な政策上のインプリケーションを無視することにつながる。そのような老健事業による調査研究が多い中にあって、全日病の調査研究は、政策民主主義のためにも異色のものであると評価できる。多様なアクターが自分たちのイニシアティブ(主体性)に基づいて取り組むことが大切である。それが政策民主主義、参加型政策となるために欠かせない。

 

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