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ホーム全日病ニュース(2023年)第1033回/2023年6月1日号二次救急の評価の充実や下り搬送の推進が課題に

二次救急の評価の充実や下り搬送の推進が課題に

二次救急の評価の充実や下り搬送の推進が課題に

【中医協】2024年度診療報酬改定に向け、第8次医療計画をテーマに議論

 中医協総会(小塩隆士会長)は5月17日、2024年度診療報酬改定に向け、医療計画をテーマとした。医療計画の6事業のうち、基本的に5事業(救急、災害時、へき地、周産期、小児)≪※新興感染症発生・蔓延時における医療については別枠で≫をめぐり議論が行われ、特に、救急医療について、診療側の委員から、第二次救急医療に対する評価の充実や、第二次救急医療を含め、救急病院に搬送された後の転院(下り搬送)の重要性を指摘する意見が相次いだ。
 第8次医療計画では、救急医療機関の役割について、第二次救急医療機関が、「高齢者救急をはじめ、地域で発生する救急患者の初期診療と入院診療を主に担うなど、地域の救急医療機関の役割を明確化する」ことが課題とされた。医療機関間では、「転院搬送に必要な情報や受入れ可能な時間帯、搬送方法等について、あらかじめ共有することを通じて、高次の医療機関からの必要な転院搬送を促進する。転院促進を行う場合には、医療機関が所有する搬送用車両等の活用を進める」との方針が盛り込まれた。
 救急出動件数・搬送人員数は、2020年に新型コロナの影響により、若干減少したものの、年々増加傾向にある。年齢区分別では、65歳以上の高齢者の割合が増加している(右下表参照)。
 救急医療体制をみると、第三次救急医療を担う救命救急センターは全国で307施設となっている。年間2,000件以上の救急車を受け入れている第三次救急医療機関は264病院で、第三次救急医療機関全体の年間救急車受入件数の97%を占めており、機能に偏りがみられる。
 一方、第二次救急医療機関は3,060施設。このうち、年間2,000件以上の救急車を受け入れている第二次医療機関が628病院で、第二次救急医療機関全体の年間救急車受入件数の63%を占めている。年間1,000件未満の医療機関で全体の18%を受け入れており、ばらつきが大きいことが指摘されている。
 厚生労働省は、高齢者の増加により、高齢者の救急患者・救急搬送、特に軽症・中等症の患者が増加している中で、第三次救急医療機関が、軽症患者も診療せざるを得ず、重症患者の診療に支障をきたす可能性があると指摘した。特に、第二次救急医療機関を含めた救急医療機関において、単身の高齢者や要介護者の増加により、退院先が決まらずに、病床を埋めてしまう「出口問題」が発生していることへの対応が必要との認識を示した。
 また、高齢者の救急搬送件数の増加に伴い、本人の意思に反した救急搬送も増えている可能性が指摘された。
 これについて、一部の自治体では、在宅医療関係者と救急医療関係者の協議の場を設け、救急搬送時の情報共有ルールの設定や、住民向けの普及啓発の取組みを進められているという。こうした先進事例をもとに、自治体を対象としたセミナーの実施を通じた連携ルール策定のための重点的な支援や取組みの全国的な横展開を推進することにより、人生の最終段階において、本人の意思が尊重される環境を整備していくと厚労省は説明した。
 具体的には、「心肺蘇生を望まない傷病者への対応」を運用要件として定めている東京都(東京消防庁)の事例や、看取り時に「グリーンカードシステム」を通じて、家族が消防署に連絡し、救急車を呼ばずに往診依頼をする静岡県静岡市の事例などが紹介された。

高齢者救急めぐり診療側が発言
 これらの状況に対し、日本医師会常任理事の長島公之委員は、「診療報酬改定では、これまで第三次救急医療機関への評価を充実させてきた。しかし、第二次救急医療機関の評価は不十分であり、救急医療の評価が歪んでしまっている」と述べ、第二次救急の評価の充実を求めた。
 日本病院会副会長の島弘志委員は、「高齢者の救急搬送で、軽症・中等症が多い」という点についての誤解が生じかねないことを指摘した。総務省消防庁の定義では、「重症」が「傷病程度が3週間の入院加療を必要とするもの」で、「軽症」が「傷病程度が入院加療を必要としないもの」、「中等症」が「傷病程度が重症または軽症以外のもの」となっていることを問題視。3週間の入院が必要な場合が「重症」というのは、「現場の実態に合っていない」との見解を示した。
 また、「発症時は重症と中等症、軽症の区別はできず、体制が整備された病院で適切な診断を行った上で、自宅に戻る場合も、入院する場合もある。『症状・徴候・診断名不明確』が多いというが、複数疾患を有する高齢者特有の状況もある」と説明した。
 日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦委員は、「高齢者救急については、語る人が想定するイメージに相当な幅がある」と述べた上で、救急医療のネットワークを地域で構築し、それに応じた評価が求められると主張。全国一律の評価で、救急医療が誘導されてしまうことへの懸念を示した。
 「第二次救急医療機関であっても第一次医療機関であっても、地域により特性がある。地域包括ケア病棟でも受入れが難しい医療機関もあれば、療養病棟で受け入れる医療機関もある。外科系、内科系など得意分野もあり、それぞれが身の丈に合った救急医療を担っていくことが大事だ」と強調した。

レスパイト受入れへの対応が課題
 災害医療については、厚労省から、DMATなど専門的な研修・訓練を受けた医療チームが、現在約2,000チーム登録され、新型コロナの経験を踏まえた新興感染症にも対応する活動を行う体制を整えていることや、災害拠点病院として、64の基幹災害拠点病院と701の地域災害拠点病院が指定されていることなどが説明された。
 長島委員は、「災害医療の診療報酬の評価は、補助金との関係を考慮する必要がある」と述べるとともに、「現行のDPC制度における機能評価係数Ⅱの評価を継続すべき」と述べた。
 へき地医療については、医療計画でオンライン診療を含む遠隔医療の支援を行うとともに、へき地拠点病院の主要3事業(巡回診療、医師派遣、代診医派遣)の実績向上を図るとしている。へき地のオンライン診療は、D to Pwith Nが有効とされており、訪問看護の活用が期待されている。日本看護協会常任理事の吉川久美子専門委員は、専門性の高い看護師が遠隔医療で、へき地の看護師を支援することに意欲を示した。
 周産期医療については、ハイリスク分娩を支援するさまざまな診療報酬の対応がなされ、また、総合入院体制加算で周産期を含む複数の診療科などによる総合的な入院医療体制を評価している。長島委員は、2022年度診療報酬改定で新設された急性期充実体制加算の影響で、「総合入院体制加算の減少につながっている」と指摘。産科の標榜の取りやめにつながる可能性があることへの懸念を示した。
 小児医療については、医療的ケア児が増加している中で、対応する医療機関が訪問看護ステーションなどと連携し緊急入院・レスパイト受入れなどの体制を整備することになっている。診療報酬においては、小児入院医療管理料で、診療情報提供料による医療的ケア児への連携を評価するなどの対応がある。議論では、特に、保護者の負担を軽減するためのレスパイト受入れの推進を求める意見が相次いだ。
 一方、診療報酬でレスパイト受入れを評価することには診療側・支払側の双方から慎重な意見が出た。池端委員は、「診療報酬にはそぐわないかもしれないが、ニーズは大きい。何とか落としどころを見つけたい」と訴えた。

 

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