全日病ニュース
病院がそれぞれの道を選択する時期
新たな航海への羅針盤となる学会に
病院がそれぞれの道を選択する時期
新たな航海への羅針盤となる学会に
【第65回全日本病院学会 in 京都】清水鴻一郎・学会長にきく
第65回全日本病院学会in京都が9月28・29日の両日、京都府京都市で開催される。清水鴻一郎学会長に学会テーマである地域医療構想に対する考えなどをきいた。学会企画については、それぞれの見どころを紹介していただいた(取材日は6月22日)
2025年を目標とした地域医療構想
完結が目前に迫り区切りを迎える
─「地域医療構想前夜」というテーマ設定を含めて、京都学会開催の経緯を教えてください。
全日本病院学会は今回で65回目となりますが、京都府での開催は初めてです。京都府には京都私立病院協会という団体もあり、私はその会長も務めています。通常、5年ごとに記念事業を行っており、今年はちょうど60周年記念です。今回は全日本病院学会の開催地になったので、両者を一つにして、京都府の民間病院が結集する形のイベントにしようと思いました。
京都府には、京都私立病院協会と公立病院が主体の京都府病院協会があり、毎年交互に各会から会長を選出して両会共催で京都病院学会を開催しています。そこでは事務局として、学会開催の経験もあります。
テーマについては、来年は地域医療構想が完結する年です。私が自民党の衆議院議員(2005~2009年)の頃に、小泉純一郎首相による医療制度改革があり、維新の党の衆議院議員(2013~2014年)の頃はちょうど地域医療構想策定を盛り込んだ法案審議がありました。いわゆる厚労族に属して、この間の国政の議論に参加しました。それもあり、強い関心を持って地域医療構想をみてきました。
2025年を目指した地域医療構想の完結が目前に迫り、その立ち位置を見定め、新たな地域医療構想という次のステップに進むために、学会のテーマを「地域医療構想前夜~嵐の中の航海 羅針盤を求めて~」としました。
地域医療構想は病院にとって厳しい面があるかもしれません。しかし、社会状況の変化などを踏まえ、病院が自ら医療機能を選択し、未来の方向性を選択しなければいけない時期に来ています。今回の学会ではそこを深掘りして、民間病院にとっての羅針盤になるような議論が行われることを願っています。
─ 地域医療構想を盛り込んだ法律が成立した頃は、急性期病床を適正化するための手段が地域医療構想と捉える論調があったと記憶します。
急性期病床の適正化という側面は確かにありました。厚生労働省に病床が増えると医療費も増えるという考え方があり、病床規制は1988年に初めて全国的に導入されました。日本の病床数が人口当たりで欧米諸国に比べて多いのは事実であり、それに伴う問題として、病床当たりの医師数や看護師数が少ないことがあります。ただ、それは日本特有の歴史的背景があり、必ずしも悪いことではありません。
一方、急性期病院は多職種連携によるチーム医療で濃厚な医療を提供するので、人員配置を充実させる必要があります。少子化・高齢化、人口減により、人材確保も困難となっていきます。急性期病床の集約化と病床の機能分化により、効率的な医療提供体制を推進しようという方向性で議論が行われていました。
そうは言っても、医療提供体制を急激に変えることは難しいので、一定の時間をかけて到達点を目指すということになります。法律制定の時点では、具体的な方法は決まっておらず、(機能別の病床の必要量の設定などは)その後の検討に委ねられました。地域によっても当然目指す姿は違います。公的病院の役割が大きい地域もあるし、民間病院の役割が大きい地域もある。まさに地域ごとに医療提供体制を構想するのが地域医療構想です。
政府からみれば、病床削減の手段でもあったと思います。過剰病床になると病院経営上の問題もあるので、病院側にも適正化に一定の理解はありました。また、当時私は与党議員でもあり、国の財政状況を考えると、社会保障費の増大は放置できず、そうは言っても地域医療を守らなければならないということで、緩やかな形での落としどころを探していました。
地域医療構想の目標年は、団塊世代が75歳に達する2025年です。75歳を超えると多くの人が何らかの疾患を抱えがちです。2025年を越えると、予想以上の少子化もあり高齢化率がさらに上昇し、人口減少も進み、地域によっては高齢者数も減少します。人材確保が特に深刻になっていきます。
医師に関しては、2024年度から時間外労働規制が施行されました。民間病院にとって、連続勤務時間制限や勤務間インターバル制度により勤務シフトが回らなくなることや、大学病院からの派遣医師が来なくなることが危惧されます。特に救急医療に支障が生じ、救急指定を返上する病院が出てくれば、地域の救急医療体制に影響を与えることになります。
その点で、宿日直許可に現実的な対応がなされ、ほとんどの民間病院が宿日直許可を得ることができたことは評価できます。一定の条件をクリアすれば、時間外労働とはみなされなくなり、当直医の確保につながります。現実的な落としどころを探った結果です。地域医療構想においても同じで、急性期病床をどんどん減らすような急激な変化を起こすのではなく、地域医療の継続性と両立させながら、現実的な対応が図られてきたのだと思います。
機能別の病床については、急性期と回復期で混乱がありました。急性期が過剰で回復期が不足だというので、回復期病床を増床した結果、回復期リハビリテーション病棟がたくさんできました。ところが、名前が回復期でも、回リハ病棟の主流は運動器リハビリテーションと脳血管疾患リハビリテーションです。地域包括ケア病棟などに入院する回復期の患者は高齢化により肺炎や心不全の患者が多いですし、急性期後の患者のすべてが回リハに相当する病期を経るわけではありません。
急性期についても、急性期には機能別には回復期に相当する軽度急性期が含まれていて、全体として回復期病床が不足しているわけではない。一部の地域では、軽度急性期を回復期と取り扱うことによって、機能別の病床必要量の構成割合を地域医療構想が目指す形に調整しています。
地域医療構想は法律に基づく政策であり、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床の構成割合を2025年の病床必要量に合わせることは必要です。しかし、実際には回復期に曖昧さがあったように、例えば、2024年度診療報酬改定で創設された地域包括医療病棟が、急性期なのか回復期なのかをどう整理するかによっても、結果的に調整が図られることになるのでしょう。
大事なことは、患者が切れ目のない医療を受けるために必要な体制を作ることです。特に、医療と介護の連携は重要で、介護を受けている人は何らかの疾患が契機になっている場合が多く、両者のニーズを併せ持っています。6月施行となった医療・介護等の同時改定では、それが重要課題となり、一定の対応が図られました。
─ 医療・介護の連携を含め2040年を見据えた新たな地域医療構想の議論も始まりました。テーマにある「地域医療構想前夜」に込めた意味をもう少し詳しく教えてください。
地域医療構想は2025年で一応の完成を見ます。法律を作り目標達成に向けて10年単位の期間で実行してきました。その間に周りの状況も変化しています。新たな変化に対応するため、現状の地域医療構想のプラットフォームから、2040年を見据えた新たなプラットフォームに移行することになります。その意味では、2025年は中間地点と言えます。それでも一つの区切りを迎えることは確かです。京都学会はその2025年の「前夜」に当たる時期に開催されることになりました。
「嵐の中の航海 羅針盤を求めて」という副題は、2025年を地域医療構想の中間地点として、現在位置を確認し、状況の変化に対応するための新たな地域医療構想に向けた議論を踏まえ、病院の方向性を考える機会にしたいという思いで名づけました。
パーパス経営や医療DX対応
働き方などのテーマでシンポ
─ 続いて、学会プログラムについて順番にお聞きします。学会企画1はテーマである「地域医療構想前夜」ですが、そのほか様々な興味深いテーマの企画が予定されていますね。
学会企画2は「厚労省以外の省庁は医療をどのように見ているか」です。病院関係者にとって、厚労省は理解者であり対峙する相手でもあり良くも悪くも付き合いがあります。一方、予算を決めるのは財務省で、その他それぞれの病院を所管している省庁があります。厚労省以外の省庁が何を考えているのかを知ることは重要です。今回、財務省、公立病院を所管する総務省、全国厚生農業協同組合連合会の病院などと関連がある農林水産省の担当官を招き、議論を行います。
学会企画3は「あなたの病院の魅力ってなんですか?〜パーパス経営と持続的なブランディングの新たな手法~」です。昔は病院が自ら宣伝するのはよくないという風潮がありましたし、広告規制もありましたが、今は宣伝しないと職員が集まりません。病院の大小にかかわらず、他と差別化できる魅力的な特徴が各病院に求められています。ブランド力の確立には、病院のパーパス(存在意義)を明確化して社会に提示するパーパス経営が有効とされています。患者も職員も集まってくる病院になるためのヒントが得られると思います。
学会企画4の「DXで医療がどう変わるか」と学会企画6の「若手病院経営者の皆さん!時代の風を感じていますか?」、学会企画7の「テクノロジーの進化と経営戦略」について、基本的には、どちらも京都私立病院協会関係者の若手に企画作りをまかせているという点で関連しています。時代の変化に対応するために、いずれも避けて通れない課題です。
医療DXは推進すべき課題ですが、システム整備に現場が追い付いてない実態があるようです。体制整備のための財源が病院には不足していますし、サイバー攻撃への懸念もあります。病院で専門家を雇うことは難しい一方で、ランサムウェアに感染した町立半田病院(徳島県)のような事態が生じたときにどう対処したらよいのか。多くの病院にとって深刻な問題です。
AIをはじめとする最近のテクノロジーの進化も、医療界に影響を与えつつあります。対人サービスが中心である医療の経営戦略にテクノロジーをどう応用するかは大変重要な課題です。
学会企画5の「今後の働き方を考える」は、先ほどの話でも触れましたが、2024年度に医師に対する時間外労働規制が施行されました。ただ、働き方改革は日本の労働者全体を対象としたものです。医師の働き方改革がどう見られているのか、あるいは他の業界は働き方改革にどう対応しているのかを知るために、京都府選出の政治家(勝目やすし衆議院議員)、人材コンサルタント、銀行関係者という多彩な演者が登場する予定です。
特別講演1では、日本医師会の松本吉郎会長に「日本医師会の医療政策~地域を面として支えるために~」のテーマで講演してもらいます。また、京都ならではの企画として、「茶は薬用より始まる」(特別講演2)をテーマに武者小路千家・第14代家元の千宗守氏、「ことばの呪能」(特別講演3)をテーマに清水寺貫主の森清範氏の講演があります。清水寺に関しては、9月28日(土)の19時から「一夜限りの特別拝観」を準備しています。
最後に特別企画として、役者の藤原紀香さんと私が対談します。役者と医者の仕事には共通点が多いと私は思っていて、特に失敗が許されない「一発勝負の厳しさ」があります。やりがいや苦労話を含め両者の共通点と使命をあぶり出したいと思っています。全日病学会は2日目の終盤になると、来場者が急激に減ってしまいますので、それを防ぎたいという目的もあります(笑)。
全日病ニュース2024年8月1日号 HTML版
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[1] 2019.10.15 No.950 「矜持 今こそ示せ、医療人のプライド」を ...
https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2019/191015.pdf
2019/10/15 ... 地域医療構想のシンポジウムでは、. 再検証対象の病院の公表に至った経緯. や、病院の選定基準など行政の動向に. 関する報告があった。学会直前の26日. に ...
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[2] はじめに
https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2007_arikata.pdf
を図り、四病院団体協議会*5による医療安全管. 理者養成講習の企画・推進、医療の質に関する. シンポジウムの共催、医療の質奨励賞の設立な. どを行っている。 2006年 ...
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[3] 報 告 書 社団法人 全日本病院協会
https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/other/120412_1.pdf
2012/03/07 ... ... 医療としてはやっていけない、医療としてはここまで許される. べきだと声を出さなければいけません。それから市民団体などが参加した公開シンポ. ジウム ...
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