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ホーム全日病ニュース(2023年)第1025回/2023年2月1日号オンライン資格確認の導入・普及で診療報酬引上げ

オンライン資格確認の導入・普及で診療報酬引上げ

オンライン資格確認の導入・普及で診療報酬引上げ

【中医協総会】医薬品の安定供給のための診療報酬上の対応も講じる

 中医協総会(小塩隆士会長)は昨年12月23日、オンライン資格確認導入の原則義務付けの経過措置と医療情報・システム基盤整備体制充実加算の取扱い、医薬品の安定供給のための取組みの推進に向けた診療報酬上の加算の取扱いに関して、加藤勝信厚生労働大臣の諮問に対し答申した。また、これらの措置が2023年4~ 12月までの特例措置であることを念押しするなど、5項目の答申書附帯意見をつけた。
 医療DXを推進するため、オンライン資格確認の導入・普及を徹底させる観点から、医療情報・システム基盤整備体制充実加算を期限付きで充実させる①初診時・調剤時の評価の引上げ②再診時の評価の新設③オンライン請求を求める要件の見直し─を行う。これらは特例措置との位置づけで、2023年4~ 12月までの間の措置とする(5面右下の図表を参照)。
 現行の医療情報・システム基盤整備体制充実加算では、マイナンバーカードを活用しない場合(加算1)は4点、活用する場合(加算2)は2点に下がる。今回の対応では、「加算1」を4点から6点に引き上げる。また、再診における評価として、「加算3」(1月に1回、2点)を新設する。調剤管理料の「加算1」は3点から4点に引き上げる(6月に1回)。
 さらに、オンライン請求を求める要件を見直す。現行では、オンライン請求を行っていることが加算を算定する要件となっている。この要件を緩和し、オンライン請求を2023年12月31日までに開始する旨の届出を行っている医療機関・薬局であれば、2023年12月31日までの間に限り、要件を満たしているとみなし、加算を算定できる。
 2023年4月に義務化されるにもかかわらず、オンライン資格確認システムを導入し、運用している病院、医科・歯科診療所、薬局は、2022年12月18日時点で39.1%、義務化対象外の紙レセプトで請求を行っている施設を除くと42.1%となる。病院のみだと52.1%、52.2%で半数を超えている。
 義務化に対応できない「やむをえない事情」が、医療機関などにあると考えられ、今回の対応では、それを6項目に分類して、それぞれに対して経過措置を設けることにした。対応は以下のとおりとなった。
(1)「2023年2月末までにベンダーと契約締結したが、導入に必要なシステム整備が未完了の医療機関、薬局」は「システム整備が完了する日まで(遅くとも2023年9月末まで)」
(2)「オンライン資格確認に接続可能な光回線のネットワーク環境が整備されていない医療機関、薬局(ネットワーク環境事情)」は「オンライン資格確認に接続可能な光回線のネットワークが整備されてから6か月後まで」
(3)「訪問診療のみを提供する医療機関」は「訪問診療のオンライン資格確認(居宅同意取得型)の運用開始(2024年4月)まで」
(4)「改築工事中、臨時施設の医療機関、薬局」は「改築工事が完了するまで、臨時施設が終了するまで」
(5)「廃止・休止に関する計画を定めている医療機関、薬局」は「廃止・休止まで(遅くとも2024年秋まで)」
(6)「その他特に困難な事情がある医療機関・薬局」は「特に困難な事情が解消されるまで」
 最後の「その他特に困難な事業」とは、「自然災害等により継続的に導入が困難となる場合」、「高齢の医師等でレセプト取扱件数が少ない場合(目安として月平均レセプト件数が50件)」を例示した上で、個別判断するとした(4面左下の図表を参照)。
 これらの経過措置の要件に該当せず、オンライン資格確認の義務化に従わない場合は、療養担当規則の違反になる。厚生労働省は、直ちに保険医療機関等の取り消しという手段は取らず、地方厚生局による個別の指導が行われるとの姿勢を示している。
 厚労省は、オンライン資格確認の2023年3月末の状況について、直近の導入ペースでみると全体で58%になるが、システム事業者の対応を最大化させることで74%、さらなる導入加速化で8割を超える導入率を見込んでいる。一方、マイナンバーカードの申請件数は約8,473万枚で人口比67.3%(2023年1月22日)。オンライン資格確認システムは医療DXの基盤になると考えられており、政府は導入に向けた支援に本腰を入れている。

支払側委員が一斉に反対表明
 ただ、12月21日の中医協総会の議論では、診療側がこれらの見直しに、賛意を表明したのに対し、支払側の委員が一斉に反対を主張した。反対の最も大きな理由は、12月21日の2023年度予算編成をめぐる加藤勝信厚労相と鈴木俊一財務大臣の大臣折衝により方針が決まり、21日夜の中医協に、加藤厚労相による諮問が出され、年内の答申が求められるという唐突さにあった。
 健康保険組合連合会理事の松本真人委員は、「このタイミングでの議論は全くの想定外。中医協として丁寧に議論すべき」と訴えたが、通常改定で実施するような公聴会やパブリックコメント募集も行われず、中医協の議論が軽視されることへの懸念を表明した。
 加算の充実にも反対があり、全国健康保険協会理事長の安藤伸樹委員は、「診療報酬の評価は、患者・国民の負担に見合うものでなければならない。患者が現状でマイナンバーカードを活用したオンライン資格確認にメリットを感じているとは思えず、国民の理解を得られない」と述べた。
 一方、日本医師会常任理事の長島公之委員は、「複数疾患を抱える高齢者に適切な医療を提供するには、医療機関等が連携し、面としての機能を発揮し、患者を支えることが求められる。そのためには、患者がかかっているすべての医療機関を網羅した医療情報等を迅速に情報収集することが必要になる。それを個々の医療機関等が問診票で行うことは大変で、オンライン資格確認システムが有用だ」と強調した。
 支払側は、12月23日の総会の議論を経て、答申書附帯意見をまとめた上で、厚労省の提案を受け入れた。附帯意見では、医療情報・システム基盤整備体制充実加算の充実についても、オンライン資格確認の原則義務化の経過措置についても、「延長は行わないこと」を明確にする文言を盛り込んだ。
 また、「患者がマイナンバーカードを用いて、医療機関等を受診することで、健康・医療情報に関する多くのデータに基づいた安心・安全でより良い医療を受けることが可能になるなど、様々なメリットがあることについて、広く患者・国民が理解し、実感できるよう、関係者が連携して周知等に取り組んでいくこと」との文言などをつけた(5面の「答申書附帯意見」を参照)。

一般名処方加算などの引上げ
 医薬品の安定供給問題を踏まえた診療報酬上の特例措置では、診療報酬において、◇処方箋料での一般名処方加算の引上げ◇入院基本料等での後発医薬品使用体制加算の引上げ◇処方料での外来後発医薬品使用体制加算の引上げ─を行う。調剤報酬では、地域支援体制加算の引上げを行う(5面右下の図表を参照)。
 一般名処方加算については、追加の施設基準として、「薬剤の一般名処方を記載する処方箋を交付する場合には、医薬品の供給状況等を踏まえつつ、一般名処方の趣旨を患者に十分に説明することについて、当該保険医療機関の見やすい場所に掲示」を満たしていれば、「加算1」は7点を9点に、「加算2」は5点を7点に、それぞれ2点の引上げを行う。
 一般名処方加算では、交付した処方箋に1品目でも一般名処方が含まれている場合は「加算2」を、後発医薬品が存在するすべての医薬品が一般名処方されている場合は「加算1」を算定することになっている。
 後発医薬品使用体制加算(入院初日)については、追加の施設基準を設定した上で、「加算1(90%以上)」は47点を67点、「加算2(85%以上)」は42点を62点、「加算3(75%以上)」は37点を57点と、それぞれ20点をプラスする。
 施設基準には、「医薬品の供給が不足等した場合に当該保険医療機関における治療計画等の見直しを行う等適切に対応する体制を有していること」、「投与する薬剤を変更する可能性があること及び変更する場合には入院患者に十分に説明することについて、当該保険医療機関の見やすい場所に掲示していること」などを加える。
 処方料の外来後発医薬品使用体制加算についても同様に、施設基準を追加した上で、「加算1(90%以上)」は5点を7点、「加算2(85%以上)」は4点を6点、「加算3(75%以上)」は2点を4点に、それぞれ2点をプラスする。
 薬局においては、調剤基本料で後発医薬品調剤体制加算を算定している場合の地域支援体制加算について、追加の施設基準を設けた上で、加算の種類に応じて、それぞれの点数を引き上げている。
 施設基準では、「地域の保険医療機関・同一グループではない保険薬局に対する在庫状況の共有、医薬品融通などを行っていること」などを追加した。取組みの例としては、「地域の薬局間での医薬品備蓄状況の共有と医薬品の融通」、「医療機関への情報提供(医薬品供給の状況、自局の在庫状況)、処方内容の調整」、「医薬品の供給情報等に関する行政機関(都道府県、保健所等)との連携」をあげ、それを薬局の見やすい場所に掲示することを求めた。
 医薬品の安定供給問題を踏まえた診療報酬上の対応も、 2023年4~ 12月までの特例措置としている。

診療報酬では解決できない課題
 2021年以降、医療用医薬品の供給は、出荷の調整・停止や販売中止が相次ぎ、出荷調整等の影響のために代替となる医薬品の確保などの業務が増大しており、医療機関・薬局・医薬品卸の大きな負担となっている。
 厚労省の安定供給確保に関するアンケート調査(2022年8月末時点)によると、医薬品の「欠品・出荷停止」「限定出荷」は223社1万5,036品目のうち、全体の28.2%、後発品の41.0%で発生した。出荷停止となった1,099品目のうち、683品目が行政処分を受けた7社が製造する医薬品であった。
 医薬品の不安定供給に関する医療機関へのヒアリングでは、入院医療でも「欠品が多く、通常使っている医薬品と異なるため、追加的な説明が必要となり、それでも患者の不安がぬぐい切れない」などの意見が寄せられている。
 後発品メーカーの薬機法違反を契機として始まったこうした問題に対し、厚労省は今後の改善策を示している。具体的には、◇2023年度薬価改定で、不採算品算定の特例を実施した医薬品について、安定供給を製薬企業に求める◇製薬業界と国が連携しつつ、各医薬品の正確な供給状況について、できる限り迅速に把握・提供する取組みを実施する◇安定供給に向けた産業構造を含めた課題について、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で議論する─ことなどをあげた。
 医薬品の安定供給問題を踏まえた診療報酬上の特例措置についても、中医協総会の議論では、診療側が賛意を表明したのに対し、支払側の委員が難色を示した。松本委員は、「医療機関や薬局の業務負担が増していることは理解するが、医薬品供給問題への対応は本来業務なのではないか。最大の被害者である患者・国民に負担を転嫁するのはいかがなものか」と問いかけた。
 これに対し、日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦委員などは、医療機関などにおける現場の苦労を訴え、理解を求めた。支払側は、オンライン資格確認の導入促進のための対応と同様に、「延長は行わないこと」を明確にした上で、厚労省の提案を了承した。
 一方、診療報酬上の対応を行ったとしても、医薬品の安定供給問題は解決しないという認識では、診療側・支払側は一致している。小塩会長は、「薬価や診療報酬では解決できない産業構造、ビジネスモデル、供給体制の再検討が求められている」と指摘した。
 今回の診療報酬改定については、特に支払側から評価の見直しに対する反対意見が出た。しかし、小塩会長が「大臣折衝による政府の決定を重く受け止める」と発言し、決定事項は揺るがないとの状況でもあった。ただ、中医協の議論のあり方については課題が残された。

 

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